第54話 お姫様だっこ。
結局、姫は騒ぎ疲れて寝てしまった
俺と早苗さんは車椅子で寝ている姫を見ながら、お酒を交す
「姫の体調はどうなんですか?」
「最近は良いみたいよ。ただ学校には行けてないけど」
「へぇ…」
早苗さんは母親の目をしながら姫を見つめて梅酒を飲む
この人は姫に分からないように姫中心で動いている
本当に姫のことを思っているんだろう
俺も梅酒を飲みながら姫の方を見ていると早苗さんが急にニコニコし出した
「うふふ」
「なんですか?」
「智ちゃんとこうしてお酒を飲むなんてね」
「初めてじゃないでしょう」
「そうだけどさ…やっぱり嬉しいわ」
「そうですか」
「ええ。あ、そういえばそろそろ文化祭ね」
「そうですね。もう1ヶ月無いですけど」
「智ちゃんのクラスは何するの?」
「うちのクラスはおでんです」
「へぇ、食べに行こうかしら」
「他人としてなら良いですよ」
「えぇ~智ちゃんのお嫁さんとしてはダメなの?」
「勘弁してください…」
この人は………せっかく、人が信用しようとしていたのにすぐにふざける
俺はため息を吐きながら梅酒を飲み干して、コップをテーブルに置く
そして、すぐに姫の乗っている車椅子の後ろへと移動して姫の部屋へと移動させていく
後ろにはお酒を片手に付いてきて、ドアを開けてくれる
「智ちゃんは本当にお姫の事が大切なのねぇ」
「そりゃまぁ」
「なんだかお姫の母親として嬉しいわ」
「そうですか。…よっこいしょっと」
姫を起こさない様に車椅子からお姫様だっこをしてベッドへと移動させる
その時、早苗さんが「お姫がお姫様だっこ…智ちゃんは王子様になるのかしら?」と笑いながら言ったけど無視する
それにしても姫は本当に早苗さんに似ている
2人とも黙っていれば本当に綺麗だし可愛いんだけど、話すとボロが出る
俺は姫に布団を掛けてから部屋を見回すと机の上に若い早苗さんと抱っこされている小さな姫の写真が入った写真立てが置かれていた
「…………」
「…気になる?その写真」
「まぁ、姫は自分の父親の事は?」
「さぁ?たぶん覚えてないんじゃないかしら」
「…そうですか」
「智ちゃんはまだ」
「んん~…それはタヌキじゃなくて熊だよぉ…智ちゃん……んにゃんにゃ…」
早苗さんが何を言おうとしたか見当は付くけど、姫の意味不明な寝言のせいで真剣な雰囲気は一気に無くなり、お互い目を合わせてクスッと笑ってしまった
「最後に聞いてもいいですか?」
「ん?」
「もし姫が父親の事を聞いてきたらどうするんですか?」
「そうね………ふふ、分からないわ。話すかもしれないし話さないかもしれない、私のその時の気分しだいよ」
早苗さんはそう言って、コップに入った梅酒を一気に飲み干すと「お風呂に行ってくるわ」と言って部屋を出ていく
俺はもう1度、写真立てに入れられている写真を見て、早苗さんの腕の中で抱っこされて嬉しそうな顔で写真に写る姫を見てから部屋を静かに出た