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第30話 足湯

 

 合宿も明日で終わり

 携帯の時計を見ると時間はすでに22時

 いつもなら俺はもう部屋に戻っているんだけど、今日は違った

 全然寝れてないからなのか、まったく頭が働かず、午前の時間はほとんど寝てしまったため大量の課題だけが残ってしまった


 俺の他には千鶴、宗太といつものメンバーが残っていて、そこに珍しく佐藤さんも残っている

 しかし、佐藤さんは自分の課題ではなく千鶴の教え役といった形だけど


「ん~理紗ちゃん、ここは?」

「そこはここをこうして…」

「ふむふむ」


 千鶴は縦に頷きながら、数字を書いていくがまったく違う答えだ

 おそらく間違って佐藤さんにこっそり答えを教えてもらおうという作戦をやっているんだろうけど、佐藤さんは一生懸命教えている分、なんだか可哀そうに見えてくる


「おい、アホ。教えてもらってんだからちゃんと考えろ」

「ぁいたっ。何、寝ることしか脳の無いのくせに」

「そんな寝ることしか脳の無い奴でも自分でやってんだから、お前はそれ以下だ」

「はいはい~。私より課題が残ってる人に言われても悔しくないもんね~」


 千鶴はニコニコしながら俺の方を見てくる

 それがムカつく…

 俺はこんな奴を相手するより自分の課題を終わらせることに集中するために、千鶴の頭を叩いてから席を立ち、千鶴とは離れた



「…よし、祠堂、もういいぞ」

「疲れたぁぁぁ…」


 もう23時

 1時間本気で頑張って何とか終われるぐらいまで消化した

 残りの課題は夏休みの宿題となる

 俺は大きな欠伸をしながら片付けをして、周りを見るといつの間にか宗太は部屋に帰っていて、俺と千鶴、そして佐藤さんだけが残っていた


「うぅぅ…先生ぇ、あのバカだけ終わりにするのズルいよ」

「何言ってるんだ、祠堂はしっかり宿題も終わらせる力があるからOK出したんだ。木島には無いだろう。佐藤にも手伝ってもらって…佐藤、もう帰っていいぞ」

「鬼だ…鬼教師だ…」

「だれが鬼だ」

「ねぇ、先生ぇ…私も寝たいよぅ」

「はぁ……なんかお前と話すと疲れる…もう帰っていい。夏休みまでにはしっかりやってこいよ」

「は~い」


 ついに先生までもが千鶴のバカさ加減に呆れた

 普通なら見捨てられる所だけど、そうならないのは千鶴の力なんだろうか…


 俺はその謎を頑張って解こうとしていると先生が俺の方を見てきた


「そうだ、祠堂。足湯の所に行ってるらしいな」

「そうですけど?」

「今日もこれから行くつもりか?」

「そうですね」

「もう23時なんだからさっさと寝ろ。そうじゃないとまた今日みたいになる」

「大丈夫です。良かったら先生も一緒にどうですか?」

「お前となんかは嫌だ」

「酷い」

「とにかく、24時までには部屋に入っとけよ。昨日は許したが、今日は許さないからな」

「はい、分かりました」


 先生はそう言うと部屋から出ていく

 まさか、あの宗太と一緒に行ったのがバレてたなんて…

 俺は今日はちゃんと24時に帰ろうと心に決めて、さっさと足湯の所へ向かう

 少しでも長く入るためだ


「はぁ~…足湯を考えた人に拍手~っと」


 俺は足湯に足を浸け、拍手をしながら寝転ぶ

 この合宿が終わって1週間経てば、2学期となる

 2学期は修学旅行、体育祭、文化祭、とイベント盛りだくさんだ

 楽しみと言えば楽しみだけど、めんどくさいと言えばめんどくさい

 俺は一旦目を閉じて、静かな音を楽しんでいると、誰かがこっちに歩いてくる音が聞こえて、目を開けると目の前に何やらピンク色が映る


