第13話 聖儀の徒
練成場での一悶着を終えたあと、じいさんに連れられ学長室へと来ていた。
学長室にはいかにもな文机とソファーがあるが、人は誰もいない。
「学長さんはどこに?」
「ふぉっふぉ、私じゃよ」
そういうと、じいさんの足元に魔法陣が現れた。魔法陣から光が指し、じいさんの見た目がみるみる変わっていく。
さきほどまでよくいるじいさんだったのに……また別のよくいるじいさんへと変化した。
「いやこういう時って普通まったく別の容姿にかわるんじゃないのかよ」
「普通というのがよくわからんが、いろんなじじいの姿の在庫があるぞい」
「いらない情報をどうもありがとう。そんなことはさておいて、さっきのあのオネエ筆頭貴族はなんなんだよ」
「筆頭貴族。この国で王に次ぐ権力を持つとされる一族じゃよ」
王様の次に権力を持つ貴族となると、そう簡単に手を出すこともできない。
もしかしたらさっきの一連のやり取りも問題にさせられるかもな……。
できれば今後は関わり合いになりたくないものだ。
「今後あいつに一生付きまとわれるなんてごめんだよ」
「今後はあのようなことはさせませんぞ。担当教諭が常に目を光らせておるゆえ、安心してくだされ」
「学長のあんたが目を光らせているすぐそばで俺が死にかけたのにか?」
「勇者どのなら、あのくらいの魔法何とでもなると信じておったのでのう」
グサリ。奇跡的に打ち返せたとはいえ、俺にはもうトラウマレベルの攻撃だった。それがこのじいさんには”あの程度”の攻撃らしい。
「いっただろ。俺は記憶喪失になって魔法の使い方もわかってないんだ。あの魔法を打ち返せたのは奇跡といっていい。情けない話だが、守ってもらわないと困るんだ」
「おやおや、記憶喪失は嘘で、自分は勇者ではなかったのでは?」
「そ、それはその……あの時はちょっと混乱してただけさ」
自分でいってて情けないことこの上ない。
しかし今はいち早くこの学院で魔法を学んで、ある程度の実力を身に着けておきたい。
それに、勇者を騙ったとなれば、きっとただでは済まないだろう。
「そうじゃのう。その方が、この世界が壊れずに済む……」
「それっとどういう――」
最後までいいかけたところで、勢いよく部屋の扉が開かれた。
「が、学長! 校門へ来てください! 聖犠の徒を名乗るものが複数人で大暴れしてます」
若い男性が血相変えて入ってくるなり早口で言った。じいさんの方を見ると、やれやれといった様子で、窓の方へと歩いていく。
俺もじいさんについていき窓から外を眺めると、俺たちが入ってきた校門がちょうど正面に見えていて、そこで小さな人だかりができていた。
「困ったもんじゃのう。勇者殿、ついてこられよ」
俺とじいさんの足元に魔法陣が現れ、気が付くと先ほどまで遠くから眺めていたはずの校門のすぐそばへと転移した。
教員らしき人と、いかにも輩っぽい人たちがもめている。
「なにごとじゃ」
「学長。聖犠の徒を名乗るものが勇者を出せと騒いでいるのです」
聖儀の徒というのが何を指しているかはわからないが、どうやらこの輩たちは俺を目当てにやって生きているらしい。
今日はもうすでに輩貴族様に殺されかけてるってのに、うんざりだ。
これだから有名人になんてなるものではない。
「君たち、あとはわしに任せなさい」
じいさんがそういうと、教員たちは安心したように一歩引いた。
輩と俺たちをさえぎるものがなくなり、対面することになる。
「おぬしたち、勇者にあってどうしたいのじゃ」
「なんだ? じじい。俺たちは聖儀の徒だぜ。老い先短いあんたの人生、今終わらせたっていいんだぜ?」
輩たちは大笑いし、完全に舐め切っている。じいさんは特に気にする様子もなく、小さくため息を吐く。
「本物の聖儀の徒もおぬしたちくらい単純な連中じゃと、助かるんだがのう」
「なんだじじい、なめてんのか!」
輩の先頭に立っていた男は手に持っていた等身大ほどある杖の先をじいさんの方へ向ける。
杖の先についている水色の水晶がきらりと輝く。
「焔の意志よ、その熱を持って我が敵を焼き焦がせ! 焔玉!」
水晶の前方に魔法陣が出現する。そこからさっき俺を殺しかけたイケメンオネエよりもう一回り大きい焔玉。
こんなものに直撃しようものなら、死は免れない。
輩は一切の躊躇なく焔玉を放ち、一直線に飛んでくる。
「――デ、デカッ!」
「……大きいのう。まるで風船じゃ」
じいさんは少しの動揺もみせず、眼前まで迫る焔玉に対して、まるでろうそくの火を消すようにフッと息を吐きかけた。
すると先ほどまでメラメラと燃え盛っていた炎の玉は一瞬で掻き消え、視界が良好になる。
「勇者はわしなぞ足元にも及ばないほどに強いぞう。わかったらさっさと帰りなさい。今ならまだ憲兵に突き出すことはしないぞ」
輩はじいさんの言葉に耳を貸すことはなく、かえって闘志を燃やし始めた。
「おいお前ら、やれ!」
輩たちは掛け声にしたがい、杖をこちらに向ける。
じいさんは相変わらずやれやれといった様子で、右手を前方に掲げた。
開いていた手のひらをグッと閉じたその瞬間、輩たちの握っていた杖が粉々に砕け散る。
「もう少し強くないと、聖犠の徒を名乗るには役不足じゃのう」
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