-24- そういう日本人の美徳は好きよ
「どういうことだ……?」
尾林稀衣の死を知ったのは、冬のファンタジーというクリスマスイベントの喧騒が終わった十二月二十六日。暇つぶしにSNSサイトを観覧していた時、クラスメートのSNSページにて稀衣が亡くなったことが書き込まれていたのを見つけた。
死因は家の階段から足を滑らせて頭を強打してしまい、打ちどころが悪くそのまま絶命したという。
稀衣の死の原因は予見した未来とは違う結果だった。
だが、死んだしまった未来は変えられなかった。
二十五日は雪が降っていた。雪の日は出歩かない方が良いと忠告しており、稀衣は言うとおりに家に居たのだろう。
もしかして、それが――自分が命を奪ってしまったのではないかと自責の念にかられ、ましてや、かつて友達(竜也)の死を予言をしたのに死んでしまったトラウマが蘇えり、吐き気を催したと思ったら、視界がブラックアウトした。
***
『雪が降っていたから……雪の日は注意して車通りが少ない道を歩くか、雪の日は外出しない。そうすれば、スリップ事故から免れて、尾林さんが死ぬのも免れると思う』
『大丈夫だよ。確かに人は死んでしまう。それは変えられない運命なのかもしれないけど、“いつ”死ぬかは変えられる。気を付ければ、危険を回避することは出来るよ』
稀衣に忠告した言葉がリフレインしてきた。
周囲は暗闇に包まれて何も見えない。
突然、自分の隣に血まみれになった稀衣が出現し、
「どうして? どうして、私、死んだの? 藤井くんの言うとおりに、家に居たのに……」
恨み言を囁いた。
爽太は稀衣から逃げるように必死に走った。
だが稀衣を引き離せずに、ずっと隣に付いてきていた。
稀衣だけではない、命を救ったはずの児玉久美も現れては、爽太の足を掴んできた。
そして――
***
「うあッッッッッーーーーー!」
叫びと共に目蓋を開くと、眼前にマギナの顔が在った。
「ヤッハロー! 悪い夢でも見ていたようね」
「……夢?」
「落ち着くまで、こうしてあげるから。暫くゆっくりしてなさい」
「……うん?」
少し落ち着いたところで、後頭部に柔らかい感触が伝わる。
爽太はマギナの柔らかく気持ちのよい膝枕にして寝ていたのに気付き、先ほどとは違うトーンで「うわわわわ!」と慌てて飛び退いた。
マギナはそんな爽太の行動で、もう大丈夫だと判断して、机の上に置かれているパソコンのモニターの方に視線を向けた。画面には、さっきまで爽太が見ていたSNS……稀衣の死について記載されていたページが映っていた。
「……あの子(稀衣)が、亡くなったみたいね」
暫しの沈黙の後、
「どうしてこんなことに……。確かに、尾林さんは車の事故で命を落とす未来を予見したのに……」
爽太は力無く呟いた。
尾林稀衣とは友達でもなければ、知り合いという関係ではない。ただ、予見して欲しいと言われて、予見した内容を教えただけに過ぎない。
だけども、予見しようとしたのは、ちょっとした人助けのつもりだった。それが救えなかったことに、強く責任を感じていた。
マギナは慰めるように慈愛の眼差しを爽太に向けていた。
自分の所為で他人の不幸を招いてしまったことに苦しむ――その姿勢は、日本人の多くが持っている思いやり。
(そういう日本人の美徳は好きよ)と、マギナは心の中で呟いた。
「……そんなに落ち込まないの。死亡回避できなかったのは珍しいことだけで、何の為に私という存在が、ここにいると思っているの? 前にも言ったでしょう。失敗したのならやり直せば良いじゃない」
「やり直すって……まさか!?」
「そう。児玉久美の時のように、メモリーリストアで、あの子(稀衣)の運命を変えてあげましょう!」
久美を助けた経験……気持ちが、爽太の心を奮わす。今はマギナが居る。
「……マギナ、お願い出来る? また過去に戻って、尾林さんにこのことを話せば、回避できるはずだ」
「ええ、良いわよ。それじゃ戻るとしたら、あの子(稀衣)に未来を教えてあげた時で良いかしらね」
「尾林さんが転ぶ直前じゃなくて?」
「私の方でも、ちょっと気になるところが有るから、その確認ついでにね」
どちらにしろ過去に戻って、命を救えるのであればと、爽太はマギナの提案に頷いた。
「それじゃ、さっそく行きましょうか。綴られた記憶を思い返し……(スタフセットミニーフッサフーリターン……)」
マギナが呪文を唱えだすと、いつか味わった感覚が爽太を襲い、やがて意識が途切れていったのだった。




