第11話 弱い自分
千鶴から1通の文なしメールが届いたのを確認した俺はポチを籠の中に入れて、携帯を持ち、家を出る
千鶴が彼氏と別れ話をする時は近くの公園を使うことが多い
俺はそこに歩いていくと、千鶴とこの前駅前で待っていた彼氏さんが言い合っていた
「なぁ、なんで俺と別れるとか言うの?」
「ごめん」
「俺、何かした?」
「ごめん。やっぱり合わなかった」
「意味わかんねぇよ。ほんっと意味わかんねぇ」
しばらくブランコに座って様子を見ていると千鶴が俺を見つけた
そして、男の方も千鶴の目線の先にいる俺の方を見てきて、目が合う
俺はなんとなく手を振ると男の人は何かわかったのか、千鶴に何か言って公園から出ていく
今回はなんとか無事に終わったみたいだ…
ブランコを揺らしながら千鶴が近づくのを待って、横のブランコに座った
「最後なんて言われた?」
「最低だな。だって」
「ふ~ん」
「ごめんね、毎回こんなこと頼んじゃってさ」
「別に、今回も何もしてないし」
立ち漕ぎをして勢いを付けていく
横では元気のない千鶴が俯いている
千鶴は毎回そうだ、適当に付き合ってるくせに別れる時は悲しそうにしている
その悲しみが自分に対してなのか、相手に対してなのかは俺には分からないけど、今の俺が千鶴に何を言っても仕方が無いことぐらいはわかる
俺はある程度ブランコに勢いが付くと座って、千鶴が話すまで静かに待つ
「本当はね、こんなことしてちゃいけないってわかってるんだ」
「ふ~ん」
「でも、やっぱり人と楽しくしてないと弱い私が出てくるんだよね。その弱い私が私の過去を穿り返してくるんだ…。あの時、私もお母さんやお父さんと一緒に死ねたら楽だったのにね…って弱い私が言うんだ…」
「ふ~ん」
「…その弱い私が嫌で…そんな私は私じゃないから…誰か一緒に居れば弱い私は出てこないから…」
「ふ~ん」
「…ねぇ、智」
「なんだ?」
「もう一度…付き合ってくれない…?」
「は?」
予想外の展開に俺の頭が少し追いついて来れてない…
俺はブランコを止めて、千鶴の方を見ると珍しく涙を流しながら俺の方を見てきていた
俺は少しだけ迷ったが正直に言う
「千鶴が俺と付き合っても何も得はしないと思うぞ?
お前は自分が居ないといけないって思ってくれる人が良いんだろ?
中学の時もそうだったけど、俺はそういう風にお前を必要としてない。普通に友達とか幼馴染とか腐れ縁とかそういうのでお前は必要だと思ってるし、別にお前が居なくても俺は生きていける。
だから、俺とお前が付き合った所でお前にも俺にも何のメリットも無い。だから、さっきの告白の答えは×だな」
「…そっか」
「というか、お前が願うモノを持ってる奴は少なくとも俺じゃないだろ」
「………」
「俺はあいつ以上にお前の求めているモノを持ってる奴はいないと思うけどな」
「…勝手にどっか行っちゃったもん」
「………はぁ。もう終わり、この話終わりな。ほら、もう暗くなってきてるから帰るぞ」
「………」
「お前ん家まで送ってやるから」
「うん…」
千鶴に手を差し延ばして、立ちあがらせ千鶴の家まで向かう
その間、俺も千鶴も黙ったまんま歩き、千鶴の家の前で俺たちは別れる
俺は千鶴が家の中に入って行くのを確認してから自分の家に向かって歩く
千鶴が本当に欲しいモノ、それは自分が生きていても良いという証明する人だ
千鶴はその人を探すために色んな人と付き合ったりしている。だけど、そんな人は簡単に見つからない
ましてや、1人を知っている千鶴にとってはその人以上を超えないといけないんだから