第二話-ノスタルジの街
選ばれし五人の勇士は古都ノスタルジに向かう
ゼイブスの職業が人形師なのは、本人の希望です。
本来はマギクラフトのマイスターなのですが
オートマタの作製に命を掛けている為でしょうか。
では本文を引き続きお楽しみ下さい。
王都ポリアーノで支度を済ませると一行は
ゼイブスの魔装馬車でマウントマーズに程近い
ノスタルジの街へと向かった。
※魔装馬車とは魔石を補助動力としてシャフトに組み込み馬の力の軽減を行なったものである。
馬車自体を動かすには、補充の必要である魔石の魔力だけではとても足りないのである。
しかし、馬車の重量負担だけでも馬達は普通に賭ける事が出来、普通の馬車とは倍以上の速さで進むことが可能となった。格段と機動力が増したのである。勿論ゼイブスの作品である。
御者は シュリで、馬車には四人が座っている。
「しかしやはり、魔装馬車は速いのぉ。普通の馬車だと、ゆうに七日は掛かるじゃろうて」
アルデリヤは関心しながら、エマに話しかける。
「グラッケンも兵を率いて先行しておるし、わしらのやることは無いんじゃないかのぉ?」
エマは顔を左右に軽く振り、外の景色を見ながら呟いた。
「そうでもあるまい。 強力な魔獣や魔物達が出てきたなら、並みの兵だけでは対応が遅れる可能性もあるだろう。その為に我々が、呼び出されたのではないか?」
サリーは地図を見開きながら、指をたどる。
「そうだな、ならば我々も早く着かないとな。この馬車であれば、街までは二日もあれば着くだろう」
ゼイブスも頷き前方を指差しながら
「シュリ《オートマタ》は寝らずにすむからのぉ」
この大陸の主要な街道には、敷石が引いてあり、泥に足を取られる事も無い訳だ。
「じゃ、このまま食事でもしますか」
アルデリヤは、サリーの出す皮袋を見つめながら、羨ましげに呟いた。
「ほんに、おまいさん達の袋は便利じゃのぉ、何でも入りおるわ」
「それを言うなら、作成者のゼイブスさんに仰って下さいよ。それにこの馬車、何故座席が左右にあるかと思ったら、怪我防止の意味だけじゃ無かったんですね。こうして、テーブルが真ん中に降りて来るなんて、凄すぎます!」
サリーは顔先を向け、苦笑しながら言っている。
ゼイブスが壁にある装置の一つを操作すると、天井から折りたたみのテーブルが、降りてきた。
サリーはそれを確認して、袋からサンドイッチとスープの鍋を、取り出していく。
談笑しながら、作りたてのサンドイッチと、温かいポタージュをすする一行であった。
「今日は馬車内で泊りじゃよ。儂たちも早々と寝るとしようかのぉ」
食事を終えて紅茶をすすっていると、シュリ《オートマタ》がスピードを緩めながら、前方を指差し「主人に告げる。
「この先に、湯殿が見えます」
「ふむ皆の者、休みがてらにひとっ風呂でも、浴びるかのぉ」
※火山に近いこの地は、各地に温泉が湧く。
ここの湯殿も国の厚生施設として、旅の疲れを癒す為に、設置されたものである。脱衣所は男女別々だが、湯場は基本混浴である。
ヒューマンと獣人の浴槽は分かれており、隣の場所だ。
混浴である為、男女は各脱衣所に入ると、皮の湯着に着替える事になる。
男性は、膝下までのスカート状のものを身に付け、腰に革紐で結んでいる。
女性は、膝下までのエプロン型であるが、ホルターネック(背中の開いた服)となっている。
体を洗う為に、シャボンが使われるが、これは植物から取れる。
普通にその辺に、群生植物に含まれていたりするようだ。
こちらでもエゴの木、山芋、アケビ、桔梗、なつめジキタリス等の名が知られている。
この大陸では、ムクロジが使われているが、これは比較的木を増やすのが容易で、大きな実の果皮にはサポニンが大量に含まれる。
ちなみにこういった施設は、カラビニが常駐されている。
ご他聞にもれずこうした場所は、トラブルに見舞われることも少なくない。
駐屯所としての機能も、揃っているのである。
入り口に向かうと何やら人だかりが・・
管理者であろうカラビニもいる。
「なぁ今日湯がはぬるいな。風邪引いちまうぜ」
「今日は、魔石の補充が出来てないんだよ。体を拭く位にしときな」
エマが不思議そうに尋ねてみる。
「どうしたのだ?」
カラビニはエマに気が付くと、襟を正して正面に立つ。
「はっ、これはエマ将軍ではありませんか!。この温泉は、かの地から少し離れており、冷泉となっております。それゆえ魔導具で温めておりますが、そのぉ・・・魔石の魔力が衰えていて」
「なんじゃそんな事か。それならほれここに、ポリアーノ国一の大魔導師様と、それを作り出した、ゼイブス殿もおるぞ」
