初め ①
1
この世界の主人公は誰だ?と思ったことはありませんか?
思ったことがある人は先生怒らないから手を挙げなさい。
…………はい、俺です。
そんな普段から妄想ばかりしている俺の名前は篠山 矢的。高校1年生の15歳です。
でも自分は主人公じゃないか?という妄想は中学でやめました。本当です。
皆だって妄想くらいしたことはありますよね?
例えば、電車内で痴漢にあっている女の子がいたらこうやって助け、電車内でヒーローになり、その女の子から感謝され、あわよくばその後親密な関係に…。
と、こんな感じの妄想を。
それが単にワールドワイドになっただけです。ね?
でも残念なことに自分はこの世界の主人公じゃないんじゃないだろうかと思っています。
それはなぜか?
それは追々説明するとして、まず俺は、
モ テ な い
この一言だ。様々な主人公を見てきたが、まったくもってモテない主人公というのはまぁ稀だ。ことラブコメ系においてはモテないと話が進まない。
そして俺はどうだ?モテない。
お前モブだからモテないんだよと言われてる気がしてならない。
こうモテないモテないと言うのも、遡ると3日前の話に――。
「いつまでトイレに入ってるの! 遅刻するわよ!」
ドンドン!と母親のトイレのドアを叩く音で我に返る。
ケータイの時計を見ると時刻は8時。やばい。
今から走ったら間に合うがどうする?迷ってる暇はないのだが…。
「まだうんこ出してねぇ…」
大ピンチである。
-
キーンコーンカーンコーン
学校の始業ベルが鳴った。現在午前8時45分。現在地は校門前。完全に遅刻である。
うちの学校では5回遅刻すると校内掃除という罰を与えられる。遅刻回数は学期はじめにリセットされるのだが、現在5月の初頭で3回目。中々のスピードである。
そして毎回遅刻するごとに職員室で入室許可証をもらわなければならないのだが、それがないと教室に入れない。始業開始前に誰がいないのか出席を取るのでこっそり教室に入ってもモロバレなのである。
入室許可証をもらいに行くと、そこには数人の生徒がいた。
割と遅刻しているので中には見知った顔もいる。いかにも遅刻しそうなメンツが揃ってるかとも思えば一見真面目そうなやつもいる。――と、そこに見慣れない顔がいた。
別に見慣れない顔がいてもおかしくはないんだが、なんかこう顔もそうなのだが違和感のようなものがあった。何がと言われると困るのだが、強いてあげるなら…。
「制服の色味がちょっと違うような…?」
色移りとはちょっと違うような気がするが、色移りだろって言われたらそうなのかなと思ってしまうレベルの違和感なので、
まぁ、いいか…。
すぐに考えるのをやめ、教室に向かう。
ガラガラ――
教室を開けると一斉にこっちに注目が集まる。こっち見ないで。
教師に入室許可証を渡し、席につく。
「また遅刻かよ、これで何回目だ?」
右隣の席から声をかけられる。
「3回目」
そっけなく答える。
「あと2回でご褒美か、がんばれよ」
罰をイコールご褒美にするのやめろ。校内掃除でご褒美とか変態の極みじゃねぇか。
「じゃあ譲ってやろうか?ご褒美」
ご褒美ならくれてやるよ、よくばりめ。
-
「え、いいの?」
「え、いいの!?」
思わず聞き返してしまった。
あんまりしゃべりすぎると先生に怒られるのでほどほどにしておこう。ただでさえ遅刻で印象はあまりよろしくないからな。
しかし…。
あの子は誰だったんだろうか…。
身長は160cmといったところだろうか。髪も腰までのびてて少し毛先がはねた赤みがかった茶髪。特筆すべきところはあるわけじゃないが、やっぱり気になる。
可愛いのは可愛い、学校でも一人いるかいないかくらいのレベルの…
「(美人じゃねぇかッ)」
脳内にツッコミを入れた。そうか、美人だから目を引いたのか。制服の色がどうのとか全然関係なかったわ。可愛いから気になったんじゃん俺のバカ。
何年生なのかすらわからないから捜すのは難しそうだがあれだけの美人だ、聞いてまわればすぐ見つかりそうだが…。
見つけてどうするんだよ…。
見つけたところで話題はないし、何より女の子に率先して話すなんて無理だ。相手から話しかけてくるならなんとかなりそうだが、きっかけもないし。
話せたとしても何かしら発展していくなんてありえないけど。
キーンコーンカーンコーン
1限目終了のチャイムが鳴る。
「よ、先週末はどうだった?」
さっき話していた変態、名前は泉 太郎。小学校からの数少ない友人と呼べる相手。
「せ、先週末って?」
とぼけた。自分のことなのでわかっている。先週末のこととは
「告白」
である。思い出したくなかったけどこいつが代弁してくれた。代弁してくれやがった。
「いや…うん、あ…うん、察して?」
言葉が出なかった、とりあえずしばらくそっとしておいて欲しかった。あれが週末じゃなかったらしばらく登校拒否していたかもしれない、ありがとう休日。
「あ…」
察してくれたようである、さすが旧友。
-
「でも内容は気になるぜ?話したら多少は気分が楽になるかも?」
まぁ…、親には絶対言えないし、弟にもちょっと言いづらい。かと言ってそのまま抱え込むのも正直しんどいしつらい。
「…誰にも言うなよ」
「おう、言わねぇよ」
変なやつだが基本いいやつである。
――3日前の放課後、俺は意を決して告白しようと思う。相手は俺のクラス、2年1組の隣の2年2組の安達さん。黒髪のセミロングでクラスの中心的存在。そんな相手に告白しようとラブレターを下駄箱に入れた。ちょっと古典的過ぎると思ったが面と向かって言う勇気がなかったのでこの形をとった。なんて書いたかはさすがに言えない。恥ずかしい。
告白場所に選んだのは校舎裏。これも古典的だと思ったが、屋上は使えないし人目につくのも嫌だったから無難な場所だと思ってここにした。
面と向かって言うのは正直キツイと思ったけど結局面と向かって言わなきゃダメじゃん…。
後悔するくらいならやってないが、きっかけが今思うとひどいと思う。いや、好きなのは入学式のときからだからね?
きっかけがギャルゲをして、俺も恋してぇと思ったからなんて口が裂けても言えない。
毎回ギャルゲをやってると一定周期で彼女が欲しくなるが、今回はもう限界だった。今やってるゲームのヒロインが安達さんにそっくりだなんて…。
必要最低限として安達さんに彼氏がいないのは調査済みだ、さすがに彼氏がいる相手にアタックするほど俺は強心臓の持ち主ではない。
あ~、来るなら早く来て…ドキドキしすぎて吐きそう…。
指定した時間は夕方5時。今ちょうど5時を回った所。
「あ…」
声がした方向に目を向ける。
そこにはちょっとビックリしたような顔の見知った女の子がいた。
「篠山君だったんだ…」
中学1年からの知り合い、白石さんがいた。
「なんで白石さんがここに?」
当然の質問をする。だってここに来るのは安達さんのはずだから。
「なんでって、らんちゃんから伝言があったからそれを伝えに来たんだけど」
らんちゃんとは安達さんのことだろう。
「伝言って?」