7.事後
混沌と化したパーティー会場で、おおかたの意識が戻って、睦はようやく一息ついた。
片付けが終わった佚世と脳之輔が睦を労い、睦は可愛い顔でドヤ顔をする。
「高値で売れそう」
「自撮りしてください」
「ツーショットがいいんじゃない?」
「なんで乗り気なんですか?」
なんて冗談を言った直後、佚世の顔に飛び蹴りが入った。
当たり前のようにそうやって登場した恋弥は、睦を見る。
「ボスが呼んでる」
「ねーッなんで蹴られたの私ッ!?」
「あ? 邪魔だったからだよ」
「反抗期かッ!?」
「うるせぇな」
佚世の顔面に足を置いて黙らせた恋弥は睦を連れてボスのところに行き、佚世は拗ねながら立ち上がった。
脳之輔が背を叩いてくるので、佚世は顔を払う。
青紫に変色した半顔は途端に治って、吸血鬼や天使なんてそうそう見る機会のない、しかも怪我が治る瞬間なんて、数秒。
それを初めて見た観衆は少しざわめいた。
「もー、反抗期にも程がある」
「イツ君って反抗期あったの?」
「反抗する人がいませんでしたし?」
「えーぼっち?」
「……親ねぇ……」
うーん、吸血鬼産んだって、処刑された気するけど。なんせ乳幼児の頃、覚えてない。
「……うぅん……?」
「イツ君って幼少期の記憶あるの?」
「ありますよ。逆に成長してからの方が記憶は少ないです。暇な時間過ごしてましたし」
「……何年前に生まれたの?」
「中央政府ができるずっと前」
「ジジイ!」
倒れた脳之輔を無視して、睦の後を追いかける。
「睦君」
「あ佚世さん、トワイライトが謝礼くれるらしいです」
「よし搾り取ろう」
「はい。先生どうしたんですか?」
「さぁ。死んだんじゃない?」
「人間で先生ほどしぶとい人もいませんよ」
「まそれもそうだけど」
佚世に蹴り倒された脳之輔が起きると、管理人が寄ってきた。
「大丈夫ですか」
「吸血鬼怖い」
「自業自得としか言えませんが」
「なんの用?」
「犯人探しの依頼です」
「百万」
「払いますよ」
「イツくーん!」
戻ってきた佚世に脳之輔が犯人を聞くと、佚世は首を傾げた。
「睦君なんか言ってたね」
「二つのグループがいるなって。一つは俺になんか薬盛ろうとしてました。けど、うち二人倒れたので毒は別の組織です。ボーイも飲むんだったら調理師よりも上の指示……会場のセッティング係とかいるんですか?」
「しーらない。睦君ボーイの話聞かせて」
「はい?」
二人が喋っている間に、脳之輔は何かを考えている管理人を見た。
「いるの?」
「調べてみます。雨々驟!」
「はい!?」
佚世がどこかに行ってしまって、脳之輔も管理人と一緒にいるので睦一人だと危ないということで、別室で待つことになった。
念の為兼暇潰しの恋弥。二人とも本を読んで一言も話していないが。
「おじゃましまーす」
「めちゃ静か」
「れんや〜? 遊びに来たー」
トワイライト一班の四人がやってきて、その中の団達気が恋弥に飛び付いた。
「な〜これクリアして!」
後ろからゲーム画面のHgを差し出され、読書中の恋弥は顔を逸らしながら鬱陶しがる。
「俺下手じゃないですか……! ボスにでも頼んでくださいよ……」
「ボスはもっと下手!」
「失礼なことを堂々と」
「じゃあ睦にでもやらせたらいいでしょ……! 俺本読んでるんです」
「睦君!」
ライムに案内され、一つ下の階にいる律の部屋に向かう。
睦から色々を聞いた佚世はおおよその目処を立てて律に問い詰めに来たところ。
「こちらです」
ノックもなしに扉を開けて、中に入ると律が大きな寝床でうずくまっていた。
スイハ所有のホテル、ダブルのキングサイズ寝床だ。
普段まとめている紫味のある白い長い髪を解いて、顔色は到底いいとは言えないが。
「律」
「……佚世君、お見舞い?」
「まーそんな感じ。体調どう?」
「最悪。死期が近付いたかなって」
「噛まないよ」
「いじわるぅ……」
律のそばに座ると足を組み、ライムに顔を拭かれる律を見下ろす。
「よくもまぁうちの子追っかけ回してくれたね。私のいる場所で手出せると思ったの?」
「先生がねぇ、佚世君と帝翔には手出すなって言うの……。あの子かわいいねぇ。佚世君が来ないならあの子でもいいかなって……見付けて、佚世君と仲良くなる前にって、動いたんだよ……?」
熱で呂律が甘くなり、虚ろな目で佚世を見上げた。
「次手出そうとするなら社長もライムもお前の玩具も殺すからね」
「いじわるぅ……!」
「意地悪じゃないの」
