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-30- 藤井くんの方が先に誘ってくれたし

 隣接している公園には、祭りなので、様々な露店が立ち並んでいる。たこ焼き屋や綿菓子屋といった定番のものから、ホットココアや豚汁といった冬ならではの暖かな店も出店していた。


 流石にかき氷屋は無いだろうと思った矢先、


「藤井くん、かき氷屋があるよ!」


「えっ……本当だ! 誰が食べるんだろう?」


「夏に暑いモノを食べて暑気払いするから、その逆も有っても不思議じゃないよね……」


 とは言うものの、身が凍えるような寒さの中で氷を食べようという物好きはいないのではと思っていると、一人の女性が、かき氷屋の店の前に立ち注文をしたのである。


 興味津々に様子を覗っていると、見覚えがある人物――


「ん? あれは……!?」


 マギナが大盛りのかき氷を美味しそうに食す姿を見て、こちらの頭がキンキンと痛くなってくるようだった。


(見守ってくれるんじゃなかったんですか……)


 爽太の呆れた視線に気付いたのか、マギナがこちらの方に顔を向けるとテレパシーで、


(大丈夫。何か有ったらすぐに駆けつけるから、爽太たちも祭りを満喫しなさいよ!)


 と、伝えてきた。


「うわー、綺麗な人だね、あの人」


 傍から見ればパリコレに出てきてもおかしくないモデルのようなマギナに、稀衣は憧れの眼差しと共に、寒い中でかき氷を美味しく食べるマギナを不思議そうに見つめた。


「そ、そうだね。でも、あんまり人をジロジロを見るのは失礼だから、先に行こうよ」


 爽太はマギナから一刻でも早く離れるように先へと進み、その場を後にしたのであった。

 その後、二人は……特に稀衣は、建ち並ぶ露店を興味津々にと眺め周っていた。


「もしかして、尾林さん。お腹空いていたりする?」


「あ、いや……。そうでもないけど……」


 女性と二人で出掛けている。ここは男性としての甲斐性と礼儀を見せるべく、


「何か食べたいものでもある?」


 ふと見渡しても、露店の売り物の価格ならば、どんな注文でも応えられるはずだ。稀衣の好みは甘い物だと把握している。クレープやお汁粉も予算以内に収まる。


「今は別に、かな。そんなにお腹も空いてないし」


 爽太の気づかいを、稀衣は両手の平を振って丁重に断った。

 やっぱり異性と一緒に居るとなると、いつもと様子が違う。


 ケバブ屋に展示されている肉塊を見て心躍るものの、胸が一杯で食欲が沸かない。女子だけだったら、屋台巡りの食べ比べをしているに違いないはずなのに。


 チラリと爽太の横顔を見る。

 つい二週間前までは、よく知らなかった男子。


 だけど親身になって相談して貰ったりして、こうして祭りで一緒に出掛けるまで親交を深めてしまった。


 稀衣も年頃の乙女(女の子)なのだ。傍から見れば、デートをしているのに見えるかも知れないと思うと、緊張の一つもするし、意識せざる得ない。


「なんかね。こうして男子と……藤井くんと一緒にいるだけで、違った景色に見えるな~って」


「そ、そう?」


 爽太は爽太で緊張している。稀衣と一緒にいるのと以外に、いつ命の危険な事態が訪れるのか解らないからだ。

 これまでの経験上、突然、強盗に襲われたり、車が突っ込んできてもおかしくはない。ボディーガードのように辺りを警戒しつつ、護衛しながら人混みの中のを進んでいく。


 稀衣の予知夢は、ある程度思い出して貰っていた。事故や病気、そして誰かの手によって殺害される夢を見たという。予知夢が当たるとしたら、今回は事故に遭うよりも、誰かに殺害される可能性の方が高い。


 なのに、わざわざの大勢の人が集まる場所に来たのは失敗だったと、今になって反省する爽太。だが、かといって、誰も居ない公園などに誘うのは論外であっただろう。

 異性を誘う理由、異性と出掛ける理由……色んな事情を考慮すれば、祭りのようなイベントに誘うのは流れ的にも、事情的にも、必然的だ。


(そんなに気負ってないで、デートを楽しみなさいよ)


 突如、頭の中にマギナの声が響く。テレパシーだ。


(ちゃんと私も、注意して辺りを見ているのだから、爽太は気兼ねなく、男女の交際を勤しみなさい。ほら、手でも繋ぎなさいよ)


(う、うるさいな!)


(あらあら。初々しいことで)


 マギナの言葉を鵜呑みした訳では無いが、爽太はチラっと稀衣の手の方に視線を向けた。

 人混みで逸れないように手を繋いだ方が良いが、そんな度胸は無くて、気恥ずかしさもある。その代わりになるべく歩幅を遅めては、稀衣の側から離れないようにしていた。  すると――


「あっ! か、隠れよう。藤井くん!」


「え? あっ?」


 稀衣は爽太の手を掴み取って、近くの露天の物陰に身を隠した。

 突然の行動に、流石の爽太も理由を把握できなかった。


「ど、どうしたの?」


「えっとね……」


 稀衣の視線の先には、友達の右田水愛みぎた・みあ。他にも数人の同級生たちの姿があった。


「実は、今日のお祭りにミアちゃんたちにも誘われたんだけど、仮病で断ったの……」


「えーと、それって……」


「だっ、だって、藤井くんの方が先に誘ってくれたし……」


 頬をほんのりピンク色に染めて、稀衣は答えた。


「えーと、つまり、それは……」


 仮病で断ったのだから、稀衣がこの場に居てはマズイ。今ごろ稀衣は、家のベッドで眠っていると友達は思っているだろう。ここで見つかってしまえば、友達と気まずくなってしまう。


 伊河市民の大半が集まる冬の一大イベントである祭り。自分たちが来るのだから、同校のクラスメートが来ない理由は無い。これから暗くなり、人も増えていき、見つかり難くなるはずだが、今みたいにバッタリと遭遇する可能性はある。

 そこで爽太は、


「ちょっと待ってて……」


 自分のスマートフォンを取り出して、クラスメートのSNSを観覧した。


「待ち合わせ……興味がある場所……オススメ……誰と……」


 まるで現代人の宿命かのように、ソーシャルメディアの日記やツイートに予定や現在の様子を記載しているので、先見の明の条件は揃っており、予見しやすかった。


「……よしっ! 尾林さん、向こうに行こう」


 クラスメートが行きそうな場所を予見して、遭わないルートを選出した。


 人混みの中を進んで行く中、爽太は今の心模様を現すように足取りが軽かった。友達よりも、自分の方を優先してくれたことが嬉しかった。

 そして、爽太が稀衣の手を掴んだままだと気付いたのは、特設ステージに着いてからだった。


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