第11話 心機一転
目を覚ますと、高い天井が目に入った。
まだ一日と経っていないのにサナリ村の家が懐かしい。
上体を起こすとベッド横に見知った男、じいさんが座っていた。
「起きられましたか、勇者殿。大丈夫ですかな」
「すみません、取り乱してしまって」
特に話すこともなく言葉に詰まる。どうしてこのじいさんは俺の傍にいるのだろう。
「王よりこれを預かっております。どうぞお受け取りください」
じいさんはそういうと、懐から革袋を取り出した。
俺の目の前に差し出すものだから受け取ると、思ったより重たくて落としそうになる。
おそるおそる革袋の紐をほどいてみると、中には金色に輝くメダルがぎっしりと詰められていた。
「これは?」
「金貨でございます。今までの功績にとても見合うものではございませんが、一時金としてお受け取りくださいとのことです。何か困り事があればいつでも申してくれとも」
一国の王がただの子どもをここまで気に掛けるか。
……いや、この世界ではもうただの子どもではなかったな。
とりあえずこの金貨があれば、しばらくは何もせずとも衣食住は確保できそうだ。
今は、どこか宿をかりてしばらく休みたい。
「じいさん、頭巾つきのマントをもらえないか? それと、荷物を入れる袋もあれば欲しい。お金は払うよ」
「……姿をお隠しになられるのですね。わかりました、マントと麻袋を用意いたしましょう」
あれ、そういえば……。
「そういえば、マントをつけていたはずだが」
「意識を失っていたのです、自動的にそのペンダントの中へと戻ったのでしょう。玉座の間に合った剣もなくなっておりましたよ」
「そうか……。それにしても、これからどうしたもんかな」
金貨を大量にもらったとはいえいずれは底を尽きる。顔を市民に見られた以上、どんな仕事をしようにもきっとなにかしらの弊害があることは火を見るより明らかだ。
「じいさん、この国で何かおすすめの仕事ってあるか? できれば楽なもので」
「ふむ……。お言葉ですが勇者殿、仕事である以上、楽なものはなかなかございませぬ。仕事を選ぶときは、向いているものを探すのがおすすめですぞ」
それが分かったら苦労しないんだよ!
向き不向きも結局はやってみてからしかわからないじゃないか。
「あなたに向いてるものならもうわかっておられるではないですか」
そういうとじいさんはにやりと笑う。
「王立魔法学院に入学してみてはいかがですか? あそこには学院寮もあり三食ただでつくうえに、少しですが給金もございますぞ」
なんだって? それは聞き捨てならない。
魔法を学びたいとは思っていたし、唯一の知り合いの2人も入学する。
それになんといっても、この世界のことを何も知らない俺にとって食事と住居の保証は生命線といってもいいだろう。
学生という立場であればそれほど危険を伴う実習もないはずだ。
こんな好待遇な環境、入学待ったなしじゃないか!
「じいさん、俺入学する!」
「それはそれは。勇者殿であれば入学試験は免除、転入という形で手続きをさせておきましょう」
魔法学院で魔法を学びながら、のんべんだらり。もしも魔族討伐に向かわされそうになるものなら、記憶障害を理由にのらりくらり躱すもよし。
幸いにも真の勇者は過去に幾度とこの国を救っているみたいだし、その時の恩を返してもらおうじゃないか。
「よーし、そうと決まれば、さっそく入学の準備だ」
「では、新しいマントは必要ございませんね」
もちろん、と意気揚々に返事を返すと、じいさんは満足げにうなずいていた。
※
俺はじいさんに頼みこみ、王立魔法学院に案内してもらうことにした。どうやら入学試験というのは、その場で合否が分かるらしく、入学式は明日ということだ。
いきなり明日入学式に行くのも騒ぎになるだろうし、今のうちから顔を出しておいてある程度は慣れてもらおう。
王立魔法学院は城から歩いて5分とかからない場所にあり、道中またしても市民から祈られるわ――当然のことなのだが――感謝されるわで一苦労したけれど、あっという間に到着した。
ここもレンガ造りの塀で囲まれていて、正面には厳かな門がある。門の近くにはローブに身を包む男が2人たっていて、じいさんが話を通すとすぐに開けてくれた。
「今の時間だとおそらく、第二演習場あたりかのう」
じいさんは1人ごとのようにつぶやくと、方向を変えて再び歩き出した。
思っていた以上に広大な土地に辟易としながらもついていくと、突如爆発音のようなものが聞こえてきた
「――! ま、まさか魔族が」
「違いますぞ。今は第二試験の魔力試験を行っているところです」
爆発音が鳴った方へ近づくと、テニスコート2つを縦に並べたくらいの演習場が目に入った。
片方には案山子のようなものがいくつも並んでおり、もう片方には試験者と思われる学生たちがいた。
それぞれ案山子と直線上になるように並ぶと
「焔の意志よ、その熱を持って我が敵を焼き焦がせ! 焔玉!」
学生たちの手のひらから火球が放たれ案山子の方へと向かう。
そこまでの動作はみな同じだったが、火球が宙で霧散するものや、コントロールを失い明後日の方向へ飛んでいくもの、そもそも火球すらで出ない者もいた。
それらを近くで見ていた試験官らしき大人は淡々と「2番、13番不合格」と試験結果を言い渡していく。
「以上で526回王立魔法学園入学試験を終了とする。私から不合格と言われなかったものはこれから入学式の説明がある。荷物をまとめて10分後、魔法練成場にくるように」
これから始まると思っていた試験はどうやら終盤だったらしく、あっさりと終わりをつげる。
せっかくなら俺も試験を受けてみたかったが、試験官はそそくさとその場を後にしていた。
不合格になったものは城の出口の方へととぼとぼ帰り、残った者たちからは安堵から気の抜けたような声が聞こえてきてその温度差に風を引きそうだ。
じいさんと共に合格者たちの元へ向かうと、集団の中に見覚えのある顔を見つけた。
「ミラ! リン! よかった、合格したんだな」
2人を呼ぶと、集団の目が一気にこっちを向いた。それからはいつも通りの反応だ。
有名人登場といった様子でみな慌てふためいている。
「シオン君! どうしてここに?」
「もしかしてシオンも入学する気になったとか?」
「実はまあ、そんなところなんだ」
2人は思いのほか喜んでくれたみたいで、ミラに至ってはハグまでしてきた。
「ミ、ミラ!?」
「あ、ご、ごめんなさい! 嬉しくて、つい……。でも、これからも一緒にいられるんですね」
「あ、ああ。そうなるな」
直視できない。今もまだ、体に胸の感触が残っている。
視線をどこに置いていいかわからずへどもどしていると、リンがにやにやとした表情で俺を見ていた。
「お、俺はこれから学長のところへ手続きにいかなきゃだから、またあとでな」
どうもいたたまれなくなって逃げるように背を向けたその時、
「待ちなさい、勇者」
背後から呼び止められたその声は、この世界に来て聞いたそのどれよりも棘のあるような声色だった。
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