第15話 魔力測定
寮で一夜を過ごし、いよいよこれから異世界での学院生活が始まる。
底知れぬ不安要素は拭えないが、とりあえずこの学院の敷地内にいれば安全とのこと。今はこの胸の内からあふれ出る高揚感に身をゆだねよう。
支度をして部屋を出ると、見慣れた2人が立っていた。
「なんだよ2人とも」
「1人では不安かとおもって、迎えに来ちゃいました」
「安心してよシオン。今度は僕たちが守ってあげるからね!」
――今度は
俺の記憶の中には一度だって2人を助けた事実はない。
きっとリンの言っていることは、真の勇者に対して向けられるべき言葉だろう。
否定しておきたいところだが、もうそれに意味がないことは分かっている。
真の勇者は死んでしまったんだ。幸い本人は素性を隠してたみたいだし、今はその温情を代わりに引き受けることとしよう。
「ありがとな、2人とも。2人のおかげで、不安な学院生活も楽しみだよ」
俺の言葉に安心したのか、2人は微笑をこぼした。
これでいいのだ。これからは存分に亡き勇者の威を借りることとする。
2人に先導されるように、自分たちの教室に向かう。学院生から向けられる視線の多さには辟易するが、できるだけ表情は崩さないように心がける。
校舎は寮に隣接されていて、渡り廊下でつながっているためすぐに自分たちの教室に到着した。
外からみた教室は元の世界のものとさほど変わりがない。昔テレビでみた大学の広々とした講義室を、高校の教室サイズに縮小させたようなものだ。
懐かしい気持ちになりながら教室の扉を開けると、教室内にいた生徒の視線が一気に集まる。
軽く会釈して席に着こうとしたその時、予想だにしない声が耳朶を打った。
「勇者さま!」「勇者さまおはようございます!」「噂は本当だったんですね!」
思いもよらない反応にどうしていいかわからずミラとリンに助けを求めようと視線を走らせる。
2人はまるで自慢の我が子を後方から眺める親のような、自信に満ち溢れた顔をしている。
「なにをそんな自慢げにしてるんですかね」
「皆、シオン君と同じ教室で学ぶことができるのがうれしいんですよ」
「そうだよ。勇者と共に学院生活をできるなんて誰だって夢にも思わなかったからね」
みな一様に目を輝かせて俺を見ている。居心地の悪さを感じながら自分の席を探していると、因縁の相手と目が合った。
つい昨日、俺にかみついてきたカインが静かに見つめてきている。
しばらく見つめてきたかと思えば、口を少しとがらせながらウインクをかましてきた。
鳥肌が立つのを感じながらすぐに視線を外し、人混みをかき分けて着席すると、同時に教室の扉が開かれた。
「席に着いてください」
やる気をそがれそうになるくらいのけだるげな声が聞こえてきたかと思って入口に目を向けると、男性が立っていた。
栗色の髪を無造作に遊ばせる、いかにもうだつの上がらなさそうだ男だ。濃紺のローブに金の刺繍が光り、深緑の瞳が眼鏡のレンズから教室を一瞥する。集まる視線を気にするようすなど一切なく教壇に立つ。
髪をぼりぼり掻いたり、その歩き方からだらしなさそうな私生活が容易に想像できた。
貴族やいいとこ出の者たちが多いこの学院では異質と取れるその雰囲気に押され、生徒達は大人しく従いあっという間に全員が席についた。
「私はクロウ=ヴェルンといいます。君たちがこの学院を卒業するまでの3年、このクラスを受け持つことになりました。これかよろしくお願いしますねえ。ではさっそくで恐縮ですが、魔力テストを始めるましょう」
本当にさっそくだな。自己紹介もそこそこに、魔力テストときたか。
魔法を使うのにもまず魔力がないことにはどうしようもない。ここで俺の潜在値を明確にできることはありがたい。
「私が名前を呼んだ人は前に来て、この水晶に手をかざしてくださいねえ」
そういってクロウ先生はローブのポケットから水晶を取り出した。
片手でもしっかりつかめてしまうほどの小ささだ。
「なんなのですかこの魔力晶は? そんなおもちゃでアタシの魔力が図れるのかしら?」
頬杖をつきながら不躾にそう言うのはカイン。相変わらずの態度の悪さに嫌気がさすが、筆頭貴族という権力者の家系ということもあり誰もが口を紡いでいる。
もちろん俺もその一人だ。
「ちょうどいい、では前に出て試してみますか、カイン=デールナーさん」
この教室で唯一といっていいかもしれない、カインに物怖じしていない担任。
その態度にどこか安心感を覚えていると、カインが立ち上がった。
教壇の方へとスタスタと歩いていき、水晶に手のひらを載せる。
その瞬間、クロウ先生の背後にある黒板に数字が表示された。
てっきり水晶の中で完結するものだと思っていたばかりに、教室の皆も驚いている。
「この魔力晶は性能はそのままに、小型化したものなんですよ。だから既存なものと違って、投影魔法で水晶の中にあるものを黒板に投影しているのさ」
クロウ先生は黒板の数字が見えやすくするように隅に移動しながら説明する。黒板には3082と表示されている。
「さ、3000!?」
隣でミラとリンが同様の反応を見せている。俺にはこの数字がどのくらい凄いのかまったくわからないが、2人の反応から察するにすごいことなのだろう。
「「低すぎる!!」」
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