抜粋編
フアンタジーな世界であるこの中で、素材を模索して
探検する主人公カイト
そんな主人公が料理人となり、本格的に料理を掘り下げて挑む。
様々な人間模様と、様々な料理の描写を少しでも楽しんで頂けたら、と思います。
尚、しばらく本編には主人公は出てきませんが、この世界を堪能して頂く為に、
様々な知識や概要を詰め込んで第一章は構成されています。
今回は主人公の物語を一部抜いた抜粋編となります。
どのような感じで行動していくのかを、見て貰いたかった為です。
お気軽に見ていただけたらな、と思います。
ここは西地区のスラム街外れの
荒れ果てた墓地 辺りは鬱蒼とした
森に囲まれている場所だ。
「良く来たな」
「へぇ 立会人も揃ってるのか・・・
で?由紀乃は」
「ここにいるぜ おいゼノ!」
男の後ろの厳つい男が、由紀乃の二の腕を
掴みながら前に押し出す。
「おい!何で猿轡までして縛ってんだよ。」
《ゼノ》「そりゃ逃げ出さないように、だろ?へっへっへっ」
=何やら決闘が始まるようだ。
相手は冒険者パーティーか?
何やら人質が取られている。
戦うのは《カイト=グランナート》
この物語のメインキャスターとなる
人物である。
しばし様子を伺う事にしよう=
彼女は目に涙を浮かべて、
ジタバタしている。
奴らのにやけ顔に、何とも言えない様な
腹立たしさを覚えるカイト
奴らはギルド所属の《ボーンヘッド》
頭はこの指図しているスカルだ。
長剣を差しているが直刀のようだ。
ゼノと呼ばれる恰幅のいい男は坊主で、
メイスを持っている。
力のありそうな奴だ。
一番背後には、フードをすっぽり被った小柄な
・・・『ん』?女か?《ワンド》
を構えている・・・魔術師だな、
その横には中肉のモヒカン男、
こいつも剣を携えているが、
がたいに似合わない大剣だ。
魔術師以外は革装備で、
やたらと金属の鋲と鎖で飾っている。
それぞれ右胸にクロスの骨の
マークが見える。
こいつらヘビメタなのか?
などと思いつつも
たし・・・か四人か?
確か奴らは五人いるはずだが
ふと、脇の木々に気配を追いやると・・・
感じるな、確かに一人潜んでいる。
『ふむ、上手く隠れているな』
俺と奴らの間には一人の男が立っているが、
恐らくこの争いの証人なんだろう。
「俺はギルドの職員で、立会人を
やらせてもらう《ガルツ》と言う。
宜しく頼む」
『この男、職員って感じでは無いな、
色は浅黒く体も引き締まっている。
そこそこやるんだろう』
頭のスカルはにやけた顔で
「おい!坊主約束の物は持ってきているな」
「ああ、ここに・・・」
俺は懐から宝剣を取り出し見せる。
この宝玉付きの剣、実は自作だ。
お遊びのお試しでこさえたものだが、
周りから見ると本物に見えたのだろう。
「約束は守ってくれるんだろうな」
「ああ勿論だともさ」
スカルは後ろのゼノに目配せすると、
ゼノは由紀乃の拘束を解き、
前に突き飛ばすとこう言い放った。
「チビ!真ん中まで歩け
坊主は剣をそいつに預けて貰おう」
由紀乃は猿轡をずらせながら、ゆっくり歩き出し立ち止まる。
俺は剣を、由紀乃がいる方へと放り投げた。
「待ってろ、すぐに助けてやる!
隅で待ってろ」
「うっ・・うん」
『出会った頃よりも随分痩せこけている。
随分酷い生活をして居たんだろうな』
剣を受け取ると、由紀乃はスカルに促され隅に退避する。
※この国では私闘は禁じられている。
だが、段取りさえきちんと踏めば、認められているのである。
それがこのギルド公認の決闘である。
互いに申し開きをし、ギルドへと申請する。
ギルドは厳格な上、これを審査し認めるか却下する。
認められれば期日や時間場所の選定を行い、
両者に言い渡されるが、
外部には秘めなければならない。
それがギルドの掟だ。
こうして戦いが行われる訳である。
この国の法で裁ききれないような事、
はこうして決着が行われる事が多いのだ。
ギルド内には法律自体は存在しないが、この掟がある。
これを破れば恐らくは、まともには生きて行けないかも知れない。
だからこそ、正々堂々と行われるのである。
と言うのも、建前だが。
また同じ様に貴族間でも、
決闘が存在するが格下の者が、
格上の者へとの決闘は許されない。
また王族も決闘は許されていない。
スカルは「さて、チャキチャキやるか」
と言いながら、仲間も陣形を整える。
俺は立会人のガルツに向かって
「おい!こっちは一人だぜ?
タイマンじゃねえのかよ。」
と問いかけるが
ガルツはさもだるそうに、告げるのであった。
「これはお前とボーンヘッドの問題だ、
だから《ボーンヘッド》とでやってもらう。
嫌なら止めときな!」
『まぁ・・そんなとこだろう
イメージは既にしてある。』
ガルツ「さぁ始めてくれ」
『奴らは顔を斜に構え、ゆっくり武器を構えようとしている・・・だが』
俺はガルツの合図とともに、俺は猛然
とダッシュしながら、先頭のスカルの足元に
水と地の魔法を練りこみ沼を作ってやる。
『マーシュ!』
足元が膝まで嵌るのを確認してキャンセル、
即魔法解除すると、地面を固定する。
すかさずガルツの右わき腹に拳を貫き、
左側に抜ける寸前に体重を掛けて右猿臂で
その対の側を突く。
『前後でレバーを挟み打ちだ!
