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エンジェル・スター


 流川星二は山に来ていた。趣味の天体観測の為である。

 車の中から望遠鏡で夜空を堪能する。幸せな時間。しばらくそうした後、車

を降りて歩き出す。いつもの習慣。今度は肉眼で眺めながら星々に空想を飛ば

すのだ。だんだん感覚が消えて行き、自分の想像の中に存在しているような気

分になってくる。

 足が止まった。現実に帰ってきた。流れ星が見えたのだ。見つめる。吸い込

まれそうになる程美しい。

 その流れ星はなかなか消えなかった。

「……」

 ……願い事。

 早く言わなきゃ!

「彼女が欲しい彼女が欲しい彼女が欲しい」

 消えてない。笑みが口元に浮かぶ。

 これはきっと願いがかなう。間違い無いだろう。頼むよ流れ星様、ホントお

願いだからと語りかけた。

「……」

 それでも消えずに光りを強くしていく流れ星。

「え?」

 近づいてくる?

 光は星二の頭上目掛けて光りを強くしながら迫ってくる。

「う……うわああああああ!」

 星二は強い衝撃を感じ、意識を失った。


「う……ん……」

 薄く目を開けてみると美しい星空が見えた。体に痛む所は無い。ほっとしな

がら体を起こす。

 違和感。

(あれ?)

 なんだろう?反射的に腕を目の前にかざす。

 黒く、ごつい手。剛毛が生え、かぎ爪が指先から伸びている。

「……」

 頭の中が真っ白になった。

 肩に触れてみる。カツン。固いもの同士が当たる音。おそるおそる視線を向

ける。大きく盛り上がった筋肉が見えた。

 えーと。

 そう呟こうとした。口から恐ろしい声が聞こえてきて口を閉ざした。

 無言で体をまさぐる。鉄のような筋肉と針金のような剛毛に覆われていた。

下半身には鎧のようなものを着けているようで、ぷらんぷらんはさせていない

らしい。

(近くに湖が……)

 自分がどんな姿なのか確認したい。記憶にある湖の方に歩き出す。周りの木

々がやたらと小さい。かなり巨大な体のようだ。急ぐ。急ぐあまり、焦ってし

まったのであろう。星二は飛んでいた。湖まであっと言う間だった。


 湖面に星達の光で映し出されたその姿。一言で言うなら「黒い鬼」であっ

た。恐ろしい形相、口からは牙が見え、禿頭からは一本の角が生えていた。

 星二は空中に浮かんだまま、呆然と自分の姿を見つめる。

 はあ。

「コォオオオオ……」

 錆び付いた何かがこすれるような不気味な音。

(……ため息すらつけない体になっちまった)

 肩を落とし、湖岸に向かった。

 地面にへたりこむ。

 (……いや、落ち込んでるだけじゃだめだろう)

 まずは冷静に現状を把握するべきだ。星二はそう思った。

(つまり……。…………………………………………つまり、こういう事になっ

ちまったんだろ?)

 もう、細かい事は考える気も起きなかった。

 ごろんと寝っ転がった。

(うーん……)

 メシ、風呂、トイレ。当面の問題だろう。

(この姿じゃ何でも食っちまえそうだけどな)

 くっくっくっと笑う。笑ったら余裕が出てきた。夜空を眺める。ふと気づ

く。

(空からこいつが降ってきたのだとしたら……)

 星二の目に活力が戻って来た。

(もしかしたら……)

 胸が高鳴っていく。

(あそこに行けるんじゃないだろうか……)

 星二の見つめる先で星が輝いていた。


 すっと流れる。

 流れ星。

 星二は苦笑した。

(さて、今度は何を願ったらいいんだろうねぇ)

 願いを三度心の中でつぶやく。今の素直な願いだった。

 世界が平和になりますように。

 またしても消えない流れ星。だけど、もう、星二はビビらない。

(変わった事が多い夜なんだな)

