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その5

「だ、だから悪気はないんですって、木俣さん!」


 またもや羽交い絞めの田部君。


「はああ? おばちゃんに続いて、今度はおねえちゃんじゃなくって、おねえなんだぞう! どう考えたって、悪気の塊だろが!」


 まずはなだめる、こちらも健気な助手。


「まあまあ」


「ま、まあまあ、だと? そもそも、おねえって男だろが!」


 懸命なる助手、駄目と思いきや、お次は必死でフォローしてきたのだが


「だって背は高いし、ショートカットだし、声も低めだし、おまけにどっちが前か後ろかわからない体型ですし」


 これは効いた。


「な、な、何だとお? ひ、人が黙って聞いてりゃ、その最後のやつってのは!」


「あ、つい口が滑って」


「も、もう帰るぞ! だから、ガキなんて大っ嫌い……」


 だがこの時、脇よりスッと出てきた一枚の白き封筒。


「これ、謝礼といっては何ですが、娘の命の恩人として気持ちまで」


 母親から出された代物に目をやった、恐るべし金への執着心の持ち主。瓶底眼鏡を通し、一瞬でその厚みより判断してきた。


「ご、五十万も?」


――が、悲しいかな、噛んでしまった。おまけに余計な『も』によって、足元まで見られたかも?


「ええ。どうか、お受け取りくださいませ」


「まあ、そこまで仰るなら仕方ありませんね」


 こんな台詞とは裏腹に、相手の手からもぎ取るように奪った木俣さん。これを見た助手が、小声で


「ホント、素直じゃないんだから」


「何だと?」


 この時、声を張り上げてきたのは船虫警部。


「ささ! 捜査を続けましょう! もちろん、木俣さんも加勢してくれますよ、ね?」


 そこは“協力”だと思うが?

 だがこれに、早速頭の中で滞納してる家賃分を差し引いてた探偵さん。目をパチクリとさせ


「え? ま、まあね」


「どうも!」

 薄いオツムを一つ下げた警部、続けて隣の白子刑事に目をやりながら


「まずは、乗り捨てられていた二台のバイクだ。ピザ屋と宅配用の、な」


「すでに問い合わせ中です」


 この答えに満足そうに頷く船虫さん。後は現場に残って聞き込みしている、四名の部下の報告待ちである。

 はたしてその五分後、警部の携帯電話がいつものアニメソングを奏で出した。


「それ、みっともないからやめなさいって言ってるでしょが!」


 この探偵の言葉に、薄いオツムを掻く警部さん。


「でもね、木俣さん。息子が好きなアニソンでしてね、これが」

 そしてすぐに


「お、磯目君か……何? 目撃者が出た? ……白のワンボックスカー? で……そうか、やっぱり盗難車なのか……非常線を張ったんだな? じゃあ、ころあいを見計らって四人とも山科家に来るよう!」


 これを聞いた木俣さん


「ねえ、警部さあ。私のやる事ないみたいだから、これにて失礼するわね」

 そして隣に向かって


「おにぎり君さ、たまには回転寿司でも食べにいこか? でね、今日だけは“極上一貫もの”を許してしんぜよう」


 要は、一貫百円のネタである。だが、これに思わず嬉しがる田部君。


「や、やった!」


「フン。おにぎりのくせして寿司が好きとは、こら片腹痛いわい!」


 お馬鹿を言いつつ、さっさと部屋を出ようとするお二人さんだったが、その耳に背後より可愛らしい声が届いてきた。


「ねえ、ママ? しーちゃん、ちゃっきのおねえちゃんの顔、知ってるもん」


 これに足を止めたおにぎり君だったが、一方の木俣さんはというと


「フン。どうせガキの戯言だな」


と、そのまま部屋を出て行ってしまった。


「しーちゃん? 知ってるって、誰なの? そのおねえちゃんって。ね、どこで見たの?」


 思わず娘に顔を近づけた母親だったっが


「わかんないもん」


「わ、わかんないって。今、知ってるって言ったでしょ?」


 これに、もはや姿も見えない探偵さんだったが、その声だけは聞こえてきた。


「ほれみろ! じゃね、皆様ごきげんよう!」


 だが、そこは良心を持っている田部助手だ。すでに靴を履きかけている探偵に向かって


「き、木俣さんってば! やはりここは謝礼もいただいてるんで、捜査に協力しましょうよ!」


「はあ? 何言ってるんだあ? 回転寿司のネタも腐るからさ、早く行こうぜ!」


 こんなうそぶく相手に、田部君思わず


「んなわけないでしょ!」


 だが、かまわず靴を履いた相手は


「なあ、おにぎり君さ? ここまで危うい目をさせられたんだからさ、もういいんじゃね?」


「危うい目したのは、この僕ですが?」


「ま、とにかく」

 すっくと立ち上がった木俣さん、中に向かって敬礼し


「では皆様……再見ざいちぇん!」


 だがこの時、奥より母親が駆けてきた。


「娘がさらわれた理由も聞きたいので……是非これで、犯人逮捕にご協力を!」


 その右手より、またもや出された白き封筒。これを見た金の亡者、瓶底眼鏡ゆえ表情はわからない


「ご、五十万?」


――が、やはり、噛んでしまったのが全てを表している。


「ええ。どうぞ、捜査の資金にでも」


 再び、素早くもぎ取った探偵さん。ニコリと微笑み


「まあ善良なる市民として、警察への協力は義務ですからね!」


 どうやらこの声が部屋まで届いた模様で、思わずささやいた船虫さん


「『善良』なる市民が聞いたらまず十中八九、いや十、怒られるな」


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