第18話 城下町
学院を出てしばらく歩くと、街のにぎやかな喧噪が聞こえてくる。
元の世界でこれほどの喧噪を耳にすれば、近くで祭りでも行われいるのではないかと思うことだろう。
三種の神器を身に着けていてこれ以上の騒ぎを起こしてしまう。
ペンダントに武器とマントを収納し、制服の下に隠すと、俺もただの学院生だ。
顔も一部の人間に見られているとはいえ、まださほど広がっていないだろうしフードも今は被らない。
城下町の表通りは人でごったがえしていてひしめき合っている。
休日でもないというのにずいぶんと活気に満ち溢れていた。
祭りに参加するみたいで心が小躍りする。
「相変わらずすごい人の数ですね。流石王都です」
「サナリ村の長閑のどかさが恋しくなるね」
2人も俺と同じく、どこか浮足立っているようだ。
表通りの中に入っていくと、左右の露店からこれでもかと呼び込みがかかる。
小物を売っている店や、洋服を売っている店、本が売っている店もあるしなんでもござれだ。
しかしそんな中、活気あふれるこの場で異質とも思える雰囲気の露店が目に入った。
勘違いかもしれないが、まるでそこを避けているかのように人がいない露店。
それはどこにでもある青果店のようであり、店頭にはいかにも人受けのよさそうな柔和な顔のおばあちゃんが立っていた。
遠目に見ても、店頭に並んでいる果物のようなものは色も鮮やかで目を引く。
おばあちゃんが何か声を発しているのはわかるが、周りの声にかき消されている。
俺たちは特に決めたわけでもなく、自然とその店の前に向かった。
みずみずしい果物のようなものがずらりと並べられており食欲をそそってくる。
「おいしそうなものばっかりだね」
「すごい、どれも新鮮ですよ」
2人から見ても、この店に並んでいるものは質がいいらしい。
それに、ミラに限ってはどこか声が上ずっているようにも聞こえた。
店の商品を吟味する俺たちを、おばあちゃんはにこやかな表情を浮かべて見ている。
「当店で足を止めるとは、坊やたちお目が高いわねえ。ここに並んでるものは全部今朝とれたものさね」
ミラは思いのほか食いつきがよく、目をきらきらさせながら店頭にならぶそれを見ている。
「なんだミラ、こういうの好きなのか?」
「ミラは昔っから果物に目がないんだよね」
「べ、別に目がないほどじゃ……」
言ってる間にも、ミラの腹が鳴る音が聞こえてくる。
「俺も食べてみたいな。ミラのおすすめがあったら教えてくれないか」
「そ、そうですか? そういうことなら、これなんかおいしいですよ」
そういってミラおすすめの果物を数点手に取った。
どれも元の世界で見たものと類似点が見られるもので、これなら俺も抵抗なく食べられそうだ。
おばあちゃんの前にそれらを差し出すと、袋に包んでくれた。
「ちょっとまけといてあげあるさね」
「いいのですか? これほどの新鮮な果物そうそうお目にかかりませんよ」
「いいんだよお嬢ちゃん。ふふ、嬢ちゃんたちにはまた会えそうな気がするねえ」
「いえおばあさん、気がするではありません。確実にまた会いましょう」
ミラはおばあちゃんと硬い握手を交わしている。いったいどんだけ好きなんだ。
おばあちゃんから果物を受けとりミラの方を見遣ると、口を半開きにしていて今にもヨダレが垂れてきそうだ。
「人通りの少ないところに行って一口食べないか?」
俺の提案に無言で何度もうなずくミラ。待ってましたと言わんばかりで、今までみたどの笑顔より無邪気だ。
普段は常に落ち着いているミラとギャップがあって心をくすぐられる。
なんとか人混みをかき分け裏通りへ抜けると、さっきの人混みがうそのような、人がまばらな通りにでた。
立ち止まって袋を開けると、ミラが今か今かと地団駄を踏んでいる。
「本当に目がないんだな」
普段見ない一面に思わず微笑をこぼした。ミラは袋に手を突っ込む。
袋の中からリンゴに似たような果物を一つ取り出した。まだお目当てのものがあるみたいだ、再び袋の中に手を伸ばしたその時、俺たちの傍を影が通り過ぎた。影が通り抜けたかと思えば、影を追うように吹き抜ける風。
一体何が起こったのかとあたりを見渡すと、俺たちから遠ざかるように走っていく子どもの姿が目に入る。
まったく、子どもというやつはどの世界でも元気なものだ。そんな呑気な感想を抱いている俺とは違い、ミラの目は見開いている。
「わ、わたしたちの果物が……」
ミラの手元に視線をを向けると、先ほどまで手にしていたはずの袋がいまはない。
そして走り去る子どもに向き直すとその手には見覚えのある紙袋。
「シオン、あの子ども! 泥棒だよ!」
リンの言葉を受けてようやく意識が切り替わる。裏路地を駆け抜ける元気なこどもと鷹をくくっていたが、どうやらそんな可愛いものではないらしい。
「私の、果物、渡さない」
ミラの表情は驚きから怒りへと変貌を遂げ、戦闘態勢に入った。俺が言葉をかける前に体は動きだし、走り出した。
俺とリンもそれに反応するように走り出し、2人を追いかける。しかし、2人の速さに追いつくことはかなわず、すぐに見失ってしまった。
「ミラ、早すぎないか……」
「そりゃあ子どものころからあの森を庭にしてるくらいだから、すごいよ」
すぐに2人ともヘロヘロになってしまい、足は止まる。
息切れを起こして膝に手をつく。聞こえてくるのは俺とリンの激しい呼吸音のみで、人気の少ない裏路地はやけに不気味だ。どこからか視線も感じるような気がする。
動きを止めているのはよくないと直感し、ゆっくりだが歩みを止めないよう心掛ける。
「ミラ、どこまで行っちまったんだよ」
「まだ日が落ちるまでは時間があるし、ゆっくり探そう、シオン」
俺とリンは呼吸をゆっくりと整えながら、路地を進むことにした。