 光が落ちてくるのを待った。予想通り近づいてくる。しかし、今度は少しず

れたようだ。目の前の湖に向かって白い光が落ちていく。

 バシャーーーーン。

 水柱が上がる。しかし、それは星二の予想よりずっと小さな水柱だった。

(減速しながら落ちたんだろうな)

 ぼんやり考える。次に何が起こるんだろう?なんて予想する気になんてなれ

ない。ただそこを見つめていた。

 水柱がおさまってきて、そこにあるものが姿を現しつつあった。

 白い色が見えた。

 その白が立ち上がった。水面で。

 白い人影。白い人影が水面を滑ってこちらに近づいてくる。

 体にぴったりとはりつく白いスーツ。丸く大きなヘルメット。宇宙服なのだ

ろうな、と思った。

 人影は湖岸に着き、星二の目の前に立った。その体型は少女を思わせた。

 ヘルメットが割れ、スーツの首のあたりに吸い込まれていく。顔が現れる。

美しい、いや、かわいらしい少女だった。地球人にしか見えなかった。

 その少女はきっ、と星二を睨んでいる。

(……こっちとぶつかってこっちの姿になってたら幸せだったのに)

 少女は星二に向かって右手を伸ばす。左手で肘のあたりに触れた。右腕から

銃のようなものが現れた。発射。

(え?)

 左胸に衝撃。

(うお!)

 星二は慌てて立ち上がった。それが少女に緊張と戦意をもたらしたのだろ

う。さらに次々と撃ってくる。全て星二に命中した。

(痛たたたたたたたたたたたたた……た?)

 いや、痛い事は痛いがそれ程でもない。おそらくそうとうな威力なのだろう

がそれ以上に星二が頑丈なのだろう。銃撃が続く中、星二は迷った。

 さて、どうしよう?

 今の状況はどうみても悪者と追いかけてきた正義のヒロインの戦いである。

(逃げる?)

 いや、どこか遙か彼方からはるばる地球まで追いかけて来たんだろうし逃げ

るのは悪い気がする。もちろん反撃なんてもってのほかだ。

(……つまり、決まってるって事か)

 この少女に退治されよう。こんな姿になってどうしようかと思ったが、意外

と早く解決したな。星二はすっかり落ち着いた。

(よし、最後にこの少女のかわいらしさを目に焼き付けておこう)

 見れば見るほど地球人だ。宇宙のどこかにヒューマンと全く同じ姿の超すご

い文明を持ったエイリアンが住んでいるんだなぁ。宇宙ってすごい。そんな事

を考えていると銃撃がやんだ。

 ん?と少女を見る。険しい表情は変わらずこちらを睨んでいる。さっきより

も余裕が無くなっているようにも見えた。

「どうして反撃してこない!何を考えてる!」 

 日本語だったが星二は不思議とは思わなかった。おそらく何らかのしくみが

あるのだろう。

「落下の衝撃で怪我でもしたのか?いや、そんな奴じゃあ……」

 うん、声までかわいい。とまどってる表情も素敵だ。どうにかしてあげたい

けどどうしよう?星二は一歩前に出た。

「!!」

 少女の顔がまたさっと引き締まり、左肘あたりを触った。左腕からも違う形

の銃が出現する。そして、両方の銃で乱射してきた。

(俺は本当はすごい強いんだろうな)

 星二は苦笑した。

 徐々に体の痛みが激しくなってくる。さすがの頑丈さにも限界があるらし

い。

(あと少しかな……)

 右腕に激痛。見ると無くなっていた。

 少女はそれを見て不安そうな表情をみせた。しかしすぐに表情を引き締め、

歯を食いしばって打ち続ける。無抵抗の相手を一方的に攻撃するのが辛いんだ

ろうな、と星二は感じた。表情がどんどん険しくなり、目には涙が滲んでいる

ような気がした。

(くそ!さっさとくたばりやがれ俺!早くあの子を楽にしてやれよ!)

