第7話 勘違い
「まずここは、どこなんだ?」
「ここはルミナストラ王国とヨント王国との国境近くにあるルミナストラの領地、サナリ村だよ。近くにトルギア大森林があること以外は、のどかでいいところさ」
「……国境付近っていうと、もしかして結構危ないのか?」
「20年くらいまではここらへんも結構ピリピリしてたらしいよ。でも、魔王の復活によって各国の間で不可侵条約が結ばれてからは、危険という危険はあの森に住まう魔物くらいかな」
魔王……。その言葉を聞いて、俺の脳裏には炎の男の姿がよぎる。
できることなもう、あんなのとは対峙したくないものだ。
「じゃあ次はそうだな……沈黙の勇者について教えてくれないか?」
沈黙の勇者、という言葉を聞いた瞬間、リンの目がキラキラと輝きを放ち始めた。待ってましたと言わんばかりに。
「いつもはどこにいるか誰もわからないけど、国に危機が迫ったその時には必ず姿を現す神出鬼没の勇者様。常にフードとマントで姿を隠し、顔も声も使う魔法も何も知られていない。しかし強力な魔族の討伐数は随一。
決して自らの功績を自慢することもなく、問題が解決すれば颯爽と姿をくらませる。千年前に現れた勇者の後継にふさわしい人物です」
ろくに息継ぎもせず早口でいい終えると、まるで自分のことのように自慢げな表情を浮かべている。よっぽど勇者のことを尊敬しているのだろう。
本物の勇者が死んだと知ったら、悲しむだろうな……。
「王国を古くから守ってきたんだな」
「古くからというのは語弊があるかも。沈黙の勇者様が初めて目撃されたのは約10年前だから」
「なんだ、結構最近じゃん」
「そうだよ。だから、世界各国は緊張状態が続いている」
「……どういうことだ?」
「かの預言者サリウス様が死の間際におっしゃっていたそうなんだ。勇者ある所に魔王あり、魔王ある所に勇者あり。相対するが如くにして、されど表裏一体なり、って」
……つまりその予言者様といわれる者の言葉を紐解くと、勇者と魔王は同じ時代に存在し、勇者が現れたということは魔王もいずれ復活するってところかな。
「でもよ、なんで勇者の姿を知らないのに、そいつが勇者って皆信じてるんだ?」
「ふっふっふ、そんなの簡単なことさ。それはなんたって、光の勇者伝記に出てくる三種の神器を持っていたからだよ!」
三種の神器……。それを聞いて、勇者から回収した装備品のことを思い出した。
やはり俺の推理は当たっていたようだ。勇者のダイイングメッセージは、三種の神器を王都に届けろということで間違いなさそうだ。
勇者様よ、あんたが本来浴びるはずだった名声は俺が代わりに浴びてくるから、安心してくれよな。
「そうだな、あと聞きたいことといえば…………魔法について」
「魔法のなにについて?」
「ほらその、記憶がなくなっちゃったから魔法の使い方がわからなくてさ。どうやって発動するんだっけか」
「そんなことまで忘れちゃったの? そんな状態で大した怪我もなくここまでたどり着いたのは奇跡だね。そうだな、何から説明しようかな……」
リンは腕を組みながら、どこから教えるべきかを思索している。
「伝導器、はもちろん覚えてないよね?」
「伝導器?」
「僕たち人間と世界とをつなぐ、魔力を媒介させる器のことさ」
「も、もう少しわかりやすく頼めるか?」
「僕たちはその身一つで魔法を使うことは出来ないんだ。魔法を顕現させる器に魔力を流し込み、詠唱することで初めて発動することができる。僕でいうと――」
リンはそこまでいうと、席を立って出入口のほうへと向かった。扉の横には、勇者が携えていたものとほとんど一緒の刀身の剣が立てかけてあった。
リンがその剣を鞘から抜き、自慢げに構えて見せた。
「僕の伝導器はこの剣。剣に魔力を流し込むことで、魔法を顕現させることが出来るんだ。基本的には剣や杖、本を媒介にすることが多いよ」
「それって自分で決められるもんなのか?」
「いいや。人によって千差万別さ。でも、それを手に触れさせれば、直観的に確信できるよ。こう、電気が走るみたいに、ビビッとくるらしいよ」
「らしいって、リンは違うのか?」
「僕は多分、違うと思う。剣や魔法や杖は結構万能でね、100%とまではいかないけど、70%くらいなら引き出してくれるんだ。だからほとんどの魔法使いはそれを使ってるよ。案外自分にピッタリな伝導器を見つけるのは難しいんだ」
なるほど。今の時点で少なくとも、俺も剣でないことは確信できたな。
落ち着いたら色んな魔法を学びながら色んなものに触れてみよう。
これからは自分のやりたいことだけに全力を注いで、人生を満喫するんだ。
「そういえば、シオンはこれからどうするの?」
「……そうだな、俺はしばらくここでミラを待って、来なかったら王都へ向かおうと思ってる」
「え、ミラって――」
唐突に部屋の扉がぎぃ、と音を立てながらゆっくりと開かれた。ノックもなしに開いたことで体が一瞬強張るが、扉の奥に立つ人物を目にして、一気に弛緩する。
「元気そうでなによりです、シオン様」
そこにはまぎれもない命の恩人、ミラが立っていた。
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