-27- ごめん……尾林さん
再び爽太たちは過去に戻ってきた。
またコンピューター室で、稀衣が目の前に居た。
爽太は思わず顔を下に向ける。直視出来なかった。
「ど、どうしたの?」
特異点の所為ではあるが、予見が外れてしまい何度も死に目に遭わせてしまい、気がとがめてしまう。
「ごめん……尾林さん」
「え?」
突然の謝罪に首を傾げる稀衣。
「……残念だけど、未来が見えなかったよ」
「えっ……あ、そうなんだ……」
稀衣も爽太と同じように気落ちしてしまう。
「……だから悪いけど、もうちょっと尾林さんのことを詳しく知りたいから、暫くは尾林さんの側に居てもいいかな?」
「え? それって、どういうこと?」
「さっきも言ったけど、未来を知るためには様々な情報が必要なんだ。まだ尾林さんのことはよく知らないから。少し尾林さんの行動とか観察すれば、きっと予見できると思う。予見できたら教えるから」
「ん~そうなの? うん、解った。未来を知るには、そのぐらいしないとダメなんだね」
「う、うん……まあ、そうかな。そうだ。さっきの話しで、七日間連続で自分が死ぬ夢を見たって言っていたよね。具体的な内容は思い出せない?」
「ん~~、子供の時に見たっきりだから」
「例えば……っ!」
これまでの稀衣の死因を話そうとしたが、マギナは自分の顔の前で人差し指を立てて「シ~」と口を噤むように示す。
爽太とマギナは事前に相談して、稀衣には予見した内容を伝えないように取り決めていた。これまで予見した内容を伝えたから、違う運命が発生してしまったのではないかと考えた。
爽太が未来を予見して、マギナがギリギリで回避させる為に行動を取るようにしたのである。
「そうか。そうだよね……。もし思い出したら教えてくれないか。きっとそれが、予見を見る為の鍵になるかも知れない、から」
「そうなの? うん、解った。出来る限り思い出してみるね」
マギナは稀衣が見た自分が死ぬ夢に懸念を持っていた。不思議なことに、これまで二回とも夢の内容と合致していた。
(もしかしたら、この子が見た夢は本当に予知夢で、万物の精神が定めた運命の道筋なのかもしれないわね)
爽太は、ふとパソコンの時計を確認した。
「そろそろ、友達から連絡が来るね」
「えっ?」と稀衣が声をあげると、鞄からメロディが鳴り響いた。
稀衣は驚きながら鞄の中から携帯電話を取り出す。
「あ、ミアちゃんからだ。えー……あっ! 藤井くん、どうして解ったの? 連絡が来るのを?」
「いや……そこは、予見で解っていたから……」
「へー凄ーい!」
一応、爽太の予見が本物だという証明を示しておきたかった。
「それで友達からは、なんて?」
「えっとね……あ。ごめん、藤井くん。友達から呼ばれちゃって……。その、今日はここでお開きになっちゃっても大丈夫?」
「ああ、別に構わないけど……。そうだ、その……尾林さんのインスト(インスタントメッセージ)のIDを教えてくれないか。その、何か有ったり、夢を思い出したりしたら、すぐに連絡できるようにと……」
「……うん、良いよ。それじゃ、藤井くんのID交換しよう」
「ああ」
爽太は自身の携帯電話機を取り出すと、インスタントメッセージのアプリを起動させた。
プリインストールアプリされていたが、今まで使用していなかったので扱いが不慣れだったが、無事稀衣との連絡先を登録し合った。
「何か思い出したら、すぐに藤井くんに連絡するね。今日は本当にありがとう。こんなことを真剣に話しを聴いてくれたのは藤井くんが初めてだから、気持ちが楽になったし、すっごく嬉しかったよ! それじゃーね!」
稀衣は無邪気に手を振りつつ、退出していった。
残った爽太は、インスタントメッセージのアプリの連絡帳に、ただ一人登録されている稀衣の名前を見た。
新鮮……というより違和感があった。
「さてさて、爽太。惚けている暇は無いわよ」
とマギナが不躾に突っ込んでくる。
「ほ、惚けてなんか無いよ!」
「これから、あの子……尾林稀衣を注視して、予見していかなければいけないんだからね。それで、死因を排除したり回避していかないとね」
「上手く行くかな?」
「あの子が生きる未来を作らないと、世界が滅びるかも知れないからね。なんとしてでも、なんとかしないとね」
マギナは爽太の頭を軽く撫でて、コンピューター室から出て行こうとする。
「前回と同様に私は尾林稀衣を監視するけど、逐一爽太に連絡を入れるわね」
「うん、解った。本当は自分も行った方が良いけど、この後、勢川先輩がやってくるから」
話していると、コンピュータ室のドアが開き、コンピューター部の部長・勢川が入ってきた。
「おう、藤井。来ていたのか」
「勢川先輩、さっさと引き継ぎをやりましょう」
「お、おう。なんだ、えらくやる気だな?」
「いえ……ちょっと用事が出来たので、早く終わらせたいと思って」
「なんだ、そんなことか。まあいいよ、それじゃ藤井。共有フォルダの中に入っているものについて教えるから、ちょっと来い」
「はい」
爽太はマギナに視線だけを向けると、マギナは片手を挙げて退出していった。ただ、前回も前々回も直近は何事も起きずに大丈夫だったが――
「いや、そう思い込みが予見をする上ではダメだ。周囲の出来事や情報を精査し続けないとな」
「どうした、爽太?」
「あ、いえ。それで、共有のこの連絡フォルダーが各先生たちのドキュメントなんですよね」
「おお、そうだけど……あれ? これ説明したっけ?」
既に二回も教えて貰っていたので、早く終わらせたいが為に先走ってしまった。
「ええ、前にチラッと」
「そうか……。まあ、はかどって良いか」
勢川は特に気にせずに、爽太に引き継ぎ業務を教えていったのであった。