足は固められているから、ダメージは逃げない。
暫くはもんどり打って貰おうか』
肘打ちの反動でさらに、左手のデブに向かう。
奴は《メイス》を振りかぶっている。
俺は奴の目の前で両手をレシーブするように組み、
屈めるだけ屈む。
面を喰らった様だが、奴はその体勢のままメイスを振り下ろす!
曲げるだけ曲げた体バネに、その反動を使い、
奴の武器の柄頭を目掛け、
その握り手を打ち当てる。
無刀刃取りだ。
これは真剣白刃取りとは違い、
相手の剣を受けずに無効化する技である。
奴の手をメイスの持ち手がすり抜けると、
使い手を失い『ポーン』と宙を舞う。
武器を失ったその手は宙で空振りし、
奴の顔の位置がちょうど俺の前に来る。
そのまま膝蹴りで顎を砕いた!
『ゴキッ』 鈍い音が聞こえる。
俺は落ちてくるメイスを片手で受け取めると、
すかさず横なぎにデブを打ち払い、
右に居るモヒカンにぶつけると、
奴らは上手い具合に下敷きになってバタついている。
ふと魔術師を見ると、慌てて詠唱を始めている。
《ファイヤーボール》だ!
ワンドに炎が集まりつつある。
俺は慌てずメイスを捨て、無詠唱でわざと相手のワンドの眼前に、厚めの水盾を作る。
『アイスシールド』
このまま放てば、女の目の前で炎と水がぶつかり合い、
高温の蒸気が発生しただの火傷では済まない。
自前の魔法では傷つく事は無いが、
跳ね返されたりこうした二次的な物はダメージを受けるのだ。
この一瞬の狼狽を見逃さず、
魔術師の女が目の前の異変に慌てたところを、
すかさず左拳で水月に当身をあてる。
女は膝から力無く『ずるっ』と落ちていく。
さて、残りは一人
立ち上がったモヒカン男は、やたらめったに
『ブンブン』と長剣を振り回す。
「おいおい、剣はなぎるか突かないと切れないぜ」
『フアイヤーボール』を詠唱して、男にゆるく投げつける。
モヒカンが剣で受け止め、その場で燃え上がり消えるのを見計うと、
お次の呪文だ。
『ウオーターボール』
『水球なんか威力の無い事は、良く判っているんだよな、でも』
男は水を断ち切ると、こちらへ突進してくる。
ようやく疲れて来たのだろう。
息を切らせて、男の動きがやけに鈍くなって来る。
男の長剣の刃腹に左手を添え、梃子の要領で、
逆に刃腹の外から内に右拳を打ち込む!
『パキン』
《刃折り》だ。前もって普通の鉄剣とわかっていたので狙ってはいた。
並みの剣などはこうして、熱して冷却すればもろい物だ。
『こうやって慌てる奴は、両手の力を強く
握り締めているので、やり易い』
「ヒ、ヒェー」モヒカンは無様に尻餅を突いた。
ゆっくり拳を振りかぶると、立ち止まるのを待ち受けていた様に、
吹き矢が飛んでくる!
首を狙った吹き矢は、右手で素早くガードして受け止めた。
「ちっ」
俺は右の二の腕に刺さった吹き矢を抜くと、
その矢先は青黒く濡れている。
『恐らく、俺を殺すより捕獲前提だろうから、
麻痺か遅効性の毒矢だろう』
二の矢、三の矢が続けて放たれるが、
俺はそいつを同じ様に右腕で受け止めた。
眼前のモヒカンが勝ち誇ったように立ち上がり、
代替のダガーを懐からゆっくり取り出して、にやつく。
「ハッハッハ、そこまでだ。
その麻痺毒は良く効くんだぜ。
後でゆっくりいたぶってやるよ、坊主」
「で?」
なんとも無い俺は、最初に取った吹き矢を、左の親指で弾き
そして、モヒカンの鼻っ柱に飛ばした。
次に手早く、腕に刺さった二本の吹き矢を抜き取ると、
右指で木の茂みに勢い良く弾き返す。
『すまんな、俺の手足には毒の類は効かない。義手、義足だしな』
ドサっと男が落ちてきた。
「ほんとこの毒、良く効くな」
「ひぃ」
モヒカン男はまたもや尻餅を付き、怯え顔のまま沈んでいく・・・
『ふぅ 終ったか』
油断をしていた訳じゃなかった。
その時、由紀乃からの叫び声が聞こえてくる。
「カイト!後ろっ!」
・・・
この時薄れ行く記憶の中で、
ぜぇぜぇ言いながらスカルの声がかすかに聞こえた。
「良くやったぜ、ガルツ」
『ちっ、グルか』
起きたら・・・薄暗い牢屋の中であった・・・
前書きにも記しましたが、主人公はまだ出ません。
しかし、それに関連する始まりでもありますので、しばしご容赦を下さいませ。
次回からは本編第一章の始まりとなります。
是非、この世界をご一緒に堪能できたらなと、思います。