表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正統聖  作者: 戯伽
22/22

22.なにか

「睦、おはよう」

「おはよう」

「……仕事? 学校は?」

「休んだ」

「何時に帰ってくる?」

「三つまとめて入ってるから夜遅いよ」

「……わかった」

「じゃあね」






 昨日の夜に帰ってこなくて、帰ってきたのは今日の明け方前の三時頃。



 学生が出るよりも早い朝六時から仕事に行った睦を見送って、眉を寄せた。














 その日の夜はまた陽泰がロビーに居座って、けれど恋弥は付き合ってくれず、だんちと一緒。



 夜中の二時。しゃがんだまま寝てしまった陽泰を抱っこしていただんちがロビーに立っていると、睦が帰ってきた。




「おかえり」

「……陽泰貰いますね」

「大丈夫か? 疲れてるだろ」

「平気です」



 睦は不安そうに眉尻を下げるだんちから陽泰を受け取ると、陽泰の部屋に戻った。














 ハッと飛び起きて、自分が寝床(ベッド)にいることを確認する。


 ロビーで団達気と一緒に睦を待っていたはずなのに、何故だと思ってHgを探すついでに枕元を見下ろした。







 扉が開いて、部屋に恋弥が入ってきた。




「陽泰……うわどうした!?」




 天蓋の閉まっていない寝床(ベッド)で大粒の涙を流す陽泰に驚きと混乱のまま駆け寄って、寝床(ベッド)に座ると頭を撫でた。




 どうしたと声を掛ける前に、陽泰が持っていた紙に気が付く。



 それを見ると、睦の字で『おはよう 先に寝てていいよ。 おやすみ』と書かれていた。








 あの日、あの集会の後から、睦は目に見えて忙しくなった。


 幹部よりも一班よりも、休む暇が無いほどに。

 仕事はそんなに溢れ返っていないはずで、皆一日一回は顔を見る程度には本部で休めているのに、睦だけだ。朝から真夜中まで仕事だなんて。

 それもたった三件に一日使うなど。





「今日帰ってきたら話しよう。陽泰も睦が心配だもんな。……俺も心配だから」









 けれど睦はたまたまその日は帰ってこなくて、恋弥も仕事や学校があるので四六時中陽泰とは一緒にいれなくて。





 少しの期間の過度なストレスのせいで、陽泰が不調を訴えた。



 熱も頭痛も無いけれど、明らかなる不調。


 顔色も悪いし冷や汗もかいて、すぐに治るものの動悸や、何よりちょっとしたことですぐ泣くようになってしまって。




 ボスも恋弥も陽泰も、一班も幹部も睦と連絡が付かなくて。

 既読は付いているので見ているのは見ているのだろうが、トワイライトが嫌になったのか忙しいのを言い訳にしているのか。







 昨日送ったメールの既読が付いているのを確認して、とりあえず陽泰が体調を崩したと送った。

 仕事はいいから、ボスには俺から言うから帰ってきてくれと。




「恋弥さん」

「どうした」




 陽泰に呼ばれて、ソファから寝床(ベッド)に移動した。



 傍に座って、よしよしと抱き締める。



「睦は帰ってきませんか」

「連絡入れたから、帰ってくると思う。弟を心配してないわけじゃないだろうから」

「……睦に嫌われたらどうしようって、怖いです」

「陽泰嫌うほどはひねくれてないだろ。大丈夫」










 昼過ぎ、部屋にノックが鳴った。



「はい」




 ひょこっと顔を覗かせたのは、トワイライト先代ボス。


 先代であり、陽泰の実の父であり、佚世の元上司である。




「よう君来たよ」

「……呼んだんですか?」

「いや?」

「睦君に話をしに来たんだけどね。よう君に会わないのは違うでしょ?」



 恋弥は天蓋の中に入ってきた先代を見ると寝床(ベッド)から立ち上がって、先代は恋弥が座っていたところに座ると陽泰を抱き締めた。



 いつもは抱き締めるどころか頭を撫でるのも手を繋ぐのも、触るのすら拒否なのに、今日は気分も相まってか少しおとなしい。




「……暑い邪魔」

「ふふ」

「もうボスには会われましたか?」

「今会ってきたとこ。……睦君は帰ってきそう?」

「たぶん。連絡入れたので流石に帰ってくると思います」

「じゃあここで待っとこうかな」




 陽泰は全身が折れそうなほど抱き締めてくる先代を嫌がって、恋弥は仲良いなぁと。











