SECT.11 ファイアライト=リドフォール
次の日の午後は鷹部隊の稽古初参加だ。ルークとロナルドとジン、それにライディーンの4人と共に鷹の練習場へと向かった。
稽古場の扉をあけると、すでに何人もの騎士が激しい打ち合いをしていた。
その中に金髪のファイさんの姿があった。
こちらに気づいて打ち合いをやめ、優しげな笑みを湛えてやってきた。
「いらっしゃい。4人はすぐに準備を始めていつものように訓練に移ってください。ラック、あなたは今日見学です。簡単な紹介と案内をします」
「お願いします」
深く頭を下げると、ファイさんはにこりと微笑んだ。とても笑顔の似合う人だ。
隣に並んで歩き出したが、それほど見上げなくてもいいということはクラウドさんより少し背が低いくらいなんだろう。
「鷹部隊は、漆黒星騎士団の中でも中心的な戦力となる、剣技に優れた部隊です。現在所属は156名、ライガ=アンタレス部隊長の下につく5名のリーダーによって統率されています」
「ファイさんもリーダーなの?」
「いえ、私は未熟者ですから一隊員に過ぎません。配属されてからまだ3年目ですし、ライガ隊長のようにもって生まれた天賦の才もありませんから」
「でも騎士団に入ったんだからやっぱり強いんでしょう? ヴィッキーだって強かったし、えと、おれに剣を教えてくれた元騎士のヒトも強かったよ」
「そうですね、一般の人に比べたらかなり戦闘力は高いでしょうね」
ファイさんは苦笑した。
「騎士団は王国を、ひいては国民を武力から守るためにあります。そのために鍛錬を欠かさず、常に戦闘を行える状態でいる事が大切ですから」
守るため――その言葉にはとても聞き覚えがあった。
唐突に聞いてみたくなった。
「ファイさんはどうして騎士になろうと思ったの?」
自分がレメゲトンになる事を選んだように、きっとこのヒトが騎士になる時も強い意思があったはずだ、と思った。
自分以外のヒトがどんな風に道を選んできたのかを知りたかった。
「どうして、というのも難しい質問ですね」
ファイさんは一瞬立ち止まって首をひねった。
その横顔をじっと見つめていると、彼は一瞬至極まじめな顔をして答えた。
「憧れた人が騎士だったから、ですかね」
「憧れた人?」
聞き返すと、金髪の騎士はまたいつもの笑顔に戻っていた。
「命の恩人とでも言いましょうか。私は王都からずっと離れた山奥で育ちました。そのせいか幼い頃は少々無鉄砲でしてね、一度とても危険な目に遭いました。それこそ死ぬ寸前まで追い詰められたんですが……そんな私を助けてくれた人がいたんです」
「その人が騎士だったの?」
「はい」
ファイさんはにこりと微笑んでからもう一度歩き出した。
歩幅に合わせてゆっくりと歩を進めてくれる優しさを感じながら、隣についた。
「名も知らない騎士でしたが、その勇壮さと機知に子供ながら憧れたのが騎士道のはじまりです。そうですね、彼が覚えているのならもう一度会いたいものです。そして騎士になった自分を見て欲しいと思いますね」
「そうかあ。会えるといいね」
「ありがとうございます」
憧れるヒトがいるのはとても素敵な事だなと思う。
自分にもいるだろうか?少し考えてみた。
ねえちゃんは憧れるとは少し違う。一緒にいたい。心配かけたくない。甘えたい。ねえちゃんは世界の全てだから。
アレイさんは?うーん、できればああはなりたくない。剣の腕は素晴らしいけど、イジワルだし口が悪いし、憧れるとはちょっと違うだろう。
じぃ様やベアトリーチェさん?いや、それも少し違うだろう。
他は……?