 少女の肩に巨大な砲身が出現していた。星二はそれを期待を込めて見つめ

た。

「うおおおおおおお!」

 少女は裂帛の気合いとともに撃った。

 強烈な衝撃。視界が真っ白になった。体が砕けて行くのを感じる。星二はほ

っとした。ようやく終わるんだ。これであの子も任務完了かな?薄れていく意

識の中で星二は満足そうな笑みを浮かべた。でも、実はちょっと心残りが。

(笑った顔も見たかったな……)

 星二は爆発した。


 星空。

「あれ?」

 生きてる?

 星二は手を見た。見慣れた普通の人間の手。体のあちこちが痛むが大怪我は

してないようだ。

 夢だったんだろうか?周りを見渡す。そこは流れ星とぶつかった場所ではな

く湖の、戦っていた場所のそばであった。

「……?」

 どうなっているのか分からないまま戦っていた場所を目指した。

 木々が倒れ、地面がえぐられ、先程までの戦闘が実際に起こっていたのだと

証明していた。

(あれは本当に起こった事なんだ……)

 と、星二は思ったとたんに頭に少女の顔が浮かんだ。

「あ!」

 慌てて周りを見回す。もう帰ってしまっているだろう、とは思ってみても探

さずにはいられなかった。

 ……いた。少し離れた所で倒れている。星二は駆け寄った。

 かわいらしい……、いや、そんな場合じゃない。星二は少女の額に手を当て

た。熱は無し。いや、これも違う。少女の口元に耳を近づけた。

 息をしている。星二はほっとして少女の傍らに腰を下ろした。

 少女の胸のふくらみが目に入った。

(しまった!)

 心臓に手を当てて生きているのか確かめるという方法を何故とらなかったの

か。慌てていたのは確かだがそれぐらいは思いついてもいいだろうに。

 溢れる後悔。しかし、時間は戻らない。これからどうするか考えなければ。

(……)

 このまま放って帰る?いや、間違いなくそれは無い。

 病院に連れて行く?いや、宇宙人っぽいし大騒ぎになったらこの子に迷惑がか

かるかもしれないし怪我はしてないっぽいし。

 意識が戻るのを待つ?それが一番なような気がした。星二は出来るならこの少

女に自分が体験した事を聞いて欲しいと思っていた。そして、説明をして欲し

い、と。

(気長に待つかな)

 顔を見てたら飽きないし、と呟いた時、星二の腹がなった。


 目が覚めた。やはりあれは夢だったのかな、と考えてしまう。固い床の感

触。昨日寝た時の記憶のまま。体を起こす。ベッドには昨日の少女。夢なんか

じゃない、星二は安心した。

 少女はまだ眠っている。そう、眠っていた。昨日ベッドに寝かせた時にはな

かった寝息を気持ち良さそうにたてていた。

 星二は微笑みながら顔を洗いに洗面所に向かう。そうだ、朝飯も作らなきゃ

な、二人分。心が弾む。


 食後のコーヒーを飲んでいる時、ついに聞こえた。

「う……ん……」

 ベッドに近寄る。少女が薄目を開けていた。

「おはよう」

 星二はにっこり笑った。

「あ、おはようございます」

 少女は体を起こした。

「体で痛い所は無い?」

「あ、はい、……はい、大丈夫みたいです」

「よかった。じゃあ、よかったら朝食用意したから食べない?地球の食事が口

に合うかどうかは分からないけど」

「あ、はい、ありがとうございます」

 少女はベッドから降りてテーブルに向かう。と、足を止め星二を見た。

「あ、あのう……あなたは?」

「俺は流川星二。地球生まれの地球育ち。国籍は日本。よろしくね」

「あ。私はリフィ・シャーネイル。アルテール星生まれのドレン衛星育ち。所

属はローラン軍特殊部隊エンジェル・スターです。よろしくお願いします」

(……うーん。やはり宇宙人)

