第16話 魔力測定②
「低いんかい!」
教室の中はクスクスと嘲笑じみた笑い声で満たされる。
大見えきったカインといえば居たたまれない様子でわなわなと震えている。
しかしクロウ先生だけはなぜか、訝し目つきでカインを見ていた。しかしそう感じたのは気のせいだったか、瞬時に気怠そうな表情になっている。
「3000ですか。まあこの年なら相応といった感じですねえ。とまあ、このように魔力晶に手をかざすと内包する魔力と数値化してくれます。大まかな基準ですが、魔力量10000を超えていることが魔法師団への入団の最低条件です。初めての魔力測定で20を叩き出して魔法師団に入れた例もありますから、ここでの結果はあまり気負わないことです」
どうやらこの年齢では割と平均的な数字らしい。ということは、俺もとりあえずは3000、最低でも2000くらいあればどうにか未来に希望を持てるかもしれない。
今すぐにでも計測してもらいたいところだが、名前を呼ぶとのことなので自分の番が来るまでおとなしく待つこととする。
「次はミラ=オルピクソンさん」
ミラは教壇へと向かい、恐る恐る手をかざした。すぐに黒板に数字が表示されると、教室内は先ほどとは違ったざわめきを見せた。
「ほーう。魔力量8000ですか。その年にしては随分優秀ですねえ」
カインの二倍以上ある魔力量に教室内はミラの正体について疑問を呈し始めている。
どこの貴族だとか、いったい誰だとか慌てている。
ミラは気恥ずかしそうに俺の隣に戻ってくると、頬を真っ赤に染めていた。
「皆に注目されるのって、とっても恥ずかしいです。シオン君は毎日これ以上の思いをしてるんですね」
恥じらいを感じているこの状況でも、俺のことを気遣ってくれているそのセリフがなんだか嬉しくて、口元が緩みそうになる。
ミラのことが直視できなくて視線をずらしたその先には、俺たちを皆がらリンがこれでもかというほど口元を緩ませながらこちらを見ている。
その表情をみて瞬時に冷静さを取り戻したその時、
「次、リンフォード=フォーグナーさん」
にやついたままリンは立ち上がり、教壇へ向かう。ミラと同様に手をかざすと、黒板に数字が表示される。
「ほーう、6500か。今年の新入生はなかなかに有望じゃないですか」
ミラもリンも、片田舎の出身であるにも関わらず魔法使いとしての資質を遺憾なく示している。
昨日ミラたちに聞いたことだが、王都に住んでいる将来魔法使いを目指すものたちは、幼い頃から魔法使いに師事することで研鑽を積んでいる。
スタートラインの違いから、魔法師団の面々はそのほとんどが王都出身のものたちで構成されているらしい。
そのせいなのか、魔法師団の中には王都至上主義の考えが浸透しているらしく、田舎者の肩身は狭いという。
「ミラもリンも、すごいな……」
「私たちも、小さいころから魔法は身近にありましたから。王都出身の方々と大きな違いがあるとすれば、幼い頃より命を懸けてきたというところでしょうか」
――命を懸ける。
ミラは当然のように淡々と言ってのけるが、その生活は俺が想像するよりもはるかに厳しいものだろう。
ミラと初めて出会った森で遭遇したシャドウベア。今思い出すだけでも悪寒が走る。
あんなのが日常の中に当たり前に存在する生活など、想像すらしたくない。
「でもシオン君はもっとすごいんです。私たちの村まで功績は届いてきてましたから。きっととんでもない魔力量になりますよ」
「記憶喪失と共に魔力も失ってなけりゃいいんだけどな」
それからしばらくはほかの生徒が測定を行っていたが、そのほとんどが魔力量2000から2500くらいのものだった。
ミラやリンのせいで霞んでいるが、こうしてみると案外カインの奴の魔力量は優秀な部類に入るものだ。
「次、ハルルギ=シオンさん」
ついに俺の名前が呼ばれ、意気揚々を席を立つ。
周りの空気もこれまでとは明らかに違う。期待に胸をわくわくさせているのが痛いほど伝わってくる。
魔力晶に手をかざし、黒板に目を向ける。
黒板には0が表示されていたが、その数字はどんどん大きくなっていく。
3000……5000……10000…………20000。
どんどん数字は伸びていって、最終的には32000で一瞬止まる。
今後に期待が持てそうだ。これからの学院生活を夢想して緊張が綻びそうになったその時、32000あった数値が今度は徐々に下がっていく。
「――は?」
数字はあっという間に0になったかと思えば、次はまた増え始めた。しかし、数字の始まりにはマイナスの記号が付いている。
それからまた30000くらいに行くと上がりがり始め、数字は落ち着くことなくせわしなく変動し続けている。
「こんな反応はみたことがないですねえ」
クロウ先生も目の前で起きていることが初めての出来事らしく、腕組みをしたまま悩ましい顔をしている。
その間にも数値は動き続け、いつしか教室は沈黙に包まれていた。
「測定不能、ですね」
異世界に来て右も左もわからないまま、なんとかアニメの知識をフル稼働して都度対処しているつもりだが、降りかかることは未知のものばかりで流石に疲れてくる。
肩を落としながら自分の席に戻ると、ミラとリンはどういう顔をしていいのかいまだに決めかねているのか気まずそうにしている。
俺もなんと声をかけていい変わらず、無言で席に着く。
「次で最後ですね。アリア=ベンティアさん」
俺の番が過ぎたからか、教室の面々はまるで一仕事終えた後のように集中の糸が切れかけている。
名前を呼ばれたのは青髪の女性だった。俺の席からは後ろ姿しか見えないが、華奢な体つきに蒼天のような髪色。頭の後ろでお団子を作っている。
女の子が魔力晶に手をかざす。黒板には54200と表示された。
「ほーう……魔力量だけでいえば2等星級魔法使いでもおかしくないほどですねえ」
「ご、50000だと……!?」
頬杖をついていたカインも、体を乗り出していた。
あまりに大きい数字と、2等星級という言葉になじみがなくてどれほどすごいのかいまいちわからない。
「なあ、2等星級魔法使いってなんなんだ?」
隣にいた2人に聞くと、リンが自慢げな表情を浮かべ始める。
「魔法師団のメンバーにはそれぞれの実力に見合った6から1の星等級が割り当てられるんだ。一等星級はこの国で最強と認められた7人の人間にしか与えられない特別なもの。その下にいるのが二等星級だよ。つまりは、新入生でありながら、もうすでに戦場に出て戦果をあげるに十二分な魔力量を有してるってことさ!」
魔法師団の中で、最強の七人の次に強い人たちと同じだけの素質を持ってるってことか。
それってかなりすごいことでは……。
魔力量を測り終えた女の子が振り返る。
後ろ姿から勝手に快活な雰囲気を想像していたが、翡翠を薄く溶かしたような瞳は冷ややかで、その表情からは感情が読み取れない。
俺なら思わずガッツポーズでもしてしまいそうなものだが、彼女はぴくりともしていない。
そのまま自分の席に戻っていくとおもいきや、なぜか彼女は徐々にこちらへ歩み寄ってくる。
異様な雰囲気を察して、教室中の視線が彼女に集まる。
彼女は俺の元までやってくると、見下ろしながら確かに言い放った。
「これがアリア・ベンティアだ。勇者なんて、必要ない」




