002-01
登校日には毎度、遅刻をギリもギリの、担任や副担任教師たちを教室の直前で追
いぬいて回避している魁なのだが、今朝は叔母さんが高校近くに用事があり、その
ついでに、クルマで送ってくれたため、進学以来初の教室一番乗りを果たすことに
なってしまった。
通信・単位併合制クラスゆえ、来た順で好きな席に着いていいことにはなってい
るものの、魁は迷わず最前列の廊下側の席を占めると、早速机に突っ伏して眠りな
おしに入る。
今年度の担任教師は昨年度の担任教師と違い、扉を鳴らす勢いで開け閉めをるの
で、完全に寝入ってしまってもその音が目覚ましになってくれる上に、その席周辺
には、寝ている者を起こしてまで話しかけるような、厚かましい生徒も座らないと
見越しての選択。
そもそも登校日どころか、年間の登校回数も自分で決められ、教室が満席になる
ほど、生徒が集中することなどありはしない。
最前列ばかりか二列目までが空席のまま、ホームルームが開始されるのが常なの
で、スポーツタオルを巻いた枕に埋めた顔の感触が馴じみだすと、魁は心置きなく
爆睡をカマしにかかる。
──ところがそこで生徒が一人、後ろの扉から教室に入って来た。
「おっはよ~!」と、元気溌剌に挨拶までするその声は、紛れもなく女子。
魁には当然それが誰かなどわからないし、わかろうという気からして更更ない。
なので何のリアクションもせず、寝入り続けることに専念する魁だった。
この高校の通信・単位併合制は一クラスのみで、二五三人が名を連ねているが、
入学式から自由参加で、クラスの全員が一堂に会したことはこれまでなかった。
卒業まで一度も顔を合わせず終いという可能性も決して低くなく、そもそも、生
徒同士の関係が親密になり難いことを第一に、入学を決めた魁なので、シカトした
女子の足音が、自分へ近づきつつあってもどうでもいい。
それで蔑みだすような狭量な人物ならば、誰であろうが蔑み返すまでのこと。
より一層、魁は寝落ちに向けて集中する。
しかしながら、スグ横までやって来たその女子、なんと魁の左肩を逡巡なく掴ん
で、容赦もなく揺すり始めた。
「もしも~し。ねぇねぇ起きてっ、蜷威クンだよねキミ? てか、起きた方がいい
ってば。今日は体育ばっかの一日なんでしょ、寝てたらスグに動けないよぉ」
驚きもあって、魁は左目だけを開けた顔をヒネり上げ、机の上に伸ばし置いた左
腕越しに、その女子を睨めまわす。
――魁の記憶には全くない顔。
今日は体育以外の実科目授業も受けるからか、私服通学であるにもかかわらず、
制服じみた服装。
上履きには妙なこだわりがあるらしく、魁でも知っているハイブランドのロゴが
金糸で刺繍されたエグい青色のスリッパを突っかけていた。
「‥‥どちらさん? 悪いけど、余計な世話をやかないでくれないかな」




