第十四話-戦いが終って
暑き夏に、いよいよ甲子園が始まりましたね。
やはり郷土のチームを応援するのは、性なのでしょう。
都道府県が一丸と成り、郷土愛に花を咲かせるのも、気持ちの良いものです。
筆者は九州出身なので、しばらく楽しむことが出来ます。
九州の人間は、九州の出場校を全て応援するので、沖縄を含め8チームも応援出来るからです。
今年の夏も冷たいビールを煽りながら応援するでしょう。
「さて、この子をどうするべきじゃろう」
夜も更けて、全員が困惑の中シュリが、祭殿の確認を終えて戻ってきた。
「何も見つける事は、出来ませんでした。主人」
そう言いながら、ぐったりと横になった、サリーを見つけ駆け寄る。
シュリは袋からミセラポーションを、飲ませようと取り出したが、ゼイブスにすぐ止められる。
「サリー殿は、そいつを飲みすぎじゃから、これを」
魔力回復の丸薬である、『マギチーナ』を差し出し、シュリに手渡した。
シュリは毛布を取り出すと、サリーをそこへ寝かしつけ、介抱している。
ゼイブスがミセラポーションを、止めさせたのには訳がある。
これには、副作用がある為だ。
高濃度に濃縮した、ポーションを抽出する為には、油脂類を使わなければならない。
これには濃度の高い、アルコールが使われている。
その為、沢山飲みすぎると、悪酔いした状態になり、アルコール中毒の可能性さえある訳だ。
「で、どうすんだ?」
「恐らく、王都へ連れ帰ったとしても、神殿に連れて行ったとしても・・・」
「エマの思う通り、じゃろうな」
「研究材料か、結界の張られた牢獄で、一生を過ごすかの違いかの」
重い空気が、仲間たちを包むのだが、それを察知したのか、シュリがサリーを寝かせると、いきなり此方へ向かって来たのだ。
シュリは、ゲルチョの抱いている赤子を、奪い取るように取り上げると、こちらに背を向け、自分の懐へ仕舞い込んだ。
「フーム・・・」
しばし、考え込んだゼイブスだが、口を開く
「最近こやつがどうも、『ヒト』になった様で困りおる。どうじゃろう。わしに、この赤子を任せてくれまいか」
シュリが『パッ』と明るい顔になり、此方を振り向く。
「本当に、人形には見えねぇぜ」
「ほっほっほっ、話は決まりじゃな」
アルデリヤは、いきなり厳しい顔つきに変わり、仲間に言い聞かせる様に言う。
「良いか皆の者、この事は決して外部に漏らすで無いぞ」
「と、言うと?」
いつの間にか、サリーが起き上がり、話に加わる。
「この子の身は我々が守る。そういう事じゃ」
「陛下にも?」
「陛下だけには、申さぬ訳にはいかんじゃろうが、それ以外には、な」
アルデリヤはゲルチョを見据えて、言っているようだが、当の本人は反論する。
「いいだろう。大賢者様のおっしゃることはごもっともだ。だがな、こっちにもこっちの都合ってもんがあるんだがな」
「ふん、良かろう。但し、リューク殿だけじゃぞ」
「ああ、判ってる。親父にも釘を刺しておくさ」
「わたしは、賢者殿に一任する」
エマも勿論、従う姿勢を見せる。
「話はこれで決まりじゃ、ゼイブス殿宜しく頼む。その子には何か秘められたものが、あるやも知れぬ」
「そうじゃの、それについては皆の協力も仰がねば、ならぬかもの」
「わしは、協力は惜しまぬよ」
「私も同意じゃ。何かあればいつでも言ってくるが良い」
「私は、その・・・その赤子に、興味が凄くあるのです。四股やその顔を盗まれたにも関わらず、その生命力とその感じる魔力ですが、シュリ殿、少し見せて貰っても良いですか?」
シュリは恐る恐る、サリーにその子を渡す。
サリーは再び見るその赤子の姿に、再び戦慄を覚えるが、精神を集中させ、目を凝らして、もう一度じっくり見る。
「やはり、この子は毛色が違う様です。普通、幼少期以降にしか現れない、魔法腺が見て取れます」
「魔法腺?」
エマが尋ねると、サリーは説明をする。
「ええ、全ての生き物は、この魔法腺を循環させて、魔力を作り上げていますが。この子には本来、5,6歳以降にしか完成されない魔法腺が、既に備わっています」
更に話を続ける。
「魔法が使えない者はこの魔法腺に、詰まりや淀みの問題があります。しかし、練れ者の魔法使いが、この流れを上手く循環させる方法で、直せる事もありますね」
「では貴方の様に、大魔法使いの素養があると?」