そうだとは思ったが本人の口から聞くまではどこか信じられないところがあっ

た。

 俺は今、宇宙人と会話してるんだなあ、と星二は感動した。

 地球のパンとコーヒーと目玉焼きは口に合ったようだった。おいしいおいし

いと食べてくれた。リフィと名乗った少女は完食すると星二を見た。ごちそう

さまの言葉は無い。

「えーと、もしかしておかわりかな?」

 リフィは恥ずかしそうに頷いた。


「ごちそうさまでした」

冷蔵庫が空っぽになる前にその声が聞けて星二はほっとした。

「あ、あのう……」

リフィがおずおずといった感じで口を開く。

「え?」

 まだ足りなかった?星二は少し慌てた。

「どうして私はここにいるんでしょう?」

 やっと本題に入る。星二は昨日自分が体験した事を語った。リフィの顔が真

剣になっていく。

「あの、失礼ですが体を調べさせては頂けないでしょうか」

 星二は頷いた。

「どうすればいい?」

「ベッドに寝て下さい」

「服は脱いだ方がいい?」

「え?えーと……えー…………いえ、そのままでけっこうです」

 今、何で悩んだんだろうと思いながら身を横たえる。

 リフィはスーツの首の辺りを触った。顔の前にスクリーンのようなものが出

現した。それで星二の頭からつま先までスキャンしているようだった。


 再び首の辺りを触る。スクリーンは消滅した。便利だな、と星二は思った。

「どうだった?」

「何も異常は見つけられませんでした。精神体にも異常無く、百パーセント正

常な地球人です」

 ほっとした。今はもうなるべく死にたくないと思っている。

 ん?

「あれ?もしかして地球人に詳しい?」

 そう聞こえた。

「あ、はい。地球は我々の観察対象のひとつです」

 この広い宇宙でも知的生命体が住む星は少ないのだという。その中でもヒト

型生命体はごくわずからしい。人類が察知できない人工衛星がいくつか飛んで

いるそうだ。

「へえ~……。もしかすると俺たち地球人も未来には君たちの星に行けるよう

になるのかな……」

「……言いにくいんですけど……可能性は……ほとんど0じゃないかと……」

「え」

 よく理解できなかったがリフィの星域にあるものが地球にはないらしい。そ

れはとても重要らしい。がっかり。

「で、でも可能性が0ってわけじゃないので!もしかしたら!」

 励ましてくれたので元気を出す事にした。

「それじゃあ、俺に昨日何が起こったんだろう」

「はっきりとは言えませんが……」

 リフィの説明によるとぶつかったひょうしに星二とあれの精神が入れ替わっ

たのだろう、という事だった。リフィの星域では皆無だが地球ではごくまれに

見られる現象らしい。「テンコーセー」とか「オレガオマエデオマエガオレ

デ」などと呼ばれているそうだ。

「それがグル・スーの肉体が滅んだとき、一緒に消滅したのはあなたの精神で

はなく、あなたの体に入っていたグル・スーの精神だった、って事でしょう」

 初めてのケースなので確証は無いが、とリフィは付け足した。

 説明を聞いて、星二はすっかり納得した。

「その、アイツ、グル・スーってのは何者だったの?」

 リフィの故郷に現れ、宇宙を自在に駆け回り甚大な被害をもたらした異次元

からの来訪者。全宇宙でただ一体、ただの一体で近隣の太陽系の軍隊全部を相

手にしても引けを取らなかったのだという。

「私の部隊、いえ、ローラン軍の全てははあいつを倒す為に存在していまし

た」

 長い戦いの中、ついに優勢に立った。そしてあいつは逃げだした。地球に向

かって。

「私は隊の中で一番速かったですから……」

任務は偵察、監視。しかし、憎むべき敵が目の前にいた。

「倒せたんだよね?すげえ!おめでとう!」

 しかし、リフィは目を伏せた。

「……はい、ありがとうございます」

 あれ?んん?まあ、いいか。いろいろ事情があるんだろう、と星二は気にし

ない事にした。

「あ、あの……」

「え?何?」

 何故、逃げようとも反撃しようともせず、黙って攻撃を受けてたんですか?

