第33話 不運な一日。
「智、ちょっと買い物に付き合ってくれないか?」
「嫌だ」
隼人の願いを即答で断ったつもりだったが、隼人は無視して俺の財布を持って外に出ようとしたため、仕方なく付いていく
「どこ行くんだよ」
「カメラ屋さん」
「んなもんねぇよ」
「んじゃ服だな。とりあえず服も買わないといけないからデパートも行かないと」
「んなもん、俺のでいいだろ」
「小さいんだよ」
「なっ…」
結構ショックだ…
隼人は俺のことなんて無視して電車に乗り、隣町のデパートへ連れて行かれる
隼人は久しぶりにここに来たからなのか、変わってしまった街に興奮してデパートの中に入る
「すっげぇな。都会って」
「なんで男2人でこんなとこ来ないといけないんだよ…」
「お、智にもついに彼女ができたのか?」
「できてねぇよ」
「なんだ、まだ童貞なのか?」
「…はぁ…どうでもいいからさっさと用済ませろよ」
「肯定か?」
隼人はニヤニヤしながら俺の方を見てくる
俺はそのニヤニヤ顔にイライラして、否定するとますますニヤニヤし出した
「だよなぁ。だってお前、俺より早かったもんな」
「うぜぇ…お前は俺の生きてきた中で1番うぜぇ」
「光栄だ、一番になれるなんて」
「さっさと買えよ…めんどくさい…。てか、なるべく外出るなよ…」
「大丈夫だって、この通り見た目は変わってるから」
「はいはい…どうなっても俺は干渉しな……うん、絶対に助けないから」
俺は隼人からスススッっと離れる
俺から前に約50mぐらいだろうか
今あってはいけない女の人が友達と楽しそうに話しながら付いてくる
隼人はまだ気付いていないのか安売りされているカートの中を探っている
そして、俺は柱の陰に隠れながらに届けていると、前からくる女の子があろうことか俺に気が付いてしまった
「智だ、珍しい」
「…なんでここにいんだよ…千鶴」
「なんでって今日は理紗ちゃんと一緒にお買い物だよ」
「ふ~ん。仲がよろしくて」
「だね、もう隠してないし」
「そうですか、んじゃ俺はそろそろ帰らせて…」
「智!このジャージが500円とか安くね?…って…お…邪魔…だったか…な?」
タイミングが悪すぎる…
ここまで来るとある意味、神の領域並みのタイミングの悪さだ
せっかく人が頑張ってるのに、その頑張りすらなくさせてしまう
「………………」
千鶴は声の主の方を見て、じーっと隼人を見る
隼人は隼人ですぐに千鶴と気が付いたのか、苦笑いをしながらジャージをカートの中に直しに行き、何も無かったかのようにする
俺は「はぁ…」とため息を付きながら時間が経つのを待つ
このものすごく居ずらい雰囲気の中、最初に口を開いたのは佐藤さんだった
「千鶴ちゃん?どうかしたの?」
「ん?ううん、なんかね人違いだったみたい。ごめんね、行こう理紗ちゃん」
「え?あ、うん」
「それじゃね、智」
千鶴はそう言って佐藤さんの手を取り、エスカレーターで上の階に上がって行った
「…ばれなかった?」
「バカだろ…お前。バレバレだよ…」
「あは…あはははは…」
隼人は乾いたような笑顔でデパートの出口へ歩き出し、俺はそのあとを付いていく
もし、あそこで佐藤さんが千鶴に話しかけなければ、俺か隼人のどっちかが顔が無くなるぐらいまで殴られ続けられたか、外に出され車がたくさん走っている道路に放り出されたかのどっちかだ
まぁ助かってよかった…
俺と隼人はもう何をするにもやる気が無くなり、家へと向かう
隼人はもうやる気が無いどころではないだろう
隼人にとって千鶴は最大の敵でもあり、最大の味方でもある。
数年前までは最大の味方だったのに急にどっか行くから…
「いやぁ…びびったびびった」
「バカだろ、これぐらい予想できた」
「だなぁ…殺されないだけマシだった」
「だな。まぁ今夜が怖いけど…」
「へ?」
俺は家のカギを開け、中に入る
そして、隼人が入ると俺はすぐにカギを締め、ある計画を頭の中で練った