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LOST COIN  作者: 早村友裕
(幕間)FRAUD CALM
144/359

--- おわり ---

 夜を待って出発を決めた。

 見送りは少ない。クラウドさんとダイアナさん、そしてようやく意識を回復したリッドの3人。

 同時に、この3人だけが『ウォル』と『グレイス』の記憶を残している。

「リッドも知ってたんだね。おれたちの……正体」

「……ごめん。店長とグレイスが結婚したくらいに聞いたんだ」

「いや、いいよ。それよりも……ありがとう。助けてくれて」

「二人が無事ならそれでいいさ」

 リッドはいつものように、子犬の瞳で笑った。

 まだ顔色は悪かったけれど、どうやら命に別状はなさそうだった。

「んじゃあ……行くね」

「ええ。ラック、アレイ、気を付けて」

「はい。義兄上と姉上も」

 ああ、自分はまた大切なヒトとさよならするんだな……そう思ったら、鼻の奥がツンとした。

 それを振り切って、にこりと笑う。

「まずはカトランジェに向かうのよね?」

「うん。あの街のヒトならだいじょうぶ! みんな優しいもん」

「そう」

 ダイアナさんはぎゅっと抱きしめてくれた。

 もしかするとこれでもう、会えないかもしれないから。

 ありったけの想いをこめて。

「いってらっしゃい、ラック。でも、辛かったらいつでも帰ってきて。私たちはずっと待っているわ」

「ありがとうダイアナさん」

 ダイアナさんが母さんだったらよかったのに、って思ったことがあった。クラウドさんが父親で。

 その願いは、自分の子たちによって実現した。

 きっとこの二人なら、立派に育ててくれるだろう。



 すでに小さくなってしまった影に向かって大きく手を振った。

 薄暗い中だから、もう向こうからは見えないだろう。

「……行くぞ、くそガキ」

「うん」

 くるりと背を向けて歩き出した。

 住み慣れた街を離れて、当てのない旅に出る。

 だいじょうぶ、隣にこのヒトがいるから。

 子供たちの事を忘れる日はきっと未来永劫こないだろう。きっと罪があがなわれる日も来ない。戦争を起こしたことも、敗北したことも、多くの人の命を奪ったことも――


 でも、だいじょうぶ。自分は、未来を見据える事が出来る。

「コインを……探そう」

「コインを?」

「この先何があるにしても、悪魔の助力が必要だと思う。無論マルコシアスとリュシフェルが不足だというわけではないが……」

「コイン探して、どうするの?」

「できる限り紋章契約をする。そしてコインは、破壊する」

「……いつになく過激だね、アレイさん」

 くすくす、と笑うと、軽く頭を叩かれた。

「茶化すな。これはきっと最後のレメゲトンである俺たちに残された使命だ。コインの時代に終わりをもたらすことが必要だろう」

「なんで?」

「新しい時代が始まろうとしているからだ」

 びっくりして目を大きくすると、アレイさんはいつものように無表情で淡々と言った。

「ミュレク殿下を中心にグリモワール再興を願う人々が動き始めている」

「サンが?!」

 サン=ミュレク=グリモワール、グリモワール王国最後の王ゲーディア=ゼデキヤ=グリモワールの唯一の息子にして元第一王位継承者。

「もし、お前が望むなら……多くの悪魔を集め、その支持を得、手助けする事も可能だ」

 サンが、再びグリモワール王国を作ろうとしている。

 驚きで感情が動かなかった。

「数百年前お前の先祖がそうしたように、独立戦争には悪魔の力が必要だろう」

「うん……うん、そうだね!」

 なぜだろう。この瞬間、未来が一気にひらけた気がした。

 まだ何も始まってはいないというのに。

「ミュレク殿下の居場所は義兄上に教えてもらった……行くか?」

「行く!」

 気づけば即答していた。

 心の奥から歓喜がわきあがり、希望が満ちていく感覚。

 ああ、自分は未だ生きていていいのかもしれない。

「ね、急ごう! アレイさん」

 ぱっと左手で手をとった。

 その途端、軽い痛みが左腕全体を襲う。

「痛っ!」

「どうした」

「ん、何でも……ない」

 気のせいかな?

 血管の浮き出た左手は篭手で隠してある。

「それより、行こうよ」

「……本当に大丈夫か?」

「だいじょうぶだよ!」

 朝日を背に、グライアル平原を西へ駆け抜けた。


 この時の自分は未来しか見ていなくて、自分の過去に目を向けていなかった。たくさんの情報が一度に流れ込んだせいで、その一つ一つを噛み砕く余裕がなかったんだ。

 ただ前だけを見て、隣のヒトの手を握りしめて、希望に満ちあふれていた。


 世界のことわりとか柱とか、片割れの悪魔とか光が別った世界とか。

 ルシファがおれに求めているものを知った時、ようやくそのすべてがつながっていた事を知ったんだ――

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