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その7

 早速、二百グラムのステーキを前にしているお二人さん。


「もう今後はないからさ、今の内に食べ溜めしといて……田部が食べ溜めって、ギャッハッハ!」


 この、思いっきりのデカ笑いに周囲を見回すおにぎり君。


「み、皆が見てますって。もう、恥ずかしいったらありゃしない」


「別に、いいじゃん。そうやって他人の顔色ばかりうかがってたらさ、キミって早死にすっぞ」


「そ、そんなあ」


 で、すぐに肉を頬張ってる二人だったが――


「あー満足した!」

 ビア樽如きお腹をさすってる田部君だったが、相手はいまだ肉に食らいついている最中だ。

 で、その様子を観察していると


「い、一体、何回噛んでるんです? まるで、本物の牛みたいですって」


 確かに、牛のように閉じた口を左右に動かしている木俣さんだが


「ん? いいじゃん。こうやってさ、十二分に味を噛み締めてるんだから」


「顎、疲れません?」


「実は……めちゃくちゃ疲れるのだった。アッハッハ」



 そして、ようやく食後のコーヒータイム。もちろん目の前の相手は、すでに紫煙で覆われている。


「ゴホゴホッ。お願いですから、天井に向かって吐いてくださいって」


「ここんとこ、つべこべ言ってくれるよね? 偉そうにさ」


「べ、別に偉そうにしてないですって。ただ、いつも言うように煙が苦手だから」


 だが、これに澄まして言ってくる探偵さん。


「じゃあ、今から禁煙席にでもテーブル移動したら?」


「し、しませんよ」

 すでに諦めた青年、ここでふと話題を変え


「見つかりますかね? 例のミニスカ娘」


「さあ? 何しろ、雲をつかむようなもんだからなあ」


 確かに一理あった。


「でも捜すのはプロの集団ですから、その内きっと……」


 しかし木俣さん、これを遮ってきた。


「モールでダメだったとすると、病院に病院に……」


 今度は助手が割り込んでき


「病院に美容院でしょ? そこは」


「お、すまんこって。で、他はペット屋に……あれ? もう一軒は何だっけ?」


 この相手の言葉に、無い顎が外れかけたおにぎり君。


「マ、マジっすか?」


「はいな」


「んもう! このステーキ屋さんでしょが!」


「ん……おお、そうだったのだ! だからこそ、今ここで肉を食らったのだった!」


 これに、大きな溜め息をついた田部君だ。


「はああー、しっかりしてくださいよ、ね?」


「はいな!」

 何ら悪びれもせず、調子よく答える木俣さんだったが


「じゃあ、早速捜してきてくれ!」


「こ、ここで? で、でも目撃者のしーちゃんもいないですよ」


「そんくらいはわかってるって。でもキミって駅前でさ、その娘だけは見たんだろ?」


「た、確かに目の前に来ましたが……」


 何故だか、いきなり歯切れが悪くなった相手。


「目の前に来たって……」

 ここで探偵、嫌らしい目つきをし


「ははーん。さてはおぬし、いつもの癖が出たな?」


「く、癖って人聞きの悪い。フェチって呼んでくださいよ、フェチって」


 そう、この丸顔の青年。実は、誰にも引けを取らないほどの“足フェチ”なのだ。


「もう、何の役にも立たんなあ……じゃあさ、今から若い娘の店員全員に質問するのだ!」


 さすがに、これには目を丸くした田部君。


「し、質問ですって? な、何て聞くんです?」


「そら決まってるじゃん」

 ここで顔を近づけてきた木俣さんが


「……『ねえ? 足首から太ももまで見せてくれません?』、だ。もはや、それしか手段は残ってない」


「はああ?」


「見たんだろ? その娘の太もも」


「た、確かに見ましたが……あ、いや、でもそれって、諸に変質者ですって」


 必死で抵抗するおにぎり君だが、相手はなおも


「でもさ、もう一回見てもその娘の足だってわかるだろ? キミならさ」


「そりゃあ……って、何を言わせるんですか! 犯人逮捕以前に、この僕が捕まりますって!」


 だが、これに心底残念がる木俣さん。


「そっかあ。うーん、キミにピッタリの台詞だと思ったんだがなあ」


 結局は捜査どころか、単なる日常会話に終わってしまったお二人さんである。


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