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魁は、明王斬りの刀身が自分の目の高さにくるよう持ち据えて、軽くだがしっか
りと一礼してから手を放した。
とりあえず交戦状態からは離脱できているとの直観から、明王斬りには普段どお
りに悠揚と、手を伸ばせば届く宙に浮いていてもらう。
──ところが明王斬りが自律浮遊した途端、周囲が爆発的に灼えだした。
煮え滾るグラニュレーション(粒状斑)を思わせる光の対流が、魁が立つ数メー
トル手間で、ガラスのドームに阻まれているかのように蠢く。
その光景に、魁は再び明王斬りへ手を伸ばさずに、身を竦めながら目の前に手を
翳してしまう。
その反射的な動作が、致命的な選択でしかなかったと、翳した右手が、指先から
透け消えていくのを双瞳に映しながら魁は、もうあとで悔むこともできそうにない
絶望的な後悔から歯噛みする。
斬り伏せ方を、否否、そもそもバトり方を失敗っていた──と。
魁の耳と言うより薄れゆく意識の中では、魔人モドキの嘻笑もキャラキャラと響
いていた。
「あハはァ、愉シぃ‥‥」
「‥‥マジかよ、ガチで‥‥」
「デも、所詮アなタはプれイすホルだー(お慰みの代替品)。ダかラ、最期ノ最後
で、そンな事しか考えらレナい‥‥じャーネぇ、ぐッバイ・4・ぐ~‥‥」
明王斬りを掴もうと既にない右手が空をきり続ける。声にならない怒号も吐き散
らしながら、今際のキラを残すこともなく、完全に消滅する魁だった‥‥。
──ほどなくしてdooが現れる。
dooは辺りを見まわすこともなく、地面にちらほらと草が貼り付いているかの
ような開けた場所に、明王斬りだけが転がっているを見つけた。
そこへ近づく足どりに疲労は感じられないものの、一点を見据えた目元や顔つき
からは、明らかにいつものdooではない消耗が窺える。
dooがここ、魔人モドキがつくり出し魁を連れ去ったこの空間へと、辿り着く
のに手こずったのは、ここと同じ空間が、無限生成モデルのギミックとして施され
てとしていたがゆえ。
無限という多元性は、dooにとってもイル・ポーズド(ムチャゲー)にほかな
らず唯一の弱点。
魔述を駆使し尽くした挙句ですら、この手の施しようもないあとの祭りに至って
いるというあり様だった。
dooは、崩れ落ちるように地面へ両膝を突き、明王斬りを拾い上げる──そし
て、胸に強く抱きしめると涙をこぼした。dooにとって生まれて初めてとなる落
涙。




