-19- 機械仕掛けの魔女 (マギ・エクス・マキナ)
「……なるほどね。それは盲点の方法だね。万物の精神に関与されない存在になる。確かにそれなら時間を移動出来るかもしれない……いや、成し遂げたか」
勝手知ったるお師匠の庵にて、事情を詳細に話した。相手も魔女。私のことを信じて、全てを理解した。
「けど……あんたは馬鹿の子だよ。人間としての一生を捨て去るなんて……」
万物の精神に関与されない存在になるために、別の存在になる。つまり、それはただの人間ではない存在になったということだ。もちろん、お師匠に言われるまでもなく認識していた。
「でも、魔女になった時点で普通の人間ではなくなっていますから、それほど違いは無いと思いますが?」
「万物の精神の内に居る限りは人間だよ。超常な能力を持っていたとしてもね。まあ、何を言っても、もう遅いね……」
お師匠は小さく息を吐き、人間でなくなった愛弟子……私に哀れそうな視線を向けた。
「それで、これからどうするんだい?」
「自分の運命を変えることが出来ました。なので、本来の目的である……世界を滅亡から救ってみようかと思います」
「神になるつもりかい?」
「そんな大業は……いや、世界を滅亡から救うというのは、そういうことかも知れませんね」
「何にでも出来るほどの力を有して、自分を神と勘違いするものだ。それで幾人の魔女が悲劇な行く末を辿ったか」
「ただ、私は……長く生きられる身体になってしまいました。私だけが生きていて、世界が滅亡して誰も居なかったら寂しいじゃないですか。それが嫌なんです」
シンプルな魂胆であったが、純粋な考えでもあった。
お師匠は、これ以上問答をしても埒が明かないと察して、押し黙った。
拾ってくれたば彼か、魔女として育ててくれた礼の義理として、知識の教示を伝え終わったので、私は去ろうと立ち上がった。
「それでは、お師匠様。私は、これで失礼します。私を拾ってくださり、魔女に仕立てくれてありがとうございました」
深く頭を下げて、そそくさと、その場を去ろうしたが呼び止められる。
「お待ち。お前さんを拾って世話した記憶は無いが、選別代わりに、あだ名を付けてあげるよ」
「あだ名をですか?」
「名が無いと不便だろう。そうさね。まるで神のように……うむ。機械仕掛けの神……いや、魔女。機械仕掛けの魔女ってのは、どうだい?」
「機械仕掛けの魔女……とても素敵な名前です」
個人的には、このあだ名を授かったのが、とても愉悦に感じていた。
父と会った時に自分の名前を教えて貰えば良かったと思ったが、あれはあの子(別の私)の名前。
たとえあだ名といえ、名前が付けられて初めて自分の存在を強く実感した。
――機械仕掛けの魔女――
だけど、名前が長いからと言って、やがて“マギナ”とも呼ばれるようになった。
お師匠様と袂を分かれてから、世界中を巡り、様々な人間や他の魔女にも出逢い、幾千の時を超えただろうか。世界の滅亡を回避させるために、何百何千と改変を行った。
だが、解決させる根本的な手段を見出だせていない。様々な争いの種を根絶させたり、滅亡となるキッカケを前を持って消失させたりしても、多少のズレを発生させるだけで、別の原因が出現していずれ世界は滅亡してしまう。その度に過去に戻り、歴史改変をした。
滅亡を救うことは、不可能では無いはずだ。
どんな優れたシステムでも穴(欠点)は存在する。抜け道が必ずあるはずだ。自分自身を別の存在にすることによって、不可能だった時間移動を可能にしたのと同じように。