一同に歓声と安堵のため息が混じる。
二人は苦笑いで顔を見合わせると、やれやれといった風に、肩をすぼめながら両手を広げ、浴場へ入っていった。
浴槽は岩風呂である。
その真ん中には碇のような物があり、五つに分かれた先には座れるようにと、台座が付いている。
上部には魔石がはめ込まれており、ここからの熱伝道で、お湯を温める仕組みになっている。
サリーは裾と袖を捲くりながら、関心して居るようだ。
「ほう、この道具で温めておるんですな。王家にもあるとは聞いておりますが、初めて見ますな」
作業用のいかだを湯船に敷きながら、上着を脱いだゼイブスは話しも止めずに、手をあちこち探りながら答えた。
「ほうじゃ、このアンカー自体は、腐食に強い鉄の合金で出来ておる。中にはミスリルの芯が入っており、ここから熱を放出するんじゃ。ほれ、ここに火の魔石があるじゃろ。ここに手を添えて、魔力の補充を頼む」
サリーは何やら、関心しながら作業を進めた。
貴重品などは、入り口の受付で、預ける事が出来る。
貸金庫のようなものがあり、中に物を入れると、小型の魔石が埋め込まれた木札が出て来る。
それを預けた本人が、カウンターの水晶玉に手を翳すと、手続き完了と言う訳だ。
預けた履歴は、自動的に記録されるのであるが、これもゼイブスの作品である。
しばらく経つと、お湯も良い具合になったようだ。
一同は適温になった温泉で、ゆっくりくと寛のであった。
普通、こういった場所で、洗って濡れた髪を乾かすのは、難儀である。
この当時の男性陣は、整髪にあまり興味が無いようだが、ここにはれっきとした淑女エマがいる。
髪を乾かすときには、脱水のような魔法は厳禁だ。
何故かと言うと、そのままの形で乾燥してしまうからである。
有能な魔法使いならば火、風の二つの魔法を組み合わせて、熱風を作り出す。
男性脱衣所から
「エマ殿、髪を乾かして差し上げよう」
とサリーが声を掛けるが
脱衣所の女性側から、シュリとエマが呼応する。
「エマ様の御髪はわたくしが整えますので結構です。」
「かたじけない。ご厚意感謝する」
実は鏡も備え付けで、温かい風の出るブロワーが付いている。
つまりドライヤーである。これも魔導具である。
シュリは馬毛の柔らかなブラシを使い、エマの髪を整えていく。
手さばきは、熟練のメイドと言った所か、やはり手馴れている。
化粧水や美容クリームの手際も良いのだ。
「手を取らせてすまぬな。シュリ殿」
「いえ、エマ様これは私の仕事ですから。それに人形に対して、敬称は不要ですわ。シュリと、お呼び下さいませ」
「いやいや、私はそなたを只のオートマタとは、思っておらんよ。同じヒトとして、付き合せて頂く」
シュリはその染まるはずの無い頬を赤らめ、言葉は発せずに、感謝の意を示すのであった。
馬車へと戻ると、座席はカスタムされており、それを広げると、ベッドに早代わりだ。
既にシュリによって、ベッドメーキングも成されている。
上下左右に4つのベッドを見て、三人は目を見張りはがら、それぞれ就寝するのであった。
「シュリ、後はたのむぞぃ」
「畏まりました。ではこのまま出発致します主人」
夜の闇を灯りで照らしながら、魔装馬車は突き進むのであった。
一行がノスタルジの街に着いたのは
翌日の夕方であった。
まずは街に入る手続きを済ませる。
この国の民は生まれてしばらくすると、教会で禊を行なう。
その際に、個人認証も体に刻み込まれる。
ノスタルジのような大きな街では、関所が設けられており、入管等の際、カラビニに審査を受けることになる。
入り口の大きな水晶玉に、手をかざすと、本人認証が行なわれる。
名前 年齢 性別 賞罰 経歴 種族の確認である。
ここでお尋ね者として、指名手配されていれば、直ちに捕縛される訳だ。
勿論、認証の施されていない場合も、尋問を受けることになる。
オートマタや使い魔などは、拘縛魔法式が組み込まれており、主人名も映し出される。
この様な詰め所には、他にも様々な工夫もされている。
拘束の魔法は勿論、地下牢や尋問室、厩もあり、大型の使い魔等は、ここに待機する。
また緊急連絡用に、電話のようなものもある。
相手先を金属製のチューブで、繋いでおり、蓋を開けると、魔石が組み込まれている。
お互いの声が、これで増幅されるシステムで、エアホンと呼ばれているのだ。
簡易システムの為と、物理的な問題もあり、近距離のみの対応である。
勿論製作者はゼイブスである。
