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第17話 勇者と友達

 宣戦布告ともとれる言葉を唐突に言い放つ彼女に、教室にいた生徒たちはざわめきだす。

 どうして彼女がそんなことを言ってくるのかが全く分からないが、もうこれ以上厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだ。


「勇者がいらない世界か……。そんな世界がきてくれると俺も嬉しいよ」


 まさに優等生といった受け応えでいい心証を与えられたと思ったが、彼女はお気に召さなかったようだ。

 苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべたかと思うと、自分の席へ戻っていった。

 我ながら理想の勇者像に準拠した返答だったと思ったが、何が不満だったのだろう。


「これで全員の魔力量の調査は終わりですね。10分休憩したのち、次の授業を始めます。準備して待っていてください」


 そういうとクロウ先生は教室をあとにした。10分休憩になると待ってましたと言わんばかりに生徒達が群がってくる。

 これでは休憩どころではない。ゆっくり休みたいというのに、同級生たちの質問攻めに受け答えしていると休憩時間はすぐに終わりを告げた。

 それにしてもあのアリアって子、どうしてあんなことを言ってきたんだろうか……。



 ※



「それでは席についてください。早速次の授業を始めようと思います。まあ授業といっても今日はオリエンテーションのようなものだけなので、そう身構えないでください。これから魔法使いを目指すあなたたちに、最低限知っておいてほしいことをお伝えします」


 そうして午前中の間は、途中途中に休憩をはさみながらこの国の歴史や、魔法使いとしての心構えなど、おそらくかなり初歩的なことを教えてくれた。

 それはまるで記憶を失った俺のためにある授業のようなもので、この数時間でこの世界の輪郭をなんとなくつかめたような気さえした。

 クロウ先生がまず話してくれたこと、それは初代勇者について。もともとは勇者といえばその人だた一人を指した言葉だったのだが、ここ十年で再び勇者が現れたことにより初代という言葉をつけている。

 かつて人類を脅かした魔王軍を三人の仲間たちと退け、ルミナストラ王国に平和をもたらした人物。

 しかし魔王討伐後、王国に帰還することはなく力尽きたそうだ。自らの命に代えてまでルミナストラ王国を救済した人物として、皆が忘れないようにと勇聖教が興された。


 勇聖教の聖典には初代勇者の様々な冒険譚が載っている。勇者の行いを真似て己に恥じぬ生を全うすることこそが理想の生き方であると説いている。

 そのため熱心な信者であればあるほど、竹を割ったような人が多いのだ。

 それに、聞き捨てならないことも言っていた。それは、勇聖教にとっての神とは勇者ということらしい。

 だから待ちゆく人々は俺に対して祈りを捧げていたわけだ。


 そらからもこの国の建国から今に至るまでの大きな出来事を教えてくれはしたが、集中力が途切れてしまい入ってくる言葉は右から左だった。

 午後を知らせるチャイムが鳴り響くと、教室にいたほかの面々も俺と似たような状態だったらしく、一様に肩の力を抜くように長く息を吐いた。


「今日のオリエンテーションはここまでです。明日から本格的な授業を始めます。今日はゆっくり休んでくださいね」


 授業が終わるなり、ミラとリンに一声かけてそそくさと教室を後にした。

 ちんたらしているとまたクラスメイトに囲み取材をうけてしまう。

 一直線で自分の部屋へ向かい、ベッドにダイブした。

 この世界で唯一落ち着いていられる場所かもしれない。

 誰の目線にさらされることもなく、静寂に包まれた空間。それでいて安全ときたものだ。

 どうせならずっとこの部屋にこもっていたいくらいだ。

 しかし部屋と学院を行き来するだけの生活は元の世界と同じだ。

 本当であれば町を散策してみたいところだが、確実な安全が保障されているのは学院の敷地内だけ。

 城下町へ降りるときも護衛をつけてくれるとは言っていたが、聖儀の徒のこともあるし不安要素がありすぎる。


「シオン君、いますか?」


 突如部屋の扉の向こうから聞こえてくるのはミラの声。


「いるよ。ちょっとまってて」


 ベッドから腰を上げ扉を開けると、まだ制服姿のミラとリンが立っていた。


「シオン、これから城下町へ降りない? せっかくの午後休みだし、街を見て回ろうよ」


 俺は2人をみながら、思うことがある。

 俺と共に行動することの意味を本当に理解しているのだろうか。


「俺はその、行きたいんだけど、2人は――」

「シオン君」

「は、はい!」


 俺を言葉を遮るようにミラが名前を呼ぶ。いつもの優しい口調からはかけ離れた語気の強さに、思わず背を正してしまう。


「みずくさいこと、言わないでくださいね。私はいつだって、シオン君の傍にいますから。……いやだっていっても、いてやりますからね」


 いつもと変わらぬ穏やかで、優しさに満ちた声。

 ミラが微笑むその笑顔はあまりにもまぶしくて、思わず泣きそうになってしまう。


「僕も忘れちゃだめだよ」


「忘れてないさ、リン」


 2人がいなかたったら、俺はどうなっていたことだろう。

 2人がいてくれるから、俺はこの世界で孤独につぶされることなく生きていける。


「じゃあ、お誘いをうけるとしようかな」

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