激震の朝
昨夜ずいぶん飲んだせいで身体が重い。まだ窓の外は薄暗く、もう一度寝なおそうと毛布をかぶった時だった。
突然、どんという鈍い音とともに小屋が揺れた。柱や天井がみしみしと音を立てる。
何事かと竜使いは驚いてベッドから飛び降り、上着をつかんで外に出た。ずらりと勢ぞろいした竜たち。しかし、八番めの竜だけいない。
竜使いはやれやれとため息まじりに頭をかき、また小屋に戻ろうとする。すると、一番大きな竜がその長い尾を壁に叩きつけた。ぐらりと小屋が揺れる。
「やめろ、アン! おまえの力じゃ潰れちまう!」
ならば背に乗れと合図する。
他の竜たちは先に空へと飛び立った。
「なんだって言うんだ」
せめて出かける支度をさせろと言い、急いで着替える。茶を沸かそうとしたが、窓からじっと見張られていることに気付き、諦めた。
「用事が片付けば帰ってくるだろう」
少なくとも、八番めの竜のユイットは。竜が人間の国で暮らせるはずがない。
竜使いはちらりとテーブルの上を見た。
出したままの薬箱、その横に転がる小さな瓶には糸の切れたネックレスと片方だけのイヤリング……宿代にと預かった指輪はなくなっている。花の紋章が刻まれた、アディンセル王家の証だけ。
手鏡が残されているのは戻ってくるつもりか、思い出ごと置いていくつもりか。
「まったく、なんだって俺が迎えにいかなきゃならないんだ」
ぶつぶつと文句をこぼす竜使いに、黙れとばかりに竜は吠えた。