「じゃあ三人でピステル来てよぅ……! せんせぇも佚世くんほしいって言ってるのに……」
「じゃあね」
「帝翔とは仲良くするのにっ!」
「ちょっと律」
「お前の加虐性欲がなくなったら考えてやるよ」
佚世が睦と恋弥のいるはずの個室に行くと、中には思ったよりいっぱいいた。
子供たちと、一班と脳之輔と管理人と雨々驟と。そこまで広いってわけじゃないのに。
だんちが睦の後ろから睦の操作するHgを覗いて、日幻兎も興味あるのか横にいる。
雨地科は恋弥とともに本を読んで、氷海獺ことひのは脳之輔と管理人と話している。
「賑やか……」
「おかえりイツ君。どう?」
「軽く脅してきました。もう大丈夫だと思いたいです」
「政府に保護されてないデメリットだねぇ」
「問題ないと思います。ライムさんがいたので社長にも回るでしょうし」
佚世は雨地科の隣に座ると足を組んだ。
ちょっと疲れた。朝から忙しなさすぎた。
「……倒れた人らどうなったの?」
「全員起きて発熱のあった人は下の部屋で寝てます。毒は数値的には大丈夫でした」
「あとで三組織の医者に宛てる手紙書かないと」
「えー面倒臭い。それ薬欄私でしょ?」
「じゃいっか」
「特段重役もいませんでしたし。全員生きてんなら上出来ですよ。脳死寸前もいたのに」
「いやぁあれはギリギリだったねぇ。今日のMVP睦君」
「人間って思ったよりしぶといんだなって」
「毎日人の命預かってるでしょ」
「あそこに来るのってだいたい死にかけだものねぇ。もしかしたら生きるかもしれないってあんまりいないですよ」
佚世の言葉にうんうんと頷いた睦はだんちにHgを返した。
ずっとゲームをやらされていて、全然本が読めなかった。
表紙を見て、最後の方だけでも読もうかなと迷っていると佚世と目が合う。
「それ最後相棒死ぬよ」
佚世は殴りかかってくる睦から頭を抱え、興味がなくなった睦は怒りながら本を片付けた。
「そういえばイツ君、あんだけあった本どこやったの?」
「え、全部トワイライトにありますけど」
「持ってきてないの!?」
「だって叩き出されたんですもん! 吸血鬼じゃなきゃ死んでましたよ」
「古書だけでも取り返してよー」
「何種類かは政府に研究だっつって奪われてるんで数百年もしたら返ってくるかもしれませんね」
「私生きてないし!」
「しぶとく生きてください」
佚世が脳之輔に足蹴りにされていると、面白そうな本がなくて諦めた睦がやってきた。
「佚世さんそんなに本持ってるんですか?」
「まぁぼちぼち……」
「世界最古の本もこの子持ってるんだよ。それは政府の中央図書館にあるんだけど、好きに読めるの唯一この子」
「長く生きてるだけありますね」
「ほら先生! 長寿はこうやって褒めるの!」
「ジジイ」
佚世と脳之輔が喧嘩を初め、睦はそれをそばで静観する。
皆慌てているが、この二人の喧嘩止めれる人なんていないし。
「むむ睦君……! 睦君止めて……! 世界が終わるよ……!」
「世界が終わっても吸血鬼は生き続けますかね」
「そうじゃないッ!」
「佚世さん! 吸血鬼って無酸素でも生きますか!」
「睦君、無酸素で生きれるのはクマムシと並ぶ先生ぐらいだよ」
脳之輔が佚世の頭を殴って、喧嘩は一旦は落ち着いた。ひっどい音鳴りましたけど。
「吸血鬼の不老不死と超回復は細胞が働いてこそだよ」
「じゃあ十分間潜水したら死にますか?」
「えなに怖い」
「睦君これの頭バスタブに突っ込んでみようか」
「はい」
「はいじゃないの。私が生きてる間は死にませんから」
「意味分かんない」
「細胞が一気に死滅しない限り酸素のある細胞が酸素のない細胞を酸素のある状態に治しますから」
「それ治すなの?」
「息するのは当たり前でしょう?」
「やったことあるんですか?」
「五十年だけねぇ。海で寝てみたけど死ななかったよ。海中って暗いし寒いし地震が酷いんだよね。あと肉食魚怖い」
「佚世さんは死にたがりですか?」
「暇なんだよ!」
佚世が文句を垂れていると、部屋にノックが鳴った。
「恋弥くーん」
「はいボス」
「また陽泰君見といて」
「はい」
「ねーッ私の本返して!?」
「鍵を先代が持ってるので……」
「ボスは誰だよ」
「先代です」
口を挟んだ管理人は呆れて、恋弥は陽泰の手を引くと日幻兎の隣に座らせた。
だんちと雨地科に可愛がられて嬉しそう。
「……ボスの子供って天使だったよね」
「あん?」
「別に。後継者にはなれないなって」
陽泰は混乱して、恋弥と脳之輔で佚世の頭を殴った。




