雷鳴のマーヤ(1)
昔々、あるところにマーヤという若い女がいました。
彼女は生まれつき雷の魔法と相性が良く、怒るとすぐバチバチーっと青白い雷を洩らすので、みんなからは『雷鳴のマーヤ』とからかい半分のあだ名で呼ばれていました。
そんなマーヤですが、ある日ふらりと村にやってきた都会の男に恋をしてしまいました。
マーヤは彼に夢中になりました。
しかし、彼は数日もしない内に都会へ帰ってしまいます。
三日後、彼が恋しくて恋しくて辛抱しきれなくなったマーヤは、彼を追いかけることにしました。
「マーヤ、マーヤ。可愛い私たちのマーヤ。あぁ、どうか行かないでおくれ…」
そうすすり泣く父母の声を振り切り、マーヤは走って村を出ます。
村を飛び出し、意気揚々と都会へ向かうマーヤ。
けれどマーヤは男から聞いて都会の大まかな方向は知っていましたが、安全な道など知りません。
そんな彼女にとって、初めて見た村の外の世界は危険に満ちていました。
身ぐるみ剥ごうと襲いかかる盗賊、腹を空かせてこちらを伺う狼や狸などの獣、果ては縄張りを犯されて怒り狂う、火吹きトカゲや毒吐く大蜘蛛といった魔獣……
マーヤの旅路は辛く、厳しいものとなりました。
けれど同時に死と隣り合わせの旅はマーヤの才能を開花させました。
感情の高ぶりによって洩れ出ていた雷は完全に制御され、魔法を使う時に散っていた雷は収束・変形できるようになり。
魚が好きだったマーヤがいつも魚に変えている内に、いつしか魚のように空を自在に泳ぐ雷へと変化していきました。
いくつもの盗賊団を潰し、魔獣に苦しむ数々の村を救ったマーヤ。
雷光のように輝く長髪をなびかせ、強大な魔獣を颯爽と倒していく彼女を見た人々は言い合います。
「なぁ、あの青く輝く雷魚を従えた美しい女性は誰なんだ?」
「おいおい、知らないのか?」
「『雷鳴のマーヤ』だよ」
人々が彼女を称え、二つ名が国のあちこちでささやかれるようになった頃、マーヤはやっと都会にたどり着きました。
ちなみにこの世界の狸は可愛らしい容姿を利用して人間の子供や若い女を誘い出し、集団でなぶり殺してその肉を喰らいます。
怖いですね。