第34話 聖域を侵略する悪魔
さっそく来なさった…
借金取り並みにインターホンを連打し、今すぐドアを開けないと破壊されかねないぐらいの勢いだ
しかし、俺はこの借金取り、もとい、悪魔をこの家に入れるわけにはいかない
なぜならここは聖域だからだ
ちゃんとこのように通販で買った結界の効果がある紙も張ってある
俺は悪魔が好む闇をなくすために部屋中明るくして時間が立つのを待つ
「開けろっ!!このっ!」
「お、おい、開けなくていいのか?」
このバカは自分の身の危険を感じないんだろうか…
俺はなんでこんなバカのために身の危険を感じないといけないのかというバカらしさが湧いてくる
しかし、ここであのドアを開けてしまえば俺にまで被害が及ぶのは確実だ
俺はできるだけ自分に被害が掛からないように逃げる方法を考えているとふと良いことを思いついた
「なぁ、今から3分後に玄関開けてもいいぞ」
「え、いいのか?」
「ああ。それじゃこの時計が鳴ったら開けろよ?」
「ああ、わかった」
俺は隼人に腕時計を渡してから、すぐに自分の部屋へ走る
残り時間は180秒
この間にできるだけのことをしなければならない
まず避難所への移動費、服、携帯、猫のポチの餌やり
俺がちょうどすべてのことを終わらすとあと14秒となる
隼人はすでに玄関のドアに手を掛けていて、もう時間が無い
俺は2階の部屋の窓を開け、カバンを先に落とし、俺も飛び降りる
「っとと…」
飛び降りたのが成功した直後だろうか
隼人の悲鳴が響く
「ぎゃぁぁぁぁぁあぁああああぁぁああああ」
「智ぉぉ!!!どこだ、ごらぁぁ!!!」
悪魔の声だ…
なるべく耳を貸さないように走る
心の中で隼人が原形を留めていることを願いながら…
「智ちゃんじゃない、珍しい」
俺はなんとか避難所と言う名の早苗さんの家に着いた
早苗さんはすでにお風呂を済ませたのか、ピンクのパジャマを着ていて、やっぱり30代後半には見えない
「どうしたの?こんな時間に?夜這い?」
「いや、ちょっと悪魔が家を襲ってきたので、避難させてほしいんですよね」
「ん~…まぁいいでしょ」
「どうもです」
「それにしても、久しぶりじゃない?ここに来るの」
「そうですね…ここに来るのは1年ぶりですね」
「そうよね~。あ、こんな所じゃなくて中に入ろっか」
俺と早苗さんは家の中に入り、リビングに通される
早苗さんの家は一軒家だ
見た目は普通の家でも中身は凄い。段差が無いのだ
リビングはクーラーが効いていて、かなり涼しい
早苗さんは麦茶を入れてくれて、俺は適当に座る
「それで?どうしてここに?」
「だから悪魔が攻めてきたんです」
「ふ~ん。あ、お風呂入って無いの?」
「急いでたもんで」
「それじゃ入ってきたら?これバスタオル」
早苗さんは畳み終わったバスタオルの束を俺に渡してくる
そして、俺の背中を押しながら「こっちなの~」と嬉しそうに風呂場へ移動させ、ガラっとドアが開いた
「きゃっ!?」
「きゃっ?…さ、早苗さん?」
俺はバスタオルを倒さないように後ろにいる早苗さんの顔を見る。もちろん前は見ないように
「あら?ここにも小悪魔はいたわね?」
「あなたは魔王ですか…」
「大丈夫よ。手は加えてこないわ、ただ物は飛んでくるけど……。それと、はい、バスタオル無かったでしょ?」
早苗さんは何事も無かったかのように俺の手の中からバスタオルを取り小悪魔に渡す
「こ、こ、こ、こ…こっち見るなぁぁあぁ!!」
「っいってぇ!!」
反射的に声のする方を見ると、白い塊が飛んできた
おそらく石鹸か何かだろうけど、俺の鼻を直撃し、思わず鼻を押さえる
するとバスタオルも落ちる
「絶対こっち見るな!絶対に見るなぁ!」
「ぁぁ…痛すぎる…」
次々と何か分からない物が飛んでくる
俺は飛んでくる物をすべて喰らいながら、鼻を押さえる。それほど痛いからだ
「ほらほら、小悪魔ちゃん。落ち着かないとまた倒れるわよ」
「うるさいうるさいうるさぁぁ…ぁ…」
「っと。ほら」
早苗さんはおそらく小悪魔が倒れる前に身体を支え、ギリギリの所で支えているんだろう
俺は鼻が思ったよりも痛くて見る気にもなれない
「はい、智ちゃんも鼻押さえてないで運ぶの手伝って」
「い、いや…マジで痛いんですけど…」
「運びなさい」
「ら、らじゃぁ」
とりあえず俺は鼻を押さえながら、近くの散らばったバスタオルを早苗さんに投げて、小悪魔の身体に被せてもらってから小悪魔を抱きあげ、部屋へと運ぶ
「鼻血とか出てません?」
「それは興奮で?」
「んなわけないじゃないですか」
「それ聞いたらこの子怒るわよ?」
「言いませんよ。よっと」
なんとかバスタオルで全身を隠しながら、小悪魔の部屋へと運びベッドの上に寝かせる
そして、俺はドアの方へ向かう
「早苗さん、服とか着させてあげてくださいね」
「やらないの?興奮するわよ?」
「しません。着替えが終わったら呼んでください」
「あら、寝込み襲うの?」
「襲いません。早苗さん明日仕事でしょ。だからお礼の代わりです」
「面白くないわね。まぁありがたく頼ませてもらうわ」
早苗さんはそう言ってドアを閉めて、しばらく経つと部屋から出てきて、俺に先にお風呂に入るように言い、俺はその言葉に甘えて先に入ってから小悪魔の看病をすることにした。