第九話-シュリの危機
暑い時は、返って熱い物を食べると良いと言いますね
カレーの消費も、夏場が多いのが納得できます。
日本のカレーはイギリス径由で、渡来した物でルーでどろりとしていますが
本場ノカレー圏では、ルーは殆ど使いません。
様々な香辛料の組み合わせが、各家庭毎にありそれが、家庭の味になっているんですよね。
一同は結界を張り、固まって行動する事にした。
先程まで戦っていた、魔物虫の戦利品を手分けして、素早く解体を始める。
アイアンピードは関節をすべてばらすと、身をくり貫いて、硬い外皮は鎧素材、牙は武器や装飾品、毒腺は薬に使える。
そして水っぽい身は意外なのだが、火が入ると硬く身が締まり、『プリプリ』の食感が味わえるのだ。
いわゆる、蟹や海老のような肉質なのだ。
次にトルビネムカだが、身の歩留まりは悪い。
しかしながら、その凶悪な存在に負けじ劣らず、旨い肉と良い魔石が取れるのだ。
またランクの高い魔物の身は、食用だけで無く、魔力を蓄えているので、回復薬等の材料にも出来る。
雷の性質を持つ魔物虫らしい、濃い黄色の片手でようやく持てる程の、大きな魔石が手に入った。
触覚や牙は鞭の素材や装飾に、大きな外殻の羽は、戦闘用の馬車には最適の外装である。
ブラッドスタッグバッグは魔石以外、余り芳しくない。
残念ながら、食用にも適さない様だが、それは苦味が強い為だとも、言われている。
せいぜい、吸注の針に、魔石が関の山だろう。
肉片を『どろり』と溶かす溶液は、使い道が有りそうだが、今の所用途不明である。
一行は、テキパキ解体処理を推し進め、保管を終えると、先へ進んだ。
一時間ほど進むと、少し拓けた丘が見える。
見晴らしの良い、場所だ。
「ここでしばし、休息と行こうか。皆の衆」
よし!判った、と言わんばかりにゲルチョが駆け出し、火の用意を始める。
「ゲルベス殿、しばし待たれい。火はわしが準備しよう」
ゼイブスは袋から、火鉢位の大きさの金属製コンロを出し、火をおこした。
中には炭が入っており、火を点けても明かりは漏れない。
炊き出しは、エマとゲルチョに任せて、老子とサリーは見張り番だ。
ゼイブスはシュリの整備を行う為、魔物には見え無い、妖精の粉の灯りを頼りに、作業を開始するのであった。
まな板と鍋は誰でもが、普通に所持していたりするが、野外では必須である。
それに、別名『ゼイブスの袋』と呼ばれる魔法袋が、流通してからは尚更便利が良くなり、冒険者の間では特に知らない者が、居ない程である。
前からアイテム収納の魔法袋は、有ったには、有ったのだが、袋自体の魔力消費量が膨大なもので、大して収納出来ないのに関わらず、多大な魔力の消費を虐げられていたのである。
それは何故かと言うと、冒険中に魔物の群れに囲まれた時など、戦闘中に魔力切れを起こしてしまい、泣く泣く袋を捨てて逃げて来る。
時には、肉や素材を一緒くたにして、つい忘れてしまい、腐らせてしまうと言う、大失敗等。
そう言う事例が多く、とても実践では使い出が、悪かったのである。
ゼイブスは、これを何とか解決しようと、魔法陣の研究をしていたのだが、中々上手くは行かない。
だがある時、街でぶらぶらしていると、小さな女の子がめそめそと、泣いているのを見つける。
何故泣いているのかを尋ねると、おつかいで来たのだが、粗悪品の袋が破れてしまい、品物を入れられずに、途方に暮れていると言う。
同行していたシュリが、泣いている子供に飴玉をあげたその時、ゼイブスは『ピーン』と来た訳である。
魔法袋を出し、魔力を込めた小さな魔石を、放り込む。
そしてそれを、女の子に差し出したのである。
女の子は余りに小さな袋だったので、不思議そうな顔をしていたが、品物が次から次へと、入って行くのを見て、大喜びだった。
小さな子供は魔力が極端に少なく、心配で家までちゃんと、付いていく。
万がいつ、道端で魔力枯渇で伸びても、困るからだ。
袋の効果があるかを確認した後、急いで帰宅して、早速、製作に取り掛かった訳である。
まずは、袋の回路になる魔法陣を、魔力吸収の良い魔物の糸で、刺繍する事にした。
制御陣はまず、基本の空間膨張を内側に刺繍し、表には、大気の魔素を吸引する陣を、刺繍する。
次に袋を縛る紐皮を、この魔法糸を芯にして、縒るように細い皮紐にした。