「ん~…ピンク色考えた人にも拍手~」

「きゃっ」

「ぐはっ!?」


 とりあえず拍手をすると足が俺の腹を思いっきり踏みつぶしてくる

 俺はくの字に折り曲がり、足の持ち主の方を見ると千鶴が怒ったような顔で俺の方を見ている

 その横には佐藤さんがいて、スカートを履いている。千鶴はジャージだから……いや、これ以上は考えないでおこう


「どうかしましたか?」

「いや、智がおススメする足湯に私たちも入ろうかなぁって」

「ふ~ん。でも、あと10分少しだけど」

「いいのいいの。理紗ちゃん、入ろ~」

「う、うん」


 佐藤さんの顔はもう真っ赤になっていて、まだ引っ張っているようだ

 というか、あそこまで意識されると俺も意識してしまいそうになる

 俺は意識しないように深呼吸をしてからもう一度寝転がった


「ふぁ~…足湯もなかなか気持ちいいもんだ」

「だろ?」

「うむ。なかなかなものであるぞ」

「で?ただ入ろうと思ってきたわけじゃないんだろ?佐藤さんまで連れてきて」


 俺は千鶴の方を見ずに、空を見上げながら言う

 千鶴は少しの間、ん~っと考えて、千鶴の視線が俺に向かってくるのを感じる


「ん~っとね。まぁ智がいてもいなくても良いんだけど…」

「俺はお邪魔ですか。んじゃイヤホン付けといてやるよ」

「帰らないんだ」

「俺はあと10分間ここで癒されるの。俺にいてほしくないなら他で話せ」

「モテないよ」

「これ直したらモテるのか?」

「さぁ?無理なんじゃない?」

「んじゃ治す気無い」

「ちょっとは気使えないわけ?」

「気使えない男ですみませんでした。てか、俺に居て欲しくないならなんでここで佐藤さんと話そうとすんだよ」

「…それもそっか」

「素直すぎて怖い…」


 聞こえないように呟いたつもりがしっかり聞こえていたらしく、腹に鉄拳が飛んでくる

 俺は腹を押さえながら痛みに耐えていると、千鶴は無視して佐藤さんに話し始めた


「っと、ごめんね。ちょっと聞いてほしいことがあるんだ」

「う、うん」

「えっと…何から話せばいいかな?とりあえず、夏休み始まる前に智が私と付き合ってるって言ったことは嘘ね。こんな奴好きにならないから」

「中学の時付き合ってたけどな」

「うっさい!!黙れ!話がややこしくなる!」

「ぐはっ」


 次は鳩尾だ…


「こいつの言うことは気にしないで。過去の過ちだから」

「え、あ、…うん」

「それで、なんであんなこと言ったかと言うと………」


 何を今更言うのを躊躇っているんだろうか…

 千鶴は俺の方を見てくるが、俺は視線を外す

 それでも千鶴が俺の方を見てくる感じがして、大きなため息を吐いた


「わかったよ。言えばいいんでしょ、言えば。自分で言えたらここで話すわけないもんな」

「ごめん」

「別に。えっと佐藤さん、今から話すのは千鶴の過去の話ね」

「うん」

「とりあえず、全部話し終わってから質問してね」


 俺はそう言って身体を起こし、千鶴の過去のことを話す

 最初の方は驚いた様子で口が開いたままだったけど、最後の方は涙を目に溜めながら話を聞いていた


「ってことです。千鶴が言おうとしてたことは」


 俺は話し終わって千鶴を見ると佐藤さんがどんな反応するのかが怖いのか俯いたまま、佐藤さんがどんな顔をしているか確認せずにいた

 しかし、佐藤さんは千鶴を覆うように抱きしめて背中を擦り、耳元で何かをささやく

 さすがの俺もここは雰囲気を読んで、足湯から足を出し、タオルで拭いてから静かに部屋へと戻った


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