一行が手続きを済ませると、足早に隊長らしき人物が寄ってきた。
カラビニは歓迎の笑みを浮かべいる。
「これはようこそ皆様方、私は、この街の部隊長を勤めさせて頂いております、ジラーニと申します。本日の宿は、領主様の元へと、お招きするように、お伺い致しております故、ご案内仕ります」
アルデリヤは、顔を左右に振りながら答える。
「それには及ばんよ。儂たちは観光で来ておるのではない。何時でも出立が出来るよう、街で宿を取る。情報も必要じゃて」
ジラーニは残念そうに、顔を曇らせた。
「それでは、この街の宿へと案内させて頂きますが、ご容赦の程を」
「うむ、それではお任せしよう。この面子じゃし、護衛は要らぬよ」
「はっ」
一行はこの街の中心部の、高級宿屋「ノスタルジャ亭」へと向かった。
洒落た回転ドアをくぐると、そこはロビーになっている。
四部屋取ると、一行はロビーに戻り、ソフアーへと腰掛ける。
「まずは二手に分かれて、まだ知れていない情報があるか、収集活動じゃな」
アルデリヤは、ゼイブスの後ろに立っているシュリ《オートマタ》を眺めながら、こう指示をする。
「お主らはサリー殿とで、わし等はエマ殿とでいいじゃろう」
ゼイブスは袋から「ではこれを渡しておこう」と言いながら、紙のようなものと、魔法の羽ペンを取り出した。
「これは?」
「ふむ、聞くより、やった方が早いじゃろう」
と言いつつ、その一枚を、アルデリヤの手の平へ乗せた。
水魔法で霧を吹くと、手の平へとなじんでいく。
「さて儂は手の甲へ」そう言いながら、同じ様に貼り付ける。
ゼイブスはおもむろに、ペンを走らせ何やら書いている。
「ほれ 見てみろ」
アルデリヤは、手の平を見つめると
「おぉ!文字が浮かんでくる!!。何々?ふーむ 『セクハラはギルティ』じゃと?「ぬぬ!」
一同は、笑いをこらえるのに、必死なようだ。
アルデリアは苦笑いをしながら、手をかざして見つめる。
「これは魔物の皮膚かの?確か・・・この大陸の南の方の秘境に、生息しておるカピタンであったかの?」
ゼイブスは機嫌よく頷くと、説明をする。
「ご明察じゃ。カピタンはとても温厚な魔物じゃが、危険を察知すると、その皮膚の色を変える事で知らせる。そこを、チョイチョイっとな」
エマは腕組みをしながら、尋ねてみる。
「うーん、便利だが殺すのか?そんな温厚な魔物を」
身振り手振りで、ゼイブスがそれに答える。
「いやいや、捕獲はするが眠らせてのぉ。こう首から薄く皮膚を剥いで、後は治癒再生の魔法で元通りじゃわ」
サリーは少し、難しげな顔で聞く。
「それじゃ、これも広めるおつもりですか?」
「いやいや、そうは簡単に行くまいて」
アルデリアは、そう呟きながら話を続けた。
「カピタンはのぉ、強力なチャームの使い手じゃ、そうは簡単に行くまい。それに彼らは、聖獣扱いじゃからの」
※カピタンの生息地は、ごく限られた地域にある。
肉も希少な為に、密猟者が挑む事もあるが、このチャームの恐ろしい所は、術にかかると、見たものに執着してしまうのだ。
カピタンを見てしまった者は、海へと歩みを進めそのまま溺死したり、また、同性同士で居たならば・・・言葉には言い表せない、出来事に遭うであろう。
解除出来なければ、その地に骨だけを、晒す事になる。
この為、にこの地を訪れた者は、骨が辺り一面に散乱した模様を見て、カピタンを獰猛な肉食猛獣と見てしまう。
近づこうとする者は、ほぼ皆無なのである。
本当は外見が、ジュゴンのようで、実際臆病で大人しく、海草が主食の生き物であるのだ。
違和感を感じると、皮膚の色を変え、仲間に知らせる事が出来る。
非常に頭が良く、他種族の言語も理解すると言われており、とても長寿だ。
一般的には知られて居らず、伝説上の海魔獣として扱われている。
サリーは深い溜息をつきながら、納得しているようである、
「認められた者だけが、逢う事が出来るんでしょうな」
「あそこは保護区じゃしな。しかし、もうこいつは使われておるぞぃ。様々な記録に利用しておるわ。関所の審査時間が短いのも、そのおかげじゃわぃ」
一同が納得したのを見計らい、行動に移すようゼイブスは促した。
「さぁ行こう、ともあれ使い切りじゃから、無駄使いは禁止じゃぞ」
一行は目立たないよう、普段着を身に纏い、日が落ちる前の街へと、それぞれ出掛けて行った。
この後何がしの事件が!!って言うフラグが立ってますね。
当然何かが起こるのでしょう。
この章には主人公はほぼ出て参りませんが
この世界の成り立ちを知る為には欠かせない話しが
沢山入っていると思います。では次回