魔力の安定の為に、捨て値で買える程安くて、ごく小さな魔石に穴を開ける事にする。
これを、紐通しの間に通して行くと、良い具合の茶巾袋に、仕上がった。
これで、袋に取り付けた魔石が、魔素を吸い続け、本人の魔力をほとんど減らさずに、済む事になった訳である。
こうしてギルドを径由し、この大陸に広がって行くのであった。
とりあえず完成だが、ゼイブスはここからが違った。
魔法袋の制作方法を、ギルドにすべて無償で譲渡し、それを開示したのである。
ギルドに、恩を売った事になったゼイブスは、薦められるまま、各街町に商人をあてがって貰い、大々的に商売を、進めて行く事になる。
更にここから土地を購入、店舗の増設を推し進め、これがゼイブス商会となった。
これをズボンや、スカート、上着のポケットになる袋にも、対応する様に改造すると、各地の衣料品店に卸を始め、一般人にも爆発的に、売れるようになって行くのであった。
更には、リュック型も発売され、次々と新作を披露して行く。
人手ははギルドに任せた上で、とうとう店の経営も、ギルドに任せてしまう。
当の本人は、お金が唸るほど出来たので、己の趣味である魔導具の開発を、次から次へと、推し進めて行く事になる。
その後、腕のある職人や弟子を集め、工房を作るのである。
ギルドとしては、大量の雇用を促し、更には、今まで見向きもされ無かったメレ魔石も、大量消費出来る上に、若い冒険者達が、弱い魔物でもそこそこの収入を、得る事が出来た訳である。
こうして、ギルドの資金力や力は、揺ぎ無いものに成り、この大陸の両国とも、平等に渡り合える事になった。
そして、ゼイブスの名声も同時に、轟いて行ったのである。
工房では、人形制作を主な生業としているが、予約発注のみである。
ほぼ、オートマタンのみであるが、依頼としてのオートマタも、ここで製作している。
但しだが、軍需用は作らせず、尚且つ心臓部だけは、ごく少数の直弟子にしか、その秘伝を伝えては居ない。
さて、話をキャンプ中の、一行に戻そう
料理担当は、エマとゲルチョだ。
「エマ殿、料理はやるんですか?」
「エマでよい。まぁ普通にはやるさ。ゲルペス殿は冒険者だけあって、腕前はそこそこであろうな」
「ゲルチョでいいぜ、ああサリとやってた頃は、もっぱらあいつ等の、お抱えシェフだったぜ」
「ガッハッハ」
笑いながら、材料を出して行き、切りながら、下拵えを済ませていく。
「これは食った事は無いが、旨いのか?身がぶよぶよして、何か気持ち悪いぞ」
「ピードだろ?まぁ食って見な。論より証拠って奴だぜ」
まずは、ヴィペラチエントから下拵えの様だ。
ぶつ切りした身は、岩塩と香りの良い香草を振りかけ、バヌーと言う大きな葉で、3重に包み込む。
これを焼けた炭の中へ敷き、更に焼けた炭を、重ねて焼いていく。
エマが気になる食材も、やっていこう。
あらかじめ、身だけにしておいたアイアンピードの肉片を、分厚く切って、岩塩を振り、網で焼いていく。
これを食べる時に、レモンの果汁を絞って、食べるそうだ。
お次のマンテイチュラは、大蜘蛛だ。
こいつのお腹には、とても旨みの強い卵黄の様な、ミソが入っている。
お湯を沸かして、その中へ溶き入れ、塩で味付けすれば、スープの完成だ。
パンはいつもの黒パンだ。
硬いが日持ちするので、冒険者必須の、食べ物の筆頭である。
軽く炙った、パンにチーズを乗せれば、それだけでも一食にはなる。
『ブルモスの卵は、湯がいておこう。明日の、朝飯にでもしようか』
「しかし、このゼイブスの袋は、特注じゃの?」
「そうだな、こっちは生もの用で、中身が冷蔵で保存可能だぜ。野菜用は真冬の気候位だな」
「こっちは保温用か、そのうち調理用で過熱袋も、出てきそうじゃの」
「そりゃ駄目だろうぜ、間違って手を突っ込んじまって、火傷しちまう」
「ガッハッハ」
二人は和気藹々で、話が弾んでいる様だ。
まさに、美女と野獣を絵に描いた様な、場面である。
ゼイブスの作業を見てみよう。
シュリの本体を、バラした後の洗浄作業に、入っている。
「シュリを助け出した後のアレ、何だったんですか?」
いつの間にか、サリーが傍らに来ている。
「ああ、首から差し込んだあれか、あれは中和剤じゃ。ブラッドスタッグバッグの消化液は、厄介じゃからな」
皮膚を外し本体を開くと、部品を丁寧に洗浄をして行き、それを一つずつ綺麗に拭き上げて、容器に収納していく。