 地球ではそういう事になっているから。

 ぽかんとした顔。

 うむ、かわいい。これがマッチョな傭兵風の野郎だったらそうしてたかもし

れないな、と思った。

「あ、あの、あいつを倒せたのはあなたのおかげです!本当にありがとうござ

いました!」

「い、いや、俺は別につっ立っていただけで……」

 いい気分になったが照れる。

「お、お礼に私に出来る事がありましたら何でもします!」

 お?おお?何でも?

 星二は考えた。一瞬の間に様々な妄想が浮かぶ。……決まった。

「君の故郷の話聞かせてよ」


「おお~すげえ~」

「でも基本的には同じですよ。部屋の作りとか」

 話し始める前にリフィは仲間と連絡を取っていた。首のあたりを触ってマイ

ク付きのヘッドフォンのようなものとアンテナのようなものを出現させると星

二には理解できない言葉を話しだした。正午過ぎに合流する事になった、そう

星二に告げていた。

「台所、風呂トイレ寝室?」

「はい、作りや構造はかなり違いますが」

 こんな服を作れるような文明の台所ってそりゃあすごいんだろうな、リフィ

の言葉を聞く度星二の想像は広がっていく。

「あ」

 リフィは突然声をあげた。

「え?」

「あつかましいとは思うんですけど……」

 うつむき小さな声でリフィは言う。

「うん?」

「私、何日もお風呂に入れてなくて……」

「うん」

「この服で清潔さは保たれるんですけど……その……」

「使い方を説明しよう」

 星二は立ち上がった。もちろん頭の中は妄想が広がって止まる事を知らな

い。それを隠すためにてきぱきハキハキと説明していく。

「バスタオルはここね。どう?分かりにくいとこあった?今のうちに分からな

い事は聞いといてね」

「あ、大丈夫です。だいたい理解しました」

 星二はにこやかにうなずいた。その笑顔が凍った。

 リフィが手首を触ったのだ。

 シュルシュルと白い色が移動していく。スーツは手首あたりに吸い込まれ消

えてしまった。手首に白い小さな円形のものがくっついてるだけになってしま

った。

「では、使わせてもらいますね」

 伏し目がちに、でも、はっきりとした口調。星二は目をそらす事も出来ずに

やっとの思いで頷いた。

「では」

 やけにゆっくりとバスルームに向かう。パタン。ドアが閉まった時、ようや

く星二は動く事が出来た。

 ふらふらとテーブルに向かい、座る。

 はあ~~~~。大きく息をつく。

 シャワーの音が聞こえる。胸のドキドキが止まらない。

(すごかった……いや、素晴らしかった……)

 もっともっと見たい。

 ……頼んでみようかな。「何でもします」さっき聞いた声が頭に浮かんだ。

 うん、俺のおかげであの子の……リフィさんの故郷の最大の敵が滅んだわけ

だし、もしかしたらあいつは地球すらめちゃめちゃにしてたもしれないから地

球すら救った英雄かもしれないし……。

(お礼に何でもするって言ってたし……)

 ハッとした。

 お礼?

 もしかしたら今のは彼女なりのお礼だったんじゃないだろうか?

 裸になって目を伏せていたリフィの表情を思い出した。何故逃げなかったと

聞いてきた時の表情を思い出した。憎むべき敵が無抵抗だというだけで攻撃を

止め、問いかけてきた時の表情を思い出した。俺に最後の一撃を撃った時の表

情を思い出した。

 変な気持ちはきれいに無くなった。

(ちくしょう、粋なまねしてくれるじゃねえか)

