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「‥‥魁ではどうにもならないはずだわっ、この太陽の表皮のように粒立つ炎が、
あなたの正体と言うわけでもない‥‥この空間、いえ、この世界そのものがあなた
と言えちゃいそう‥‥」
そう言ちながら飛びまわるdooは、自身に纏わりつく魔炎をグングン相殺──
まるっきりの意趣晴らしに無へと帰しまくって、元どおりの闇へと戻し続ける。
しかし、コボしたとおりで、魔人モドキにダメージを与えているという手応えは
皆無。
dooは、最適解などポイの玉砕上等、持てる魔述でも最強にして最凶の究極魔
述を発動させる腹くくりだけは、サブナノ秒レンテンシで完了させる。
「あハはぁ。デも待チなヨdoo、今ノあリよウにコだわラなけレば、マだマだ愉
シめルと思ウんダけレどナ。dooにマデ消えテてモらウ必要はナいンだシ──」
その魔人モドキの言葉は、dooのフルスピードもトップスピードでの飛翔中に
もかかわらず、いやに明瞭に聞き取れた。
だが、やはり姿形は見当たらない。無論dooがもうじき消滅させきる炎熱のう
ねりからでもない。
「‥‥同じモドキでしょうけど、ワタシはワタシまで捨てたりしないもの」
「アはハぁ。マさカでシょウ。あの、プれイすホるダーのタめナンかニ?」
「ウルサいのっ。‥‥それが人間ってモノなのよ、たぶん‥‥きっとっ」
「‥‥ソうダね。ウん、ソう思ウ。‥‥追慕やラ悼念ヤらッテ言ウこトかナ。もウ
存在しナい、二度と会エなイ、なラ当然の衝迫。実に人間ジミた情念だネ」
「‥‥魁‥‥」
地面をくねり返っていた猛炎の残渣までを滅絶しおおせたdooは、通常の時間
の流れへと吐き出されたみたく、薄闇に包まれた荒地へ降りつくと、つんのめりつ
つスローダウン‥‥。
ヨロけるたびに、dooの眶から悲嘆の雫が跳ね散った。
そして、踞るように足を止めたdooの左肩──魁がデザインした中でも秀逸な
アーマードスーツの──蜷色の装甲が儚げな音をたてて破砕‥‥。
それを端緒とするかのように、左腕を覆う全てが砕け落ちていく。
「すッカり女子ダよネ~。ソの可憐さ、実にスっフィきエンス(及第点)、あクセ
ぷタびリす(合格)ダ。だカらあトは任セるヨ、dooの好キにヤっチャっテ~」
その言葉を最後に、魔人モドキの実在感がなくなったようにdooには感じられ
た。
手も足も出せず、ものの見事に逃げおおせられてしまった完全な敗北。
その無念さが、再びdooに涙を溢れ返らせる。
が‥‥dooの両目から涙とともに流れだしたのは、魁とのどうと言うこともな
い記憶、これまで過ごしてきた、たわいないけれども心楽しい日々‥‥。
しかし、それらは想念ではなく、具象化してリアルに、dooから流れ出してい
た。
そして途端に迸り、一気にdooをも呑込むと、怒涛となって暗い荒地を横溢
し‥‥ついには、空間自体を罅ぜ散らす。
それでも流出は留まることなく、敢言すれば氾濫は激甚を超えて凄絶、視太陽日
換算で6日7夜ビッグリップ的に猛り続けた──。




