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-29- 近く寄り過ぎたかな……

 何気に吐く息が真っ白だった。


 今年一番の冷え込みだと、家を出る前に見た天気予報が述べていた通りで、今年一番の寒さらしく、今にも雪が降りそうな空模様で、空気はキンキンと冷えており、耳に痛みを感じていた。だが、爽太の体感的には熱いくらいだった。間違いなく緊張で興奮している自分が居た。


 何度も過去に戻ってやり直してきたが、稀衣と二人きりで出掛ける出来事は初めてだ。元より、爽太が異性とデートするのは初めてのことだった。

 ポケットに中に入れている手には汗が浮かんでいては、心臓の脈も普段よりも高鳴っていた。


 爽太は稀衣の家へ迎えに行く……といっても既に到着しており、いつ訪れるか解らない死を回避するべく監視していた。


「なにそんなに緊張しているのよ」


 マギナは傍から見ればストーカーまがいの爽太に、リラックスさせるために声をかけた。


「いや、その……まさか、自分が尾林さんに誘うなんて思ってもいなくて……」


「何をいまさら……。あの子(尾林稀衣)の運命を変えるためには、出来る限り前の時とは違う展開を起こさないといけない訳だし。あの子の近くに居た方が予見がし易いんでしょう」


 ただ、それだけの理由ではないと、マギナも爽太も自覚していた。


「そろそろ時間ね。私は邪魔にならない程度に離れて見ておくから、何か有ったらいつものように、すぐに駆けつけるからね」


 マギナはそう言って、天高く飛んでいった。


 その場に残された爽太は一息吐いて、稀衣の家へ行きつつ、インスタントメッセージで連絡を入れた。


 暫くして稀衣が家から出てくると、すぐに爽太を見つけては足早に駆け寄ってきた。

 稀衣の服装はふわふわのダッフルコートをまとい、インナーは白ニット。紺色のマフラーがアクセントになっていて、良く似合っており、爽太の体温が一度ぐらい上昇したようだ。


「えーと、こういう時は、なんて言うのかな?」


 と稀衣が言った。


「こ、こんにちわ、とか?」


「それはそれで、なんか余所余所しいね」


 稀衣も男子と二人きりっで何処かに行く経験が無く、どことなくドギマギしていたのであった。

 冷たい風が吹き抜けてくる。


「……寒いし、さっさと目的地に行こうか」


「うん、そうだね」


 二人はバス停まで、暮れなずむ中をとぼとぼ歩いたのであった。

 爽太たちが暮らす伊河市では、この時期――十二月二十四日には冬のお祭り―冬のファンタジー―が開催される。冬に花火が打ち上げられるイベントで、地元民だけではなく観光客に人気があった。


 バス停に着くとタイミングが良くバスもやってきた。乗ると、バスの席が全て埋まっており、この乗客のほとんどは、おそらく祭りの開催地である海水浴場が隣接されている公園へと向かっているのだろう。


「あ、花火を見るよね?」


「せっかく冬のファンタジーに行くんだから、花火を見ないと意味がないでしょう」


「だったら、帰るのが遅くなるけど大丈夫?」


「うん。遅くなったらタクシーで帰ってきなさいってお母さんから言われているから大丈夫だよ」


「そうか……」


 何気ない会話が心地よかった。これまで予見の為に情報を得る聞き取りばかりの会話だったからだ。


 だが油断してはいけないと、身を引き締め。バスが事故を起こす予見をするかも知れなかったからだ。


 事故などの急停車に備えて、爽太はしっかりとつり革を握りしめ、稀衣を受け止めるように側に寄ったが――


「あっ」と稀衣は一歩後ろに退いてしまった。


(近く寄り過ぎたかな……)


 爽太は熱を帯びてしまい、上着を脱ぎたくなった。


 そうこうしていると、バスが停まり、目的地――伊河海水浴場前に着いたのだった。


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