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-13- この世界の秘密を知る覚悟はあるかしら?

「……はっ!」


 爽太は正気を取り戻したが、グワングワンと頭が揺れて響いている。眩暈がして、まともに立っていられなかった。


 暫しまぶたを閉じて落ち着いて所で、ゆっくりとまぶたを開く。今居る場所が自分の部屋だと認識した途端、これまでの出来事……魔女と出逢い、久美を救うために記憶改変したのを思い出した。


「やっと返ってきたわね」


 声がした方を振り向くと、自分の机の上に腰を落として、「チャオ!」と言いたげそうに手を振っている絶世の美人がいた。


「ま、魔女さん……あっ! ちょっとそれを貸してください」


 爽太は魔女が持っていた卒業アルバムを奪い取ると、破ってしまうのではないかと思うぐらいに勢い良くページをめくった。


 集合写真の中に児玉久美が立っている姿を見つけると、爽太は全身の力が抜けて膝を着いた。


 他の写真にも久美が写っていた。文集ページでは『久美ちゃんとは中学校に行っても、高校に行っても、いつまでも仲良くして行きたいです!』と書き換わっていた。


 より久美の生存確証を得るために、爽太は自分のスマートフォンを取り出すと、久美のSNSを見つけては、日記などを確認した。久美は鶴見ヶ丘高校に通っているようだ。


 ようやく久美が生きている実感をして、安堵の息を吐いた。


「どうかしら、実際に歴史……過去を変えてみて?」


 妙な感覚があった。スッキリとしない違和感。久美を救うために歴史を改変した為のシコリのようなものだろうか。久美の命を救ったというのに、自分自身に、先見の明に対する忌が拭いきれなかった。


 ふと、転がっていた卒業アルバム……卒業文集のページで『この六年間で一番ショックだったのは、竜也くんが亡くなってしまったことです』の一文が目に入った。


「竜也くん、が亡くなった……っ!」


 竜也は、とても仲の良い友達――で、小学五年生の時に階段から滑り落ちて亡くなった。その死も直前に先見の明で見えて忠告したが、竜也は冗談だと思って鵜呑みにせず最悪の結果が起きた。そして竜也の死を宣告したのが切っ掛けで、クラスメートから避けられてしまい、孤独となった――記憶が次々と彷彿されていく。


 爽太は困惑した瞳を魔女に向けた。


「なるほどね。そういう風に修正されましたか」


「それは、どういう意味……?」


「そういう運命だったということよ」


 雑把過ぎる一言だった。無論、解る訳が無い。詳細を求めようとした時―魔女は微笑んだ。


「詳しく話す代わりに、君は、この世界の秘密を知る覚悟はあるかしら?」


 重々しく冷淡な声だった。記憶改変という、まさしく歴史を変えた大所業を誘った時の軽い雰囲気は何処へやら。


「世界の秘密?」


 知るしかない状況だった。これまで異常で不可思議で奇奇怪怪な出来事ばかり体験している。久美を救えたのに、他の…竜也が死んでいた理由を純粋に知りたかった。


「この世界や生物は、万物の精神によって成り立っているの」


「万物の……精神?」


「万物の精神には、この世の全ての事象が記録……運命づけられている。私たちの世界は、その万物の精神をなぞっている訳だけど、必ずしも運命通りに進行する訳ではない。ちなみに爽太は、スケジュール通りに完璧に進行出来る? 何時に起きて、何時に学校に行くとかね。だけど、想定外のイレギュラーな出来事は起きてしまうもの。例えば、時計が止まって目覚まし音が鳴らなくてしまったりね」


 魔女は一呼吸を置いて、爽太に微笑んだ。


「さて、爽太くん。ここでクイズです。時計が止まってしまい、家を出る時間が大きく遅れてしまいました。普段なら歩けば間に合うのですが、このままでは学校に遅刻してしまいます。遅刻しないようにはどうすれば良いでしょうか」


 先ほどの話しを理解しているのかを確かめる為だったが、まだ混乱しているのに突然の問いに解凍できるはずもなく「えっ…と……」とまごまごしていたのが、魔女はじれったさに耐えきれず、答えを述べる。


「そういう場合は、走って間に合わせようとするでしょう? またはバスやタクシーとかに乗って移動するのも考えられるわね。つまり、何かで都合や辻褄を合わせようとする。それが、万物の精神でも発生したりするのよ」


「……ということは、児玉さんの死ぬ運命を竜也が死ぬことで辻褄を合わせた?」


 魔女は頷く。


「でも、なんで? そんなことでが……」


「この世界や人間の運命は、予めおおまかに決まっている。この“おおまかに”が、厄介なのよね。憶測だけど、あのクラスの生徒の誰かが死ぬ運命が決まっていた。運命としては児玉久美でも竜也でも、もしかしたら爽太でも良かったかも知れないわね」


 前に魔女が言っていた台詞を思い出す。

 運命には、変えられる運命と変えられない運命がある。変えられる運命は、死の期限。変えられない運命が死そのもの。

 人の生死が、自分の判断や行動で左右してしまう責任の重さを今更大きく実感してしまい、身体が重く感じた。


「まあ、こういう風に修正されるのは、よくあることから、そんなに深く考えないことね」


 爽太の鬱積を払いのけるように軽い口調で励ますように述べたが、落ち込んだまま。


「だったら、また記憶改変メモリーリストアする? でも、私の経験上、改変してこういう結果になった場合は、竜也を救っても、また他の誰かが死ぬかも知れないけどね」


 慰めと諦念させるかのように魔女は言った。

 爽太は全てを悟っている魔女の言葉に疑念を抱く。最初から不思議で、不審な人物。自身を魔女と呼び、正真正銘の本物。

 久美の生死の運命を変える超常現象を起こして見せた。確かに現実の出来事。


 その力を持っている魔女は――


「……あなたは、一体何者なんです?」


「私のことについて話すと、長くなるわよ」


 それでも構わないと心構えたが、


「爽太、マーちゃん。ご飯が出来たわよー!」


 母からの呼び声が響いた。

 ご飯を食べている場合では無い。先ほど世界の秘密を教えてくれたのなら、魔女自身を一刻でも早く教えて欲しかった、知りたかった。だが、


「はーい! はあー、お腹空いちゃった。ほら、爽太も早く行きましょう!」


 代わりにと魔女が返事をして、颯爽と部屋を出ていったのであった。


「あ、ちょっ……」


 独り部屋に残された爽太。魔女を止めようとした右手が虚しく空を掴む。


 床に転がっている卒業アルバムに視線を向けて、久美の顔写真を見る。

 久美のあどけない少女の表情。

 小学六年生の時に撮った写真……おぼろげながら記憶がある。それと伴ない、ほのかな想いが燻った。


 竜也の死の運命を変えるべきかと考えたが、魔女の言う通り、もし変えても他の誰かが代わりになるだけとしたら。もしくはまた久美が犠牲になったら……。非情なのかも知れないが留保した。今は魔女から話しを訊くのが先決だった。


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