第三話-風雲急を告げる
今書いているこの時期は、丁度甲子園の切符を求める球児達が
決勝で勝つことを夢見て頑張っています。
梅雨明けで、暑さも最高潮ですがくれぐれも
脱水症状にはお気をつけを
古都ノスタルジへとたどり着いた一行は、何やら
調べ物の様子ですね。何事も無ければいいのですが。
外は夕暮れである。二組は西と東に別れて探索へと向かった。
アルデリヤとエマは暫く歩いていると、二人の酔っ払いだろうか?ふらふら歩きながら話をしている。
「明日があの日だなぁ」
「あぁ月も消えるし丁度ええんやろう」
『何やら怪しげだな』
気になったアルデリアとエマは、二人の後を着いて行き、街外れの<ゼポル>の酒場へと入った。
つもりだった・・・
ドアを開けると、そこには辺り一面に、綺麗な花が咲いていた。
小さな妖精たちも各々、楽器を奏でているようだ。
小鳥のさえずりさえも、聞こえてる。
エマは大きく目を見開き、思わず笑みがこぼれた。
「まぁ!なんて素敵な・・・お花畑♡」
「むっ、ここは?・・・まっ・・・まずい!」
アルデリアは危険を直ぐに察知し、手早く目の前に指で陣を描きくと、身体異常回復の魔法を素早く唱えて、エマに声をかける。
『シソーラス!』
「戦いじゃ!エマっ」
エマはハッと我にかえるや否や、腕を一噛みすると、腰から剣を抜き、その剣を鞭の様にしならせ、辺りを一閃!
その動きはまるで、舞を舞っているかの如し
エマの目は戦闘状態に入ると、灼眼となりその攻撃力が、増すのである。
まさに、灼眼の舞姫と言われる所以である。
その一閃は、一周目で周りの武装した男達の顔や喉を切り裂き、二周目で確実に急所を貫いていく。
恐らく素人であろうか、給仕の女は隅で腰を抜かしている。
バタバタ倒れていく男を見ると、そこの店主であろう男が、裏から逃げようとしている。
アルデリアはエマを制し、指を何度か組み替え、呪文を唱える。
『不動金縛りっ!キェーッ』
「アルデリア殿それは?魔法では無いのですか?」
「そうじゃ、これは気を練って発動させる、術と言うやつじゃ」
「・・・こ・今度ご指南を」
「えぇよ。おまいさんは魔法より、気を使う事に長けておるから、直ぐに使いこなせるじゃろう」
「この術のええ所は、術自体が強力なのに、ほれ」
アルデリヤは店主の耳をつまむと、引っ張り上げた。
「いててて!何しやがるじじぃ」と威勢良く、そして簡単に、目を覚ましたのだ。
まるで、いきなり時を解放した様であった。
エマは男の首に剣を突きつけて、怒りに満ちた声で怒鳴り上げた。
「それは此方のセリフだ!じっくり話を聞かせて貰おうか」
ゼイブスとシュリ《オートマタ》、サリー達は、冒険者ギルドへと向かった。
ギルドの受付へと戻ると、冒険者達のラッシュアワーで、中はごったがえしていたが、受付嬢がゼイブスらに気が付くと、直ぐに駆けつけてきた。
受付嬢 「これはようこそ。ゼイブス様サリー様、ギルド長よりお見えになったら、お通しするように申し付かっております。どうぞこちらへ」
二階の一室へと迎えられた三人は、執務室へ入っていく。
「よぉ!久しぶりだなぁサリ。いや、今じゃ王室付の宮廷大魔導師様だし、サリー様とお呼びしなくちゃいけねーな」
「ハーッハッハッハ」
このむさいゴツゴツした筋肉の隻眼男は、ここノスタルジ街の、冒険者ギルド長である。
名をゲルペス=チョップリンと言い、親しいものの間では、ゲルチョと呼ばれて、親しまれている。
鋼鉄の体を持ち、歩く防波堤と詠われた、前衛職の勇である。
かつての伝説のパーティ『ドラゴンクロー』の頭として、その武勇を広めたのである。
そのパーティの仲間であったのが、このサリーである。
「おまいさんこそ、ギルドのお偉いさんにおなりになって」
『フン』と言わんばかりの顔をして、ゲルベスは話を続ける。
「あの戦いで俺は目を、おめぇは花《王宮での役職》を貰っちまった。パーティを解散しちまった後、ぶらぶらしてたらよぉ、親父さんに捕まっちまって」
「遊んどるんだったら、後進の育成でもしろとな。で、落ち着いちまった訳だ」
ゲルベスはサリーの横を見て、『あっ』と思い、少し喋りが過ぎたことを反省して、改めて挨拶をする。
「おっと!いけねぇ、これはようこそ、お出で下さいましたゼイブス様」
「相変わらずじゃな、おぬしは」
「ガッハッハ」
豪快に笑うと、ゼイブスらに席を勧める。
サリーはそれを横目に、ボソリとつぶやく。
「えらい差をつけるなぁ おま・・」