「うーん、おれはきっとマルコシアスさんみたいになりたいな」
「マルコシアス……と言うと戦の悪魔のですか?」
「そう。強くて綺麗で、優しくてあったかい。あんな風になりたいかなあ」
「戦の悪魔とは、大変な目標ですね」
ファイさんはくすくすと笑った。
「うん、本当に大変だよ!」
でもいつかあんな風になれたら。
オッドアイと不敵な笑みを思い出して、微笑んでしまった。
ルークたちは大人の騎士たちの打ち合いに混じっていた。
そうすると黒猫ルークと狐のジンの小柄さはすごく目立つ。大丈夫なんだろうかと見守っていると、ルークは自分の倍もありそうな相手と向き合っている。
「今年はとても優秀な人が多いんですよ。特にルークとライディーンは他の鴉部隊員からは飛びぬけています」
「へえ」
見ていると、ルークは素早さと太刀の鋭さを生かして早々に勝負を決めた。
大人の騎士相手に、しかもかなりの体格差があるというのに信じられないような早業だった。
「ルークは今年になっての伸びが凄まじいですね。もう2・3年もすればリーダークラスの実力を手に入れると思いますよ」
「ライディーンは?」
「彼は本当に……天才です」
ファイさんの視線の先には、15歳とは思えない長身で木刀を構えた紅髪の騎士の姿があった。
「今年の入団試験を文句なしのトップで合格しました。これまで剣術大会に出場した記録もなく、こちらとしては全く予想外の結果です。何より他にない独特の剣術を学んでいます。詳しいことは彼自身もよく知らないそうです。祖父が剣の達人で、その方から教わったとか」
「ふうん」
見ていると、試合が始まった。
ライディーンは両手で剣を持っている。
自分のように力が無い者ならともかく、普通は片手に盾を持つため剣も片手で扱うのが基本だ。アレイさんも普段左手だけで剣を持っている――とはいえ、盾をもっているところは見た事がないのだが。
しかもライディーンのもつ木刀の切っ先はだらりと地面に下がっていた。あれでは構えも何もない。防御をする気がないのか?
と、思った瞬間相手が切り込んできた。
危ない、と思う間もなく頭上に木刀が振り下ろされた……と思ったのだが。
頭に当たる直前で木刀がぴたりと止まった。
「ライディーンの勝ちです。先に胴に攻撃が入りました」
「!」
切っ先を下げていたのは防御を放棄したわけではない。
下から切り上げるようにわき腹を狙ったのだ。ガードを下げ、わざと上から攻撃させて下からの攻撃を見づらくするために。
紅髪の剣士は一礼すると武台から降りた。
「すごいね。ああいうのは初めて見たよ。両手で剣を持つ人って少ないんじゃない?」
「そうですね。とても珍しい型です」
ファイさんは頷いた。
「しかし他にも様々な剣を使う騎士がいますよ。中でも珍しいのは隊長ですね」
「ライガさんが?」
「はい。隊長は無流です。独自流と言うか型がないというか……それこそ天性の格闘センスと身体能力、それに動体視力を駆使して通常ではありえない攻撃を仕掛けてきます」
「へえ、それも見てみたいな」
「そのうち見られると思いますよ。今日はクラウド団長に用があるとかで訓練には参加していませんが、明後日ラックが来る時にはいると思います。」
「楽しみだ!」
最近楽しみが多い。
強くなるために鍛錬すること、今まで知らなかったことを教わるのがこんなにも楽しいとは思ってもみなかった。
そしてその訓練を共有する仲間がいるという事実も。
不謹慎な事だが、とても楽しかった。
朝早起きしてヴィッキーたちと秘密特訓をし、午前午後は様々な場所で稽古、夜は一人屋上で千里眼の練習――その後は倒れるように眠る日々が続いた。
もちろんそれでも、心の片隅には今も東の都トロメオでセフィロト国の侵入を防いでいるねえちゃんたちの事がわだかまっていた。
今どうしているんだろう。怪我をしていないだろうか。
毎晩、千里眼の練習を終えた後に夜空に向かって祈りを捧げた。
みんな無事でいますように!




