その2
「んもう! ホント、ドジ野郎なんだから! ミニスカ娘にデレデレするから、そうなるんだぞ!」
助手席より、ボロ糞に言われている田部助手。元はといえば、この隣の御仁の身代わりになっただけなのだ――それも時給引き下げをネタに、半ば脅されて。
「そ、そんなデレデレなんて。つい、渡されたチラシが気になっただけで……それに、元々は木俣さんの任務だったし」
「はあん? しゃあないでしょが、こちとら二日酔いなんだから」
「そ、それって、単に“華乙女”の飲みすぎ……まあ、いいですが」
これ以上何を言っても無駄なことくらい、すでにわかっている助手。
「それよりさ、おにぎり君。こんな事もあろうかと……」
こう言いながら、ハンドル横にテープで貼ってあったハンカチを剥がした木俣さん
「ジャジャーン! これを見よ! 何と追跡レーダーなのだ!」
「もう、何をつまらない演出してるんです? こんな一大事に」
「いいじゃん、別に……で、早速スイッチオン!」
だがこれが、なかなか作動してくれない。
「これって、またまたオークションでの落札品ですか?」
「おお、そうとも! 悪いか?」
「いや、何気に精度悪そうだから……」
だが、この時
「おお! ついた、ついた!」
思わず声を上げた探偵、その画面の中の赤く点滅しているものを指し
「これね、バッグの底に仕掛けた何かの部品が反応してるんだ」
「何かて」
ここで探偵、傍らの携帯電話を手に取って
「もしもーし! ハゲ虫さーん!」
これに、すぐさま相手から
「き、木俣さん! んもう、田部ちゃんに任せたりするから……」
「それよりもさ、持ち逃げされたバッグが我がレーダーに反応してるのだ!」
「ええっ? そ、そうですか! さ、さすがは女流探偵さんだ!」
評価がコロコロ変わる中、目の前の画面の変化に気づいた瓶底眼鏡の探偵。
「ありゃりゃ? こっちに引き返してきたぞ?」
「え? ちょ、ちょっと」
一旦、声が途切れた船虫さんだったが、すぐに
「べ、別のヤツにバッグを渡したんだ! お、おい! こっちに向かってきた、あの宅配便のバイクだぞ!」
それからというもの、携帯電話は放ったらかしで叫びまわる船虫さん。
「おい! 皆、Uターンだ! 黄色の宅配バイクを追え!」
「白子君! こっちも早く引き返せ! んもう! 一体、何回切り替えしてるんだ?」
「おい、水巻君! 50メートルくらい前に見えるだろ? な、な、何? み、見失っただと?」
これら携帯電話から聞こえてくる警部の声を、途中のコンビニで買っておいたパンを齧りながら、暢気に聞いている木俣さん。
「モグモグ。旨いなあ、この揚げパンって……あ、こら間違いなくまかれるだろなあ」
どんどん遠ざかっていく、赤の点滅。
「パクパク。おお! この焼きそばパンもいけるぞ……で、こいつらさ、どこまで行くんだろう?」
やがて、それが動かなくなったのを確認し
「ペロペロ。へえ? カスタードとホイップねえ、なかなか凝ってるじゃん……ん? あれれ? 止まったみだいだなあ」
これを、一緒に見ていた田部君が
「ここに、やつらが潜んでいるんでしょうか?」
「ムシャムシャ。やっぱ、〆はマヨ&コーンだよな……あ、おそらくね。じゃあ、早速向かってちょ!」
「あのう? 一体、何個パンを食べたら気が済むんです? あ、それより、向かってって言われてもナビついてないし」
だが、ぶつくさ言ってくる助手に声を張り上げる、そこらの子供みたいに口の周りの至るところを汚しまくってる探偵。
「んな贅沢品など要らん! 東西南北さえ理解しときゃ、そのうち着くって!」