「いえ、それは本来の姿であったならば、そう言い切るかもしれませんが」
そう言葉を濁すと、赤子をシュリに返したのであった。
先ほどの、ミノタウルスとヘルハウンドの解体処理も、全員総出でやることになった様だ。
袋へと、素材を詰め込んで行くシュリだが、本当に主想いである。
肉の殆どは、サリーとゲルチョに分けたらしい。
ゼイブス特製の冷蔵の袋付きだ。
報酬としては十分であろう。
「それでは、わしらはここで別れるとしよう。シュリ、行くぞ」
「はい、主人」
「あいや、待たれい。神殿のグラッケン殿にも、報告しなければならぬから、麓まで送ろう」
そう言うとアルデリヤは、大きな絨毯を袋から出し、皆にそれに乗るように指示した。
シルフールドに指示すると、その絨毯はまるで物語にでも出てくる様に、宙に浮くと山麓へと飛び立った。
「なんでぃ、こんな楽が出来るんなら、行きもこれで良かったんじゃねぇ?」
「戦を前に、大事な魔力を浪費する様な、愚か者はここには居まいて」
アルデリアに窘められるゲルチョは、もはやいつもの景色であろうか。
「さて、このまま赤子が喋れぬのも、困りものよのう」
目も無く鼻も、耳、舌も無い赤子を、どうやって育てていいものか、悩みが多いゼイブスであった。
「そう言えば、あの牙狼族の・・・そう、ラリーと言ったか。どうなった?」
「あの異常事態を、当然察知してたんだろう。後手に回らん様に言いつけを守って、神殿に向かってるだろうぜ」
一行が神殿へ着いたのは、既に夜も更けた真夜中であった。
ゼイブスは、夜勤の神官に無理を言って、カプラッテのミルクを分けて貰うと、一行と別れて山を降りるのだった。
アルデリヤとエマ、サリーはグラッケンと、ユームを交え、上での経緯を事細かく説明をしていた。
「すると、皆既日蝕の時でも、大きな混乱は無かったんじゃな」
「左様で御座います大賢者殿、既に戒厳令が敷かれておったのですが、月蝕が終っても王は、『気を緩めてはならぬ』と仰って、我々の報告があるまでと、解かずに置いて下されたのです」
「一部の狂信者らしきものが、数カ所で騒ぎを起こしたと、聞き及びますが?」
「うむ、この世の終わりだの、マーズ神を信ずるなとか、言っておったらしいが、すぐに捕らえられて、今頃は牢獄辺りであろう」
「左様か、案ずるより産むが如しじゃな」
「神殿周辺での変異は、無かったのでしょうか?」
サリーの質問に、ユーム大神官が答える。
「はい、あれから巫女主様も御安心なされており、マーズ神からの啓示も、成されておられないご様子です」
「まぁ、これから何かあるならば、わしの兵どもから何がしかの伝達が、あるであろう」
「しかし、迷宮でしか現れぬ魔物の出現とは、些か驚嘆の一語に尽きますな」
大神官も、思っても見ない出来事に、驚きを隠せない様子であった。
ゲルチョはラリーの功を労い、そのまま山を降りて、一旦ヤズリヤの町へと向かうそうだ。
暇乞いを済ませると、さっさと山を降りてしまった。
グラッケン大将軍は念の為に、配下を二十名ばかりここに残すという。
夕べの現場も、見ておきたいらしい。
その後は残りの手勢を纏めて、王都へと帰還予定だ。
残った三人も王都へ帰る予定だが、 アルデルヤの指示で、神殿内の部屋で休息する事になった。
軽い夜食を施してもらうと、あてがわれた部屋で、それぞれ就寝するのであった。
アルデリヤは手狭な部屋で、一人報告書を作成していた。
「それにしても、不可解な一件であったの」
報告書を纏め上げると、ゼイブスたちの事も気に留めながら、深い眠りに落ちるのであった。
朝目覚めると、外にはもうほとんどの兵が、引き上げた模様だ。
幾人かは残ってはいるが、のんびりとしている様子が、見て取れる。
朝食はミルクに温サラダ、黒パンにマーマレード、各種の果実ジャム、それにスープであった。
食事を終えると三人は、大神官やお世話になった巫女達に、お礼の言葉と別れの挨拶を済ませる。
三人には、護衛が五名ほど警護に付き、山を降りると、そのまま馬車での帰途となるのである。
アルデリヤ=ソマリアーノ、サリー=マルチネ、エマ=バーグマン
三名は、ある意味晴れやかな気持ちで、王都へと帰還するのであった。
---第一章 (終)---
この回で第一章が終ります。
第二章からはぼちぼちと、主人公が出て参りますので、宜しくお願いします。