「いくらおめーが、この国一番の大魔導師と言えども、この国の生活様式をすべて、画期的にやっちまった大発明家様には、到底及ばぬさ」
「ほほっ、とんだ買いかぶりじゃわい」
ゲルチョは目線を隣に移し、シュリを見やる。
「いえいえ、それにそこの・・」
目線に気づいたシュリは、器用にスカートの裾をつまみ、ちょんと首を下げると、挨拶を始めた。
「お初にお目にかかります。ゲルペス=チョップリン様 オートマタのシュリと申します。主人に使えております、メイドでございます。」
「見れば見る程、ヒューマンの美女にしか見えねぇや。闘えるのかい?」
「多少は・・・だがの、戦闘用なら、男のオートマタにするわい」
「確かに、メイドにするんなら男じゃ、合わねぇよな。で?話しが何かあんだろ?」
サリーは事の経緯を簡単に話し、説明する。
その時ドアから、ノック音が聞こえてきた。
先ほどの受付嬢が、飲み物でも持って来たのであろう。
「失礼致します。飲み物をお持ちしました」
受付の女性は軽く会釈をして、テーブルに四つティーカップを置くと、それに湯気の出たハーブティーを注ぎ込んだ。
「では、ごゆっくりなさいませ」
またもや軽い会釈をすると、ゆっくりドアを閉め、出て行った。
「それでこの周辺で、何か変わった事とか、怪しい者など無いか?」
「ここ数日神殿で起こった出来事は、把握している。なんせここは国境の街、ノスタルジだしな。シーフも沢山抱えているし、まぁ情報も、立派な収入源だからな」
ゼイブスはシュリに促すと、シュリは魔法袋から皮の袋を取り出し、主人に渡す。
ゼイブスは、『ドサッ』と袋ごとテーブルに差し出すと、一言口にした。
「聞かせて頂こう」
ゲルチョは袋から金貨を一枚取り出し、それを指で弾くと、それを同じ手で『パッ』と掴み、徐に喋り始めた。
「昨晩、草《忍び》からこの街で見慣れない輩が、増えているって話がある。職業は様々だが、これと言った仕事は、しちゃあ居ないそうだ」
話を続ける。
「で、どうやら街はずれの酒場に、出入りしてるらしい。まぁ、探りは入れてみたが今の所、普通の酒場で営業中だ」
サリーが「そいつら・・」と言いかけるのを手で制し、ゲルチョは続ける。
「話はこっからだ。でそいつらの仲間と思しき人物が、街の温泉へと入り、手荷物を預けてる所を見計らって、調べたってー訳だ。」
「で?」
「匂いに敏感な奴が居てな、葉巻ケースを見つけたんだわ。でもよこれが、普通の葉巻じゃ無かったって事さ。一本拝借して、普通のブツと入れ替えてきたらしい」
ポケットから木箱に入れた葉巻を、取り出して見せる。
ゼイブスは目を細め、直ぐに葉巻を取り上げると、真ん中からポキッと折った。
『おいおい』
ゲルチョは慌てて、でゼイブス嗜めるように言い放った。
「大事な証拠品に、何てことすんだよぉ!」
それでも構わずに、ゼイブスは匂いを嗅ぎながら、確信した顔つきで、話し出す。
「これは・・・魔法薬じゃの」
「なにっ!」
まさかそんな重要なものだとは、ゲルチョは思わなかったのである。
「効果は高揚、身体の底上げ、鎮痛効果などがあって、神殿では儀式の時などに、使われておる。但しじゃ・・・修行を行なっておらん、普通の者がこれを扱うとじゃ、常習性が有り、やめられんくなる。」
|ゲルチョは先ほどの、いらつきを忘れたかの様に身を乗り出すと、食い付く様な目で聞き出す。
「魔法薬・・・悪魔の薬とも言われる・・・」
「そうじゃ。飯も食わずに、三日三晩動き続ける事も出来るし、快楽も得られるが故に、摂り続けると、止める事も出来なくなるのじゃ。・・・廃人となる可能性も、目に見えておるのぉ」
ゼイブスは、一つ咳払いをしながら話を続ける。
「たちの悪い奴隷商人は、獣人などにもこれを使い、使役すると聞くのぉ」
ゲルチョはさらに身を乗り出して声を荒げる。
「依存性が高いからな、じゃぁこれを人に使うと・・・」
「うむ、洗脳術と併用すれば 手駒は幾らでも出来るじゃろう」
サリーは、眉間にしわを寄せながら呟いた。
「危険な物ですね。直ぐにでも国王にご進言を」
ゼイブスは、指を左右に振りながら
「それがそうは行かんのじゃな。神官達も使っておるし、軍で使われておるリザード等は、卵から育てられるののも居るが、魔物商などから買い付けておるのが、ほとんどじゃ」
サリーとゲルチョは何やら考え込むが、この話を続けても無意味だと感じたのか、次へと話を移す。
ゲルチョは首を左右に忙しく振り、両手で『パーン』と両の手の平で叩くと、テーブルの袋から、また金貨を一枚取り出し、先ほどと同じ様に『ピン』と弾いては、同じ手で『パッ』と掴む。
