第62話 チョコ。
6時間目が始まるギリギリの時間
早苗さんが帰ってきた
「はぁ~…疲れた」
「お疲れ様です。それじゃ俺は6時間目出ますね」
「あ、そうね。それじゃ遅くなったけどこれ私からよ」
早苗さんはカバンの中から綺麗な紙に包まれた箱を渡してくれた
「私の気持ちを受け取ってね」と言う言葉と一緒に。
そして、姫は「ついでに作ったからあげる」と言いながら可愛く包装された箱をくれた
「ありがとうございます。姫もありがとう。んじゃ行きますね」
「あ、そうそう。今日帰る時はここに寄ってくれないかしら?」
「別に良いですけど?」
「家で美味しいモノが食べたいの」
ニコニコされながら早苗さんが言う
“食べたいの”と言うことは俺が作ることになるんだろうか?
というか、なるんだろう
「わかりました。これのお礼に頑張らせてもらいます」
「ええ。精一杯愛情をこめて作ってね。智ちゃん」
保健室を出てさっき貰った箱を開けると早苗さんのはハートの形で真ん中に「智ちゃんは私の嫁」と書かれていた。なんというか…器用すぎるだろ…
姫の方は一口サイズのちょっと形がおかしいチョコが6つ入っている
毎年、姫から貰うチョコはどこかで買ったようなものだったから今回は手作り感があってかなり嬉しい
俺は姫の方のを1つ食べて、急いで教室へと向かった
6時間目の授業が終わり、皆が帰る準備をする
俺もこの後は保健室に行かないといけないため帰る準備をしていると千鶴が廊下の方から俺を呼んだ
「何?チョコでもくれるのか?」
「私があげるわけないじゃん」
「じゃ何?」
「あのね、理紗ちゃんがあんたにチョコ渡したいから上の階に来てほしいってさ」
「俺に?」
「そう。いいよねぇ、モテル男はさ」
「モテルっていうか…たぶんあの風邪引いた時のお礼だろ?俺欲しいって言ったし」
ニヤニヤしている千鶴に言って、佐藤さんを待たせるのも悪いから急いで向かう
そして、階段を上がると佐藤さんがそれはもう顔を真っ赤にしながら待っていた
「ごめん、今千鶴から聞いて」
「あ、は、はい!」
気まずい……
佐藤さんの性格からしてたぶん千鶴に告白的な感じで渡しちゃえって言われて無理やりやらされていると思うけど…この雰囲気はなんというか…
「えっと…今更だけど風邪治ってよかったね」
「あ、あの時は本当にありがとうございました」
「いや、千鶴がほとんどやったから。というか、今回のも俺が頼んじゃったみたいでごめんね?チョコ欲しいなんて言ったから」
「あ、ううん。だ、大丈夫です…その…これ…」
顔を真っ赤にして、湯気が出るんじゃない?ってぐらいになっている
そこまで赤くされるとこっちも顔が赤くなってくるけど出来る限り笑顔で佐藤さんから差し出された可愛く包装されたチョコを受け取る
「ありがとう。今食べてみてもいい?」
「え!?あ、あの…お、おいしくないかもしれないので…」
これはOKってことなのか?
佐藤さんは俺の方を見てきてすぐに視線をそらす辺り、俺の反応を気になっているんだろうか?
俺は勝手に食べてもOKと判断して、綺麗に包装を解いて中に入っている1口サイズのチョコを口の中に入れる
チョコの形は売り物のように綺麗に整えられていて、味も甘すぎるわけでもなく苦すぎるわけでもない完璧な味付けだ
「凄く美味いよ、これ」
「で、でも…」
「ううん。ホントに美味しい。はい、どうぞ」
佐藤さんに1つあげてから自分ももう1つ食べる
これなら1000円は払ってもいいかもしれない
「本当にありがとう。あ~…ホワイトデーはもう春休み入ってるからお返しどうしようか…お返しは3年になってからになるかも知れないけどそれでもいいかな?」
「そんなお返しなんて」
「この味には及ばないけどお返しはさせてもらうね。それじゃ俺、行くとこあるから。このチョコありがとう」
お礼を言ってチョコをカバンの中に入れる
もし清水にバレたら大変なことになる。
もちろん一番めんどうなのは早苗さんだろう…もし、バレたら誰からもらった?って一晩中聞かれそうだ…
………結局バレた
「で?で?智ちゃんはこれを誰に貰ったのかしら?気になるわよね?お姫」
「全っ然!!」
かなりニコニコしている早苗さんと目力で人を殺せるんじゃない?ってぐらい睨んでくる姫に囲まれながら夕飯の時間は過ぎていった