 笑みが自然とこぼれた。


 カチャ。ドアが開く音。戸棚を開ける音。体を拭いているような間。足音。

こちらに近づいてくる。

「あがった?」

 振り向く事無く星二は声をかける。

「あ、はい」

「もう服着てる?」

「あ……まだ……」

 やはりかコンチクショウ。同じ手は二度と食わねえぜ。

「じゃあ、服を着たら教えてね」

「……はい」

シュルシュルとさっき聞いた音がした。

「……着ました」

 星二は振り向いた。リフィはうつむき、少し頬が上気してるような気がし

た。

「ねえ、」

「……はい?」

 星二はとびきりの笑顔を見せた。

「まだ時間あるよね?話の続き聞かせてよ!」


 その時が来たのが分かった。

 突然ヘッドフォンが現れて理解できない言葉を喋りだす。ヘッドフォンが消

える。こちらを向く。

「あの……」

「うん」

 星二は笑顔で頷いた。

「俺の人生で一番の話が聞けたよ」

「はい……」

 リフィは辛そうな表情で頷く。

「いやあ、楽しかったありがとう」

 星二は笑顔を崩さない。

「はい」

 星二は促すように立ち上がった。リフィもゆっくり立ち上がる。星二は見つ

める。リフィは歩きだす。窓に向かって。

(なるほど、窓だよなあ)

 星二は笑う。自分も窓に向かい、鍵を開け、窓を開いてあげた。

 ベランダにでるリフィ。振り向いた。

「あ、あの、」

「うん」

「本当にありがとうございました」

「うん。どういたしまして」

「あ、あの、」

「うん」

「お元気で!」

「うん。でも、それは俺の方が言いたいね。今から空を飛んだり宇宙を渡った

りするんだろう?」

「はい。でも、私は大丈夫です!」

「戦う事はしばらく無いんだよね?」

「はい!もしかしたら部隊は解散かもです」

「え?……もしかして悪い事したかな?」

「いえ!私、戦うの、そんな好きじゃなかったですから」

 だろうなあ。昨日会ったばかりの少女。でも、どんな女の子なのかよく分か

っているような気がした。だから、自分がこの子に恋をしてしまったののもよ

く分かっていた。

「それなら良かった」

 また大きな笑顔。

「はい、本当にありがとうございました」

「それはもう聞いたからいいよ」

 笑顔。決して再会を匂わすような事は言わない。

「私、あなたの事、あなたにしてもらった事、絶対に忘れません!」

 リフィの手が星二の腕に触れる。

「ああ、俺も君の事は決して忘れないだろう」

 星二の手もリフィの腕に触れる。

 そして、顔をリフィの耳に近づけ、こう言った。

「とくにリフィさんの裸は絶対に忘れないよ」

 リフィは真っ赤になった。

「い、いや、それは忘れて下さい!」

「いやいや、無理無理」

「ええ~……」

 困ったような顔で星二を見つめる。星二もそんなリフィをまじめくさった顔

で見つめる。

 ぷっ。リフィは吹き出した。

「もういいです。じゃあ、よく覚えておいて下さいね、私の裸」

 リフィも覚悟が決まったのかもしれない。とてもいい笑顔でそう言った。

「任せろ!」

 そんな最後の会話。

 リフィの足がベランダを離れた。空中に浮かんでいく。

「それじゃ!ありがとうございました!」

「おお!達者でな!」

 空へ吸い込まれていった。

 その場所を見つめる。

 ああ、昨日から信じられないような事がいろいろ起こったけど……。

 終わってしまったんだなあ……。

 胸に手を当てる。

 ちくりと痛む。

 終わってしまったんだなあ……。

 ……だけど。

 リフィが最後に見せてくれた笑顔を思い出す。

 胸が温かくなった。星二は力強く笑ってみせた。

(男はこうやって成長していくものなのさ!)





完 


 お読み頂きありがとうございました。


 この物語のヒロインの外見イメージはストライクウィッチーズのサーニャです。もちろん私の一番好きなアニメキャラはエイラです。でも、サーニャの方がかわいい。

 SW以外にもいろんな作品から影響を受けています。「サイボーグ009」「星の子チョビン」「魔界水滸伝」等、他にもあると思います。


 何かありましたら言って頂けたら嬉しいです。

 それでは。

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