内緒の話
もし俺を頼ってくれたなら、俺は喜んで手を貸したのに。
竜使いは目の前で眠る少女をじっと見つめた。ため息が出るほど美しい。
あの日、かわいらしく「竜に乗せてほしい」と言ってくれたなら、俺はきっと緊張しながらその細い手をとり、竜の背に乗せ、空を一周しただろう。
なのに偉そうに茶を出せなんて言うから。こんなきれいな娘に出すようないい茶もカップもなくて、つい。
次にいつ来るかもわからないのに、上等な茶葉とカップを揃えておいた。
そして再び訪れた時には全てを失い、ひどく傷付いていた。だが、俺を頼ろうとはしなかった。
何か難しいことを一人で抱え、小さな肩にずいぶん重いものを背負って。
せめてここで傷を癒し、悪いことは忘れ、心穏やかに暮らせばいいと思ったのに。ついに悪夢が消えることはなかった。
竜使いは枕元に置いていたハーブをくずかごに投げ捨てる。こんなものは気休めにもならない。
現実を見た今、再び元の世界に戻るだろう。俺のことなど忘れて。
いや、最初から俺に関心はなかったか。
ただ物珍しい竜を見たかっただけのお姫様。
国を無くし、竜の力だけを欲したお姫様。
いつかは自分の世界に帰るお姫様。
わかっていた。だから、俺も無関心を装った。彼女が迷わないように。彼女を惑わさないように。
「出ていってくれるなら、せいせいするね」
俺は人間が嫌いなんだ。
言って虚しくなる。
テーブルに置かれた手鏡には、不器用に感情を抑える男が一人。心を隠し通すことなどできるはずもないのに。
眠り続ける少女が苦しそうに眉を寄せ、涙をこぼす。
「あんたが自分の幸せのために生きたからって、王も王妃も、あんたの友人も、恨んだりしやしないよ」
愛しい娘に何もしてやれないのが悔しかった。
せめてあと少しの間だけと、こぼれる涙を拭い、柔らかい金髪を撫でてやった。