その3
「へっへっへ! 上手くいったな!」
黒のバッグの中から顔を覗かせている札束に、得意げな短髪の若者。だがすぐに
「うん? 何か底に引っ付いてるぞ?」
これに、隣から同じ年恰好のロン毛の男が
「それって、レーダーじゃね? って言うかさ、デカすぎね?」
「おそらく旧式なんだろな? せっこいね、ったく警察ってのはよ」
この時、例のミニスカートの女が、持ってる別のバッグを投げよこしてきて
「ほら、さっさとこれに詰め込まないと!」
「お、そうだった!」
首をすくめた短髪野郎、すぐに札束を移動し始めるも
「おまえ、その格好似合ってるじゃん?」
これに女、うろたえながら
「ば、馬鹿を言うなって! 仕方なくやったんじゃないか!」
やがて無事に、全ての札束を詰め替え終えた短髪野郎。
「じゃあ早いとこさ、裏にとめてある車でとんずらするぞ」
この一言にロン毛が横目で、口と手足を縛られている女の子を見ながら
「どうする? これ?」
こう問いかけられた他の二人。そのうちの短髪が見ているのは、その子の目だ。
「いくらマスクしてるからってさ、顔見られてるからなあ」
そう言って、ポケットに手を忍ばせている。
だが、これを見たミニスカ娘が声を張り上げた。
「ダ、ダメだって! この子には、何の手も出さないって約束でしょが!」
「し、しかしなあ……」
「しかしも何もないよ! その約束で、あたしも加わったんだよ? 約束を破るつもりなら、こっちにだって考えが……」
これに圧倒された男、無論、ポケットより手を離し
「わ、わかったって! そんなにムキになるなって、冗談だよ、冗談!」
とにかく先を急ぎたい、ある意味正解なロン毛がまとめてきた。
「どうせ、こんなガキの言う事なんて誰も相手にしないだろ」
そう言いながらバッグを担ぎ
「おい、さっさと行くぞ!」
「了解!」
元気良く返事をした短髪だったが、ふと床に転がってるレーダーに手を伸ばしている。だがこれに一言、ロン毛の口から
「やめとけって! そんなクズ、一円にもならんぞ!」
「ハ、ハ、ハックショイ!」
唐突に、どデカイくしゃみを一発放った女流探偵殿。
「ズルル……一体、どこのどいつが噂してるんだ?」
「それより鼻すすらないでくださいよ」
二十分後に、ようやく現場に到着したボロ軽自動車。車屋より、次回の車検は通さないからね――ここまで宣言されているのだ。
そしてここは“いかにも”と言った風の、裏道に面した廃墟ビルである。
「生きてるから、鼻くらい垂れるわい……ほれみい、ちゃんと着いたじゃん!」
「ま、まあ。でもね、木俣さん?」
おにぎり君、その目を画面に釘付けしたまま
「まだ、ここにいるみたいですよ」
「じゃ、待っておこう。さっきハゲ虫に電話したから、そのうちに来るでしょ」
「でも、一刻を争うんで……僕、様子を見てきます」
そう言い残して車を降りた、勇気ある田部青年。すぐに、ビルの玄関内へと姿を消したのだが――その後、五分経っても戻ってくる気配がない。
「ホント! 世話のやけるやっちゃなあ、もう!」
大いにぼやいた木俣さん。おもむろに後部座席を振り返り、散らばってる道具を眺めている。
「相手は、おそらく男二人に女一人の三人だな。ならば、今回は……」
「ふうふう。重たいったらありゃしない!」
いくつかの道具を小脇に抱え、ビル内へとやってきた女流探偵。だが、中へ入るや否や
「おいこら? ここで何をやってんだあ?」
この声に驚いた田部青年
「わ、びっくりした! あ、いや、どうしようかなって」
「お馬鹿め。びびるくらいならさ、ずっと車の中にでもいろってんだ!」
「ど、どうも」
「じゃあ、これ持って!」
いきなり投げてこられた道具を、慌てて受け取ったおにぎり君。
「あ、危ないって!」
刺又なる、昔より使われてきた、相手の動きを封じ込める捕具である。だが、それにしても長さ二、三メートルはあろうかという代物だ。
「こ、これ、使うんですか?」
この問いかけに、何故だか相手は腹を抱え笑い転げているが?
「ギャッハッハ!」
「な、何がおかしいんですか?」
「だ、だってさ……まるで、猪八戒さながらじゃね?」
「猪……」
田部君、ようやくその姿を思い起こしている。
「し、失礼な!」
「あ、すまんすまん。でね、段取りだけどさ」
「あ、はい?」
「キミはさ、すぐに例のミニスカをそれで捕らえるんだ。ま、腕力では負けないから大丈夫だろう。それで、こちとらはさ」
木俣さん、左手に持っている何やら棒切れを指し
「このバトンタイプのスタンガンで、まずは男どもに衝撃を与えてから」
次に右手の鉄砲を前に出してき
「この催眠鉄砲でさ、続けざまに顔面に攻撃するから。これって信頼性が高いドイツ製だよ、ドイツ製!」
「何を自慢されてるんだか、よくわかりませんが?」
だが、この声も届かず、嬉しそうに説明を続ける紛れもないドS探偵。
「で、最後には、ひるんだところを連続金的蹴り……ハイ、これにて終了!」
「さ、さすがに場慣れしてますね……というか、うら若き女性が金的蹴りって」
「こんな時だけ、女性呼ばわりすんな!」
一声吠えた木俣さん、首を左右にボキボキ数回鳴らした後
「ま、とにかく参ろうぞ!」