第4話 踏んだり蹴ったり
……なんだ、これ。
死の間際に残した言葉だ。きっと意味があるはずだ。深夜アニメで培った知識をフル稼働させて、なるべく早くこのメッセージの意図を調べることとしよう。
そのままつなげると、早急に王都へ何かを搬送せよとのことだ。
いったい何を搬送するというのだろう。
――まさか、おれ自身か?
俺だと仮定した場合、搬送という点が気になる。搬送って言葉は人間相手に使うには若干の違和感がある。もしかして、俺のような転生者はこの世界においてはモノと同様なまでに人権が存在していなくて、何か人体実験に使われるような下等な存在という認識なのだろうか。
そうだとした場合、命を賭して俺を助けてくれた勇者は、俺をだましていることになる。
カモにネギしょわせて鍋まで歩いて行けと言っているようなものだ。
そんなことはできれば信じたくない。
それに、勇者は俺を転生者だと知っているのか?
もう少し、考えてみた方がいい。そもそも、勇者が何か残しているかもしれない。
「……あ」
そこで俺は初歩的なミスに気が付いた。勇者が残したもので、搬送できるものなら目の前にあるじゃないか。
文字の隣に、勇者が身に着けていた、象徴ともいえる装備品。
剣とマント。
きっと勇者は死の間際に思ったのだろう。このマントと剣を王都へ持ち帰り、自分の生きた証を後世に残してほしいのだと……。
マントを持ち上げると、2つだと思っていた装備品だったが、もう1つあることに気が付いた。
「ペンダント?」
マントに刺繍が施されていたのと同じ紋章が彫られた、銀色のペンダントが落ちていた。剣の方も手に取ってみると、柄の部分に同じ紋章が刻まれている。
今はそれがどういった意味を持つのかまではわからない。
ただ、勇者が残したメッセージの意図にはばっちり当てはまっている。
「つまりはこの3点セットを王都にウーバーしろってことか」
王都の方向はこの矢印が指す方だろうな。どうせほかに何したらいいかわからないことだし、まずはお届けにあがるとしますか。
それにしても、この三点セットを手にもって歩くのはどうにもしんどい。とにかく重たい。
王都に運ぶまでは、身につけさせてもらおう。勇者さん、このくらいは許してくれよな。
身に着けてみるとあら不思議、馬子にも衣裳とはよく言ったものだ。こんなおれでも、案外様になっているように見える。
あたりに見えるのは荒れ果てた荒野のみ、王都まではしばらくかかるかもな。
そうして俺は、矢印が指す方へと歩き出した。
※
一体何時間くらい歩いただろうか。
足に乳酸がたまりまくって、一歩一歩踏み出す度、足裏に痛みが走る。
もう歩きたくないと何度も思ったけれど、そうするわけにはいかない。
なぜなら、周りはいまだ見渡す限りの荒野なのだから。
疲労に辟易としていたが、この世界でのこれからのことを夢想してなんとか気を紛らわせていた。
なんか魔王はさっき死んだことだし、おそらくこの世界は平和になったはずだ。
そんな世界でやることといえばやることは1つ。
片田舎に居を構えて牧場経営!
しかし、それでは元の世界と何ら変わらない。
変わったことといえばやっぱり……。
「魔法、かっこよかったな……」
男だったら一度は憧れる魔法。
この世界にはそれがある。牧場をやるって夢は一旦お預けで、まずは魔法の習得だな。
平和になった世界ではもしかしたらそんなに魔法は重宝されないかもしれないが、日本にいた俺にはそんなこと知ったことではない。
うん、まずは魔法だ。
勇者の荷物を王都に届けたら、まずは魔法学校的なのところに入って魔法を学ぼう。
希望が湧いてきたところで、ようやく普段とは違う景色が見えてきた。
枯れた大地とは正反対の性質を持つ、大森林の出現だ。
「俺、1日に何回死を覚悟しなきゃならんのだ」
行くも地獄、帰るも地獄。どうせ見る地獄なら、見たことのない地獄を見に行くことにしようじゃないか。
そうして、疲れ果てた状態のまま森の中へと立ち入った。
見たことがないくらい巨大な大木が乱立している。上を見上げてみたが、てっぺんが見えない。
木々の葉でおおわれているせいだろう、光がほとんど降り注いでこない。薄暗い空間も相まって気分は最悪だ。
方角を見失わないように何とか顔は上げたまま歩いてみるが、一歩を踏み出すのが怖い。このまま倒れてしまえば、頑張らなくて済む。
そもそも、勇者が書き残したダイイングメッセージは本当に俺が読み解いた通りの意味だったのか。
もう今更そんなことを考えても仕方がないか。
そうしてまたゆっくり、ゆっくり、歩き始めた。
※
もう、どれほど歩いたかわからない。まっすぐ歩けているかもわからない。そもそも、俺は立っているのだろうか。
意識はある。体中から走る痛みの感覚もある。まだ生きてはいるようだ。
異世界に転生されてからというもの、罰を下されているようなことばかりだ。
3回も死にかけるほど、悪いことをした覚えはない。
「…………」
声を出そうとしてみたが出てこない。助けを呼ぶことすらできない。
こんな情けない死に方するなら、あの時狼に食われた方がよかったかもな。
本日3回目の死を覚悟して、腹をくくろうと思ったそのとき、まだかろうじて生きていた聴覚が何かを聞き取った。
全力で耳を澄ましてみて初めて、その音は足音のようだった。
俺は昔から最悪なところで運がいい。宿題の提出日、家に忘れて学校へ行ったときも、その日に限って先生が偶然休みだった。
ちょっとエッチなDVDをネット注文した時も、親のいない日を配送指定したのに台風の影響で配送が遅れて、いつ届くかわからなくなったけれど、偶然親がいないときに届いた。
不幸中の幸い持ちってところかな。
どうやら転生してもその特性は生きているようだ。いったん不幸にはなるが、それはのちの幸いのフリにすぎないのだ。
足音がだんだん近くなり、頭上で止まった。
残った力を使い、両瞼を開くことに全力を注ぐ。かろうじて開いた視界はぼやけていたが、なにかが俺をのぞき込んでいるのは分かった。
ああ、良かった。助かった。
視界は徐々に解像度を上げていき、やがてのぞき込んでいるものの正体をくっきりと認識することができた。
「……熊かよくそったれ」
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