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第72話 母親。

 

 ようやく姫のアルバイトの時間が終わりに近づいていく


 結局、俺はあの後、背中に受けたダメージが酷く、俊樹などは隼人が相手にすることになり、俺は部屋の中で子供達と一緒に絵を描いたりしていた


「みてー」

「ん?それは…俺かな?」

「うん!ともきせんせい!あげる!」

「おぉーありがとうなぁ」


 姫から俺の命を助けてくれた女の子、加奈ちゃんが満面の笑みで絵をくれる

 俺に女の子の頭を撫でながら受け取り、お返しと加奈ちゃんを書いて渡してあげた


「せんせーすごい!」

「加奈ちゃんも上手いよ」


 加奈ちゃんを見ていると昔の姫を思い出す

 初めて姫と会った時もこんな感じに絵を描いて仲良くなっていったっけ…

 ニコニコしている加奈ちゃんを見ながら、姫の方をチラッと見ると姫は子供相手に優しく本を読んでいた

 その姿を見ると姫も成長したんだなぁと実感する


「はーい、皆お母さん達が来ましたよ~」


 保母さんがドアを開けて子供たちに言う

 すると、皆嬉しそうに帰る準備をし始めた


「祠堂くん、鞠乃ちゃんありがとう。凄く助かりました」

「いえ、凄く楽しかったです」


 子供たちの帰る準備を見ながら保母さんと話して、最後のお仕事をする

 それは子供たちが帰っていくのを見るのだ


「ともきーじゃあなー」

「はいはい、元気でな」


 俊樹は手を大きく振ってお母さんの元へと走っていく

 そのほかの子も次々とお母さんと手を繋いで帰っていく。中には「まだ遊ぶ!」と言ってくれた子もいたけど、やはり母親には勝てない。最後は手を引かれて嬉しそうに帰っていく


「ともきせんせー、もうこないの?」

「加奈ちゃんが良い子にしてたらまた会えるかもね」

「ほんとう?それじゃいいこになる!」

「うんうん。それならまた会いに来るよ」

「うん!」


 本当に加奈ちゃんは可愛い子だ

 ニコニコしながら髪を撫でてあげると嬉しそうにはにかむ

 俺は加奈ちゃんと手を繋いで部屋を出ると加奈ちゃんはお母さんの姿を見つけたのか俺の手を引いお母さんの所へと向かっていく


「っ!?」

「ママ~」


 俺が思わず止まると加奈ちゃんは一瞬不思議そうな顔をしたが、お母さんの元へ抱きついた


「ママ~、ともきせんせーだよ。きょうずっとあそんでたの!」

「え!?」

「………」

「ママ?どうかしたの?」

「え、う、ううん。何でも無いわよ。ちょっとお母さん、先生にお話があるからお部屋の中で遊んでてもらっていい?」

「?…うん、わかった。ともきせんせーあそぼ!」

「あ、加奈。……この先生にお話が」

「えぇ~…ともきせんせーもわたしもわるいことしてないよ」

「え?あ~…えっと……」

「加奈ちゃん、中に隼人がいるから写真撮ってもらいなよ。加奈ちゃん可愛いから一杯撮ってもらうと良いよ」

「でも、カナはせんせーとあそびたいよ」

「ん~加奈ちゃんの可愛い写真見てみたいんだけどなぁ…残念」


「あ~ぁ」と残念そうにしながら項垂れると加奈ちゃんは慌てて「とってくる!!!まっててね!」と言って部屋の方へと走っていく


 俺は笑顔で教室の中に入っていく加奈ちゃんを見て、自分も帰る準備をするため部屋へと戻ろうとすると手を掴まれた

 俺はその手の先を見て、笑顔で対応する


「すみません、加奈ちゃんのお母さん。俺少し用事があるので」

「智樹…あなたどうして」

「…どうして?ただのアルバイトですけど?」

「アルバイトってそんなことはどうでもいいわ。智樹、最近全然連絡してこないじゃない」

「はぁぁ…別に良いんじゃないですか?俺のことはもう」

「…あなたは私の子よ!良いわけないでしょ」


 加奈ちゃんのお母さん、いや母さんは怒ったように俺の手を強く握る

 その手は俺が知っていた母さんの手では無く、少しカサカサしていて俺の知っている母親の手では無い


「ねぇ、智樹。今からでも一緒に住みましょう。どうせあの人、帰ってきていないんでしょう?なら」

「別にもうこの歳になって両親がいようがいまいが気になりませんよ。それに1人ってわけじゃないので大丈夫です」

「で、でも、智樹ももう受験生なんだし、家事とかやってやれないと思うの。だったら私たちの」

「別に息抜きで家事してるんで気にしないでください。それにもう何年もやってるので別に苦でもなんでもないので。それじゃ俺はそろそろ行きます」

「智樹!待って」

「………加奈ちゃん」

「え?」

「良い子ですね、素直で可愛らしくて…きっと良い子に育つと思いますよ。それでわ、お幸せに」


 今までの感謝をこめて深く頭を下げてから、部屋の中へと向かう

 後ろでは何か言おうとしていたけど、俺がすぐに頭を下げた意味を悟ったのか、開けかけた口を閉じる

 もうあの人とは関わらない、加奈ちゃんみたいな子がいるなら尚更だ

 俺は振り向かずにそのまま教室に向かい、そして加奈ちゃんを呼んで「それじゃさよならしよっか」と言って加奈ちゃんのお母さんに引き渡し、手を振って別れた



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