001-12
「モォ~‥‥自己完結ギレするのはやめてよね、魁ってば」
「もういいっ、世界とかどうだって。ボクだって知るもんかっ、ボクはボクで好き
にやる!」
「エッ? ウソ、チョット待っ――」
どんな口ぶりだろうが、dooが消える気などないことはお見通し、今はそれに
も堪らなく嫌気が差す魁から、TVの電源スイッチをオフ。
ヘッドセットも剥ぎとって、コントローラーと一緒に放り出したあと魁は、ダイ
ニングとキッチンの境目を示すみたく置かれたウォータースタンドへ、ズンズンと
向かう。
コップになみなみと注いだ水を一気に飲み干し、大きなゲップも吐いて人心地つ
いた魁は、家族三人でしか使わない八人がけのダイニングテーブルにコップを置く
と、自身もイスの一つに腰かける。
狭くはないものの、キッチンスペースまでが同じ幅で縦長につながるリビングダ
イニングを見やれば、最初から自分一人しかいないにもかかわらず、dooを消し
たえ静けさから、ヤケに圧迫感を覚えだしてしまう魁だった。
会話をしていなくても、dooが勝手にシャララ~ンと動き、バズりかけのダン
スも見せてくれるディスプレイ類は、離れて来たTV画面を始め一切の電源が入っ
ていない。
そのため、魁の目が唯一動きを捉えたのは、普段ならばまず気に留めもしない掛
け時計の秒針のみ。
Web学習塾のオンライン指導サーヴィスを受ける時刻までは、まだ二時間半近
くもある。
それまでは、食後に眠気が襲わないよう、敢えてだらだらと昼食を済ませておく
以外に、しなければならない用事も予定もない。
魁は、深く長い溜息をつきながら、もう中学受験のための学習指導すらも、受け
る必要がないのではないかと思い至って、ヴェランダの胸壁が下三分の一ほどを隠
す、ガラス戸越しの風景へと視点を上げた。
「‥‥何が世界だよ‥‥何なんだよ世界って? 変えたいのは世界じゃなく人なん
だ。人ならあんなビルよりずっと簡単に蹴り退かせちゃえるのに、それを世界が許
さないからウザキモいんだっ‥‥」
ゾゾ髪立ってきてしまう魁だけれども、頭をふって払いのける。
「‥‥そんな世界も人も、変える意味なんかない気がする。第一ボクがやりたいよ
うにガンバらなくちゃ、変えられたって嬉しくないっての全然っ‥‥」
再び長く深い溜息をついてしまう魁だった。
だが、大きく伸びもしながらイスの背へ凭れかかる際、母親の通めかした食器コ
レクションが収まる飾り棚の上に、鎮座まします無粋なアルミ缶を目の隅に入れる
と、背凭れに上体を崩れ込ませたあとは一思案。
そして、さらなる決心を固めた魁は、イスから勢い良く立ち上がる。
キャッシュで買い物をした日に、母親が財布から廃棄するように小銭を入れてい
るその缶型貯金箱へと、躊躇いを見せずに手を伸ばした──。




