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LOST COIN  作者: 早村友裕
第二章 LAST DANCE
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SECT.2 はじめての剣術

 ねえちゃんに新しく作ってもらった篭手を両手にはめた。左手の甲に埋め込まれたコインが隠れて少しほっとする。

「どうしたらいい?」

「最初は木刀だ。短刀以外は使ったことがないのだろう」

「はあい」

 アレイさんから木刀を受け取って右手で構えると、マルコシアスさんが不意に近寄ってきて木刀を両手に握らせた。

「これは短剣に非ず 片手では弾き飛ばされる」

「とにかく剣はしっかり握れ。落とすな。落としたら終わりと思え。そのうち体術も教えるが、体の小さいお前にとってそれは本当に最後の手段だ」

「分かった」

 ぎゅっと木刀の柄を握って構えると、アレイさんが目の前に立った。

「スタンスはゆるく、肩の力を抜け……そうだ。相手の目から視線を外すな」

「基本は短刀と変わらぬが 間合いが遠い 用心せよ」

 マルコシアスさんが自分の後ろについた。

「アレイ 力を抜け 唯の稽古だ」

「はい」

 アレイさんの真剣なまなざしを受け取って、しっかりと見返した。

「簡単な組み手だ。話しながらでも軽く受け流せるように型を体に叩き込むことにする」

「刃をよく見ろ 力に逆らわず 受け流せ」

 アレイさんが木刀を振り上げた。

 まっすぐに振り下ろされてくる軌道を読んで横になぎ払った。

「違う 力で捻じ曲げず 水に揺れ風に誘われる 木々の揺らめきの様に」

 構えを戻して次の攻撃を待つ。

 横からなぎ払うような攻撃をまともに受けると、手がびりびりと震えた。

「そんな受け方をしていたら非力なお前では体が持たない」

 言われてはっとする。

 ラースが自分の体を使ったとき、ものの数分で自分の体に限界が来たことを思い出した。

「もっと流れに身を任せるんだ」

「難しいよ!」

 何度か打ち合って手がしびれそうになったころ、マルコシアスさんはいったん自分を止めた。

「一度 見るといい」

 自分から木刀を奪ってアレイさんの前に立つと、軽くアレイさんに打ちかかった。

――速い!

 音速で振り下ろされた木刀を、アレイさんは受け止めもはじきもせずにまるで撫でるようにして軌道を変えた。

「!」

 ほとんど木刀がぶつかり合う音もしない。

 すごい。

 アレイさんの動きはまさに流れるようで、攻撃を受けているというよりは軽くかわしているだけに見えた。

 すさまじい速さで打ち合った後、マルコシアスさんは不意に間合いを切った。

 オッドアイをこちらに向け、軽く微笑む。

「見えたか」

「見えた! すげえ!」

「眼は良いようだ すぐ上達する」

「言ってることが判った気がする。やってみるよ!」

 マルコシアスさんから木刀を受け取って、もう一度構えなおす。

 紫の瞳をまっすぐに見つめた。

「相手から目を離すな!」

「力を抜いて しっかり刃を見ろ」

「はい!」



「精進せよ 幼き娘」

「はい! ありがとうございました!」

 数時間後、ようやく特訓を終えて床にへたり込んだ。

 もう汗だくだ。

 呼吸を整えながら座り込んでいると、マルコシアスさんが近寄ってきた。

「大丈夫だ すぐに強くなる」

「ほんと?」

「筋がいい アレイとの契約を思い出す」

「契約の時? アレイさんが3ヶ月も帰って来なかったっていう……」

 そう聞き返すと、マルコシアスさんは少年のような顔で楽しそうに笑った。

「3ヶ月か 精々30時間ほどだと 思ったのだがな」

「おかげでかなり鍛えられました」

「時間の流れが違うんだよね。向こうのほうがゆっくりなんだね」

「ゆっくりとは限らない。時空列に規則性がない。速いときもあれば遅いときもある」

「そうなんだ。んじゃあ年のとり方も違うの?」

「もともと我等 年をとらぬ 外見はそれなりに変えられる」

「んじゃあ今の見た目は作ってるって事?」

「形を変えようと意識せねば こうなる」

「背中の翼も?」

「これは我が 堕ちた証 常に存在する」

 マルコシアスさんの純白の翼はとても魅惑的だった。

「あの……触ってもいい?」

 恐る恐る尋ねると、マルコシアスさんは微笑んだ。

 アレイさんは奇異なものを見るように驚いた目でこっちを見た。

「許す」

「ほんと!」

「マルコシアス! このくそガキを甘やかさないでください!」

 嬉しい。前にねえちゃんの使役する悪魔クローセルさんに頼んだときはにべもなく断られたのに!

 マルコシアスさんが体を横にずらして翼を差し出してくれた。

 左手を出すのは憚られたので、純白の翼にそっと右手を伸ばした。

「……あったかい」

 暖かくて柔らかくて気持ちよくて、不思議な感じがした。

 吸い込まれそうでしっとりと絡みつくような手触りに思わず翼の表面に手を滑らせていた。

「気持ちいい……幸せだ」

 穏やかな気持ちになれた。まるでアレイさんの腕の中にいるみたいだった。

「満足か 幼き娘」

「うん……この羽根、すごく素敵だね」

「一枚抜いて 持っているといい」

「いいの?!」

「構わぬ」

「ありがとう!」

 翼の表面に並ぶ羽根を一枚選んで、思い切って引き抜いた。

「……痛くなかった?」

「心配せずとも 大丈夫だ」

 もらった羽根をじっと見つめる。

 ここは屋内だというのに陽の光を反射したようにキラキラと輝いて、動かすとその風で草原のようにさざめいた。その上手触りは極上だ。

「アガレスさんにも羽根はあるのかな?」

「奴は 翼を鳥に変えた」

「あっ、あの鷹がアガレスさんの翼だったの?」

「翼と 失った眼の代わりだ」

「!」

 そうなのだ。自分が契約した第2番目の悪魔アガレスさんは横一文字に切られた傷で両目の視力を失っていた。

「ねえ、マルコシアスさん。アガレスさんの目の怪我……誰にやられたの?」

「それを 我に聞くのか 幼き娘」

「……あ、うん、ごめん、本人に聞くよ」

「それがいい」

 そうは言ったものの、アガレスさんからひどく長い回答を受け取るだろう事を予想してげんなりとした。

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