「神殿で禊が行なわれるらしい。普通は街の教会なんかでやるんだが 子供を集めて、特別に加護を与えるんだとさ」
「何っ! いつじゃ? 王都の神官からも、巫女からも聞いておらんぞ。そんな話は」
残念そうに、ゲルチョは首を振りながら、話の続きをする。
「日にちまでは・・判っちゃいねぇよ。やっぱり重要なのか?」
「恐らく、何か関わっていますね。神殿で使われる魔法薬と、この葉巻も・・」
サリーは真ん中から、折られた葉巻の匂いを嗅いでいる。
とその時であった。ゼイブスの手の平から、何やら文字が浮かび上がる。
『<ゼポル>の酒場にて、怪しい一団発見!憲兵隊を連れて来られたし』
三人は顔を見合わせながら、同時に声を発する。
「ビンゴだな!」
シュリはつかつかと観音開きの窓を開けて、下に誰も居ないかを、確認しているようだ。
「ここから失礼致します。カラビニを呼んでまいりますので」
それを制したのは、ゲルベスだった。
「おっと、お譲ちゃん大丈夫だぜ!」
ゲルチョはエアホンを指差しながら、カラビニに連絡を取った。
「冒険者ギルドのゲルペスだが至急ジラーニに連絡を」
「はっ!」
カラーニと一通り連絡を取り合うと、ゲルチョは金貨の入った袋から、更に5枚握り締めると、袋をゼイブスに返しながら、神妙な顔付きになったのである。
どうやら、腹をくくった様だ。
「ゼイブス殿、俺もとことん付き合うぜ!」と言い放ったのであった。
カラビニ 「こりゃぁ・・・」
ゼイブス達が、この街外れの<ゼポル>の酒場に着くと、そこにはジラーニら配下が、入り口で
固まっていた。
ゲルチョが「ジラーニそのまま、ちょっと待っててくれ」と言うと、何やらポケットから取り出した。
ゲルチョが口笛を何度か吹くと、配下であろう黒装束の者が、影から音も無く、浮かび出る様に現れた。
配下の者は、袋からビンを取り出し、何やら摘んで血溜りに放り込むと、術式を発動させた。
ビンの中身は山ヒルであった。
ヒルは瞬く間に大きくなり、50cmほどになると辺りを這いずり回ると、見る見る間に床を綺麗にして行った。
ゲルチョはカラビニのジラーニに説明をしている。
配下の者は清掃を終えると ゲルチョに目配せをして、闇へと消えて行った。
アルデリヤは、入り付近に敷いてあるはずのマットが、横にずらされている事を、横目で見ながら全員に説明する。
「この床に、幻覚の魔方陣が書かれていたんじゃろう。わし等が入る直前に、その上に敷いておったマットをずらせて、発動させおったんじゃな」
「どうやらお二人は、この店に誘導されていたようですね。前もって、罠が仕掛けられていた様ですな」
ジラーニは状況証拠を、あれこれ確かめながら、そう確信していた。
「アルデリア殿が、術の解除をしてくれたおかげで、命拾いした。店主はクロだが、その女は事情を知らない様だ」
そう言うと、エマは数本の葉巻を差し出した。
「それから、死んだ男達を改めたが、何故か同じ葉巻を持っておった」
「やはりか」
周りに相槌を求めると、ゲルチョはジラーニに、これまでの経緯を説明した。
「ふむ、なるほど。新たな情報が判り次第、お知らせ致そう。事の経緯とこの先の話を、領主様へ説明するが良かろうな」
「そうだな」
現場の保持を終えたジラーニは、数人のカラビニを残し、捕縛したゼポルと女を連れて、戻っていった。
一行は、ゲルチョともに連れ立ち、領主の館へと向かう事になった。
領主の《グラダナ=セコンダ=ポリアーノ》はその名の通り、蒼き血筋の者である。
国境であり聖なる山、マウントマーズを抱えており、要所である為にかなりの権限を持つ。
また、この国の王政は男系であるが為に、血を絶やさない様にとの意味も含まれおり、ここの領主は王の血を守り、分家の役割を担っている。
王家は、貴族以上の血筋との婚姻が基本だが、ここノスタルジ領主の血筋は、自由な婚姻が認められている。
過去には別種族との婚姻をも、成されていたりもする。
よって件の人物も、堅いだけの者では無いらしい。
ここノスタルジの街は、堅固な城壁で囲まれているが、領主の館は更に、堀で周りを固められた要塞となっている。
街としての玄関は南であるが、いざ有事の際には、北面が正面となるのである。
そろそろ、館が見えてくる。
ノスタルジは元の王都だったのです。
ところでハトは美味しいですよね。
フランスでも養殖されていて、日本にも輸入されて来ます。
卵は小型ですが黄身が凄く濃厚で美味しいですよ。