生物素材と金属を、仕分けして行き、それぞれ交換部品を修理、或いは交換して行かなければならない。
「生物素材は、骨組み以外、殆ど使い物にならんのう」
「あれが私に刺さっていたかと思うと、思わずぞっとします」
エマも心配で、見に来たらしい。
「大丈夫じゃ、丁度素材の補充も、出来ておるしのぉ」
洗浄が終わり、あちらこちらの補修や部品の組み立てを、まるでプラモを組み立てるように、手際良くやって行くのであった。
「さて、起動じゃ」
いつの間にか全員が見守る中、再起動は無事に行われた。
シュリは起動すると、辺りを確認し周りを見回し、自分の体の再点検をしている。
「どうじゃ?」
シュリは立ち上がり、皆と少し距離を取ると、一通りの演舞を披露した。
思わず、エマが飛びつき抱きしめる。
「エマ様・・・もう大丈夫ですわ。そしてご主人様、皆様もご心配をおかけ致しました」
エマに抱きつかれながらも、深く頭を下げるシュリであった。
「んじゃあ、飯にすっか」
「はい、お給仕致します」
シュリはエマを引き剥がすと、袋から折りたたみのテーブルに、椅子と食器類やらをテキパキと出して行き、給仕に励むのであった。
「これは、バヌー葉の包み焼きだな、ゲルチョの得意技だ。久々に食べられるな」
それは、ヴィペラチエントを笹の葉で包み、炭火の中に突っ込んで、ただ蒸し焼きにするだけなのだが、火の具合がとても、難しいものだ。
「これは!溢れる肉汁に柔かい肉質だな。もっと鳥に近い味だと思ったが。旨い、絶品だ」
エマはゲルチョを褒めちぎる。
エマは、こんな山奥で狩りなど、殆どした事が無かったので、初めての食味が多いのである。
特に、ここは霊山と呼ばれ、特別な許可が無い限りは、冒険者でも立ち寄れない場所だ。
それだけ、危険に満ちている山とも言えようか。
黒パンはエマが切り分け、網で軽く炙って、配っている。
余程お腹が空いていたのだろう、次から次へと催促の手が伸びている。
「このスープも絶品じゃのぉ、濃厚なミソじゃわい」
ゼイブスは、このスープがいたくお気に入りの様子で、お代わりをしている。
「ふぅー、お腹が一杯じゃ。ゲルチョはほんに、料理が上手いのう」
「いやあ、雑で下世話な料理だぜ」
ゲルチョは、満更でもない顔をしながらも謙遜するが、男として、こんな美人に褒められて、喜ばない者は居ないはずだ。
現に本人は、心の中で小躍りをしていたに違いない。
サリーが『ニヤニヤ』しながら、ゲルチョを見ているが、からかいはしないらしい。
その代わりに何やら、意味深げにエマに話しかける。
「エマ殿はその、独り身のようだが、誰か良い人は居られないのですか?」
「おらん」
つい、無愛想に返事をする。
「その端麗なお姿から推測致しますが、さぞや、おもてになられるのでは無いかと」
『キッ』と、サリーを睨み付ける様にまたもや、吐き捨てるように言い放つ、エマであった。
「釣り合いが取れぬ」
皆はその美貌と、武力での『釣り合いが』との見識だったが、実は、本人の本心は違う所にあった。
しごく残念な顔を見せるゲルチョに、何か申し訳ない様な、気持ちになったサリーは、これ以上の追求はよし、話題を変える事にした。
「その珍しい剣の事を、お聞きしても宜しいですか?」
「これか・・・亡き父の形見じゃ。何がしかの竜族の尾らしいが、見た事は無いがの」
「触れても?」
「ああ」と言いながら、腰の竜剣を差し出した。
鞘ごと手渡れたが、そのずっしりした重みに耐え切れず、落としかける。
『サッ』とゲルチョが手を差し出し、剣を受け止める。
「おめーには無理だろ」
ゲルチョはエマに、抜いても良いのかを聞き、承諾を得るとその柄を握り、『スーッ』と抜き身をする。
「ほう、抜けるのか」
「まぁ・・・抜けたぜ、しっかし重いな」
その時異変が起こる。
トロンバ・ダーリャから淡い光を放たれ、ゲルチョの魔力を吸い始めたのだ。
「おっと、それまでだな」
エマが竜剣を受け取ると、腰に仕舞った。
シュリが食事の後始末を行い、ハーブティーを作っていると、何やら結界の外が騒がしくなり、全員が身構える。
キャンプは楽しいものです。
学生時代の想いで作りには、最適です。
山で森の涼をいただきながら、山で波を浴びて釣り三昧
お肌のケアも最近は必要ですよね。