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第23話 模擬戦闘

「カインさん、ありがとうございます。では、前へ」


 固まっていた俺達の中から堂々たる歩みで前に出ると、クロウ先生と向かい合う位置についた。


「皆が出たがらないからアタシが出てきてあげたんだけど、この模擬戦闘をする私のメリットってなにかしら?」


 嘘つけ。お前はただめだちたいだけだろう。

 皆口には出さないが、全員がそう思ったはずだ。


「そうですねえ……。では、もし私に勝てばカインさんの望みを1つ、なんでも叶えます」


「んふふ……のった」


 そういうと、カインはぼそぼそ何か呟いて、右掌を地面に叩きつけた。

 手のひらは光を帯びて、ゆっくりと手を上昇させる。すると、俺が持っているのと似た剣が地面から抜き出るように出現した。

 剣が出現した地面が少し削れているところを見るに、土でできた剣というわけか。


「それがカインさんの伝導器ですね」


「ええ、そうよ」


「カインさんは好きに攻撃してきてください。皆さんは、僕の声に耳を傾けるように」


 周りにはメモ帳を持って担任の言葉を一言ももらすまいとする気概を感じるものも何人かいた。

 俺は特になにも持っていないので、目に焼き付けることにする。


 「ではまず、属性について教えていきましょう。今は水・火・風・土・雷の5属性があります。水は火に強く、火は風に強く、風は土に強く、土は雷に強く、雷は水に強い――5属性が互いに一方向で優劣を持つ循環関係にあります」


 そんなことは知ってて当然だと言わんばかりに、カインは小馬鹿にしたように鼻で笑った。

 そうして剣先をクロウ先生の方へと向ける。


「焼き焦がせ、焔玉!」


 入学試験のときに見た魔法だ。土の剣先にバスケットボールくらいの大きさの炎の玉が出現し、クロウ先生のもとへ一直線に飛んでいく。

 クロウ先生は眼の前で起きていることなど少しも気にしていない様子で続ける。


「基本的には、属性の相性が悪いものと戦うことはできるだけ避けてください。属性とは、自分の放つ魔法には必ず付与してしまう性質があるので、不利な戦いを強いられることになります」


 そんなことを言っているうちに、焔玉は眼前まで迫る。

 しびれを切らした誰かが、危ない! と叫んだ。


「だから、このように属性の有利不利を活かしてください――穿て、蒼玉そうぎょく」


 担任の持っている本のページが1枚捲れ、見開き部分が光る。

 本の前方にカインが放った焔玉と同じ大きさの水の玉が出現し、向かってくる焔玉と衝突した。

 水と炎の衝突によって二人を隠すほどの水蒸気が爆発的に広がる。

 戦闘を見ているクラスメイトたちは不安そうな表情を浮かべていたが、それを解きほぐすように煙は流され、向かい合う二人が再びあらわになった。


「しかし基本的には1人1属性。カインさんのように稀に2つ以上の属性を持っている人もいます。だから相手の属性を見極め、逃げるか戦うか決断することがまず1つ」


「うだつの上がらない男だと思ってたけど、腐ってもノーラン魔法学院の教師といったところかしら」


 カインは剣を天に掲げた。次は何が来るのかと待ち構えていたが、少しして剣先を先生の方へ向き直して走り出した。


「肉弾戦はどうかしら」


 カインは容赦なく剣を振るうが、そのどれもを担任はいとも簡単に避け続ける。


「そして大事なことの2つ目、いついかなる時も魔力感知を怠らないこと」


 そういった直後、カインが後ろから突き飛ばされたように前方に転んだ。


「どこから攻撃が来るかわからない以上、つねに魔力は感知していてください」


 カインの背後から飛んできたのは、先ほど焔玉にぶつけた蒼玉だった。

 魔法の使用には詠唱が必要だと思っていたが、いまクロウ先生はなにも言っていなかったはずだ。


「現代の魔法使いは本来あるべき詠唱を省略する、略式形式を取っています。完全詠唱に比べ威力は下がりますが、無詠唱でも魔法を放つことができます。今の私の一撃は決して致命的とは言えませんが、一瞬の隙を生み出すことが出来た。それに、たとえ威力が下がっているとはいえ何度もくらいたいものではないはずです。そうですよね、カインさん」


 カインはまだ、背中を抑えて地面にうずくまっていた。

 顔を上げると、怒りに満ち満ちた表情を浮かべている。いいところを見せるつもりが赤っ恥をかかされたんだ、プライドの高いカインが何も感じないはずがない。


「アタシの美しい背中に攻撃してくれるなんて、許せないわ」


 怒りのこもった語気でそういうと、カインは剣を地面に突き刺した。


「大地よ縛れ――地縛陣」


 剣の突き刺さった地面が少々盛り上がったかと思えば、まるで生き物のようにそれは二人を円状に囲った。

 さながら土俵縄(どひょうなわ)のようになった土は、檻のように空に伸び始め2人を閉じ込める。


「さあ、逃さないわよ。アタシの土壁が、はたしてあなたの水属性の魔法で破れるかしらね」


 担任は全く危機感のない顔で、空に向かって伸び続ける土壁を見ている。壁は2人の身長をゆうに超えているが、それでもまだ伸び続けている。


「では最後に、魔法戦闘の基礎その3です」


 その次の瞬間だった、壁の向こうのクロウ先生が徐々に宙に浮いていく。

 クロウ先生はそのまま壁を超え、こちら側にゆっくりと降りてきて、土壁に囲まれたのはカインだけになった。

 そうしてクロウ先生は観戦していた俺達に


 「いつでも、退路・逃走経路を確保した状態で戦いに望むこと。逃げることは決して敗北とは違います。命ある限り、挑戦も成長も出来ますから」

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