-17- もし私が両親に捨てられなかったら
「もし私が両親に捨てられなかったら、どんな未来が有ったのだろうか……」
お師匠から外出を許された時、まず始めに自分の両親を見つけようとした。
私が捨てられた森から二日ほど離れた所に小さな農村があり、そこに両親が居たそうだ。いわゆる故郷になるはずだった場所。
しかし私が訪れた時は、既に村は廃れており両親は居なかった。調べた限りでは、別の村に移住したのだが、そこで流行病(黒死病)にかかり命を落としたという。墓など無く、親の名残は一切残っていなかった
その現状に、特に悲しいや寂しいなどの感情は沸かなかった。当然だ。親の記憶が無いのだから、慕情たる思いを抱いてはない。
だけども――
私が十七歳の時。精神や身体、知識が程よく発育した頃。独立を許されて、お師匠の家から少し離れた土地に自分の小屋を建てて、四六時中思案していた。
「自分の運命も変えられないのに、世界の運命なんて変えられる訳が無い」
世界の運命を変える為に、まず己の運命を変える。その為に過去を改変しなければならない。
自分が存在している世界の記憶帯ならば、精神を移動させられるが戻したとしても、赤子の時では自由に動くことも言葉も発せられない。ましてや精神衝突が起きて、魔女の知識や記憶が消失してしまう可能性がある。
精神衝突を回避する為には、絶対に消失させたくない精神に保護をかけるような手立てが必要ではあるが――
もし、過去の……赤子の自分を救えるとしたら、やはり少し大きくなった自分自身が関与しなければどうにもならないだろう。
やはり、精神ではなく身体……自分自身を時間移動させる方法を考え出さなければならなかった。
「同一の物質が同じ世界に存在してはいけない……出来ない……。なぜ、同じ物質が存在してはいけないのかは、万物の精神に存在しているのが原物だけだから……ならば、私自身が私……原物で無くなれば、万物の精神の影響を受けないのでは?」
つまり、今の私を“私A”とすると、分解再構成して“私B”という全く別の私を創りだすということだ。言うならクローンのようなものだろう。
「一旦、自分を分解し、再構成する。この再構成する時に同一の存在ではなく、全くの別の存在として再構成出来れば……」
前述のPCのシステムで説明したが、同じファイル名だと警告されてしまうが、一文字でもファイル名を変更したり、「(2)」といった名を付記すれば回避できる。
だが、人間を複製……ましてや、同じのようで同じではないように構成するのは容易ではない。例えば血液のA型をB型に変更するとしたら、身体(臓器)をその血液型に合った(適した)身体にしなければならない。神の如く、人間自身を創りださなければならないのだ。難易度は、まさに神のみぞ知る。
「簡単じゃないだけで可能性が有るのなら、試す意義が有るのよ!」
まずは、私の複製人間を創ることにした。
もちろんただの複製では駄目である。要点は、万物の精神に存在しない存在でなければいけない。本来自身の複製人間を創るとしたら、自分の髪や骨や細胞といった一部を媒介にする手法があるが、それでは同じ物質(DNA)となってしまう。違う物資で構成しなければならない。
複製人間を創る自体は容易ではある。だけど、数多の魔女たちはホムンクルスという人工生命体を作り出しているが、形(身体)を作れても生命を作り出せていない。言わば、もぬけの殻なのだ。
生命……魂は、万物の精神と繋がっていなければ機能しない。ここが一番の難題である。
ゼロから魂を創り出すのは、どうしても不可能だった。
「魂となる精神は万物の精神でしか創れない……。いや、そもそも魂というのは創られるものではない。身体は出来たけど、肝心の魂が出来なければ、時間移動した時に衝突してしまう……」
他の魔女が生み出したホムンクルスの例で言えば、別の魂を代替するのが多々だった。空っぽのホムンクルスに魂を転移や憑依させたりして、生命を与える方法だ。上手く魂が癒着しなかったりする場合もあったり、癒着したとしてもゾンビのようなただ生きるだけのモノになってしまう。
「いや、ここは私の魂を使用しても良いのかも……。懸念である精神の衝突は、保護をすれば良い訳だし。その保護の方法は……」
大きな水晶に閉じ込めた“自分のクローン”を見ながら呟いた。
試行錯誤で失敗の毎日だったが……私は成し遂げた。
自分の魂を“クローンの自分”に憑依させて、私であり私とは違う別の自分に成ることが出来た。
外見……見た目は、どこからどう見ても私だが、前までの私では無い。細胞の一つ一つが別の物質で構成されており、不老の方法も取り入れている。
老化というのは身体の細胞の劣化である。新しい細胞が作られる度に、細胞は少しずつ劣化していくのだった。そこで成長させた細胞を、ある時期を迎えたら逆行させるように身体の仕組みを変えたのである。
つまり、十七歳から一年の月日が流れて十八歳になったら、そこで十七歳への細胞を戻していくのである。一言で言えば、十七歳と十八歳の間を往復している。
こうして私は、永遠の十七歳として生きることになった。
「さて。理論上では、私は別の存在になったから、同一の存在として認識されないはずだけど……」
準備は整った。あとは過去に移動するだけ。
もし失敗したら、同じ世界に同物質と衝突してしまい存在が消滅してしまう。テストは行えない、ぶっつけ本番のみ。
だけど私に迷いは無かった。
「まあ、ここで失敗しちゃったら、私の運命もここまでだったことよ。女は度胸ってね!」
精神を統一して、呪文を唱えだす。
複雑な模様の大小の魔法陣が幾重も浮かび上がる。お師匠が石を転移させた時と違って、今回は人間なのだ。複雑さは雲泥の差ではある。
やがて身体から青白い光が発させられ、光の粒子となり天へと昇っていく。
精神……意識はハッキリしていた。万物の精神へと流れ込んでいき、激流の川を泳いでいるように過去の記憶を辿っていったのだ。