 それから二時間ほどして、睦は帰ってきた。



「あおかえり」

「睦!」

「陽泰、寝てなくて平気?」

「うん。……おかえり」



 陽泰の頭を撫でた睦は汚れているからとくっ付くのを拒否して、買ってきたものを陽泰に渡した。



「ちゃんと食べて休むんだよ」

「睦ご飯は?」

「俺はいいよ。ほら、寝床(ベッド)戻って」

「今日はもう終わり?」

「どうかな。しばらくはいれると思うよ」



 陽泰は睦の手を掴んで、恋弥に買い物袋を渡して、先代を天蓋から追い出した。




「おかえり」

「先代来てたんだね」

「お前に会いに来たんだと」

「俺?」



 寝床(ベッド)に座る陽泰に腕を掴まれ動けない睦が振り返ると、先代はにこっと笑った。




「最近ずいぶん忙しいみたいだね」

「仕事が立て込んでいて」

「働くのはいいけど、あまり無理しないように。君までいなくなったら世界は崩壊しかねない」

「はい」

「いっぱい休んで」

「うん。……ボスに声だけかけてくる」

「俺行こうか?」

「いいよ。陽泰見てて」






 睦がいなくなると、陽泰は睦が帰ってきてくれたゼリーやフルーツを食べて上機嫌のまま眠り始めた。






 小一時間すると風呂に入った睦が戻ってきて、髪も乾かさないままコーヒーを淹れ始めた。




「ボスとなんか話したか」

「特に? なんか言うことあった?」

「仕事量調整してもらうとか」

「別に疲れも無いし大丈夫だよ。廃教会で培った体力は伊達じゃないし」

「疲れとかいう問題じゃないだろ」

「……あ学校の話? 別に表世界に出るわけでもないし。大丈夫だよ」




 カウンターにもたれて、コーヒーを飲みながらHgを見下ろした。




「もう少し休む時間取れ。まともに帰ってきてねぇし」

「……もう少しで落ち着くよ。こんな忙しいの今だけ」

「なんの仕事だよ? んな大きく動いてる組織も無いだろ」

「……そうだね」




 コーヒーを飲み終わると、空のコップをカウンターに置いた。



「なんかあったらまた呼んで」

「待て睦」



 睦は恋弥の制止も聞かず逃げるように部屋から出て行って、腕を掴み損ねた恋弥は閉められた扉を殴った。




 クソ。















 翌朝になると陽泰の顔色が戻って、寝床(ベッド)に座った睦にくっ付く。



 先代は昨日泊まって、今は睦にくっ付く陽泰にしがみついている。






「陽泰、朝飯持ってきたぞ」

「睦と食べます」

「こいつ朝食わねぇよ?」

「食べて」

「無茶言うな……」

「睦前より痩せてる」

「筋力は付いてるよ。男だから筋力あれば大丈夫」

「でも痩せてる」

「健康的だから大丈夫。心配しないで」




 不服そうなまま黙った陽泰の頭を撫で、陽泰は先代を足蹴りにすると机に移動した。




「いっぱい食べるんだよ」

「うん」










 それほど日も経たないうちに、陽泰の体調不良が効いたのか『もう少しで落ち着く』がやってきたのか睦は昼間は本部にいるようになって、夜はいつも出掛けるけれど、学校にも陽泰にも時間を割くようになった。





 夜はおやすみまで言ってくれるし、朝は時々いないけどおはようの時間のうちに帰ってくるし。



 寂しさも嫌な気持ちも無くて、順調な日々。








 ある日部屋に帰ろうとしたら睦の部屋から喧騒が聞こえてきて、自室に入ろうとしていた陽泰は睦の部屋を覗いた。




 直後、先代が睦の頬を叩いた。




 恋弥は首をすくませ、睦は抵抗する素振りが無い。



「父さん」

「よッ……よう……」

「陽泰、部屋帰ってて」

「何してるの?」

「恋弥。陽泰追い出して」



 睦の冷たい視線に目を丸くした陽泰は足がすくんで、抵抗する間もなく恋弥に腕を引かれた。



「恋弥さん離してください。止めないと、睦が」

「睦のためだから。ちょっとだけ、我慢しよう」




 陽泰の部屋に入った恋弥は混乱する陽泰を抱き寄せて、只事じゃないことは理解した陽泰は、恐怖と不安で震える手で恋弥の背を掴んだ。







 睦のためだ。


 家族がいなくなって、責任に押し潰されそうになって、世界の負の感情に晒されて、狂ってしまいそうな睦を直すための話。



 あのままじゃ壊れてしまうから、恋弥も心配しているから。










 大きな音が数度聞こえたあと扉が強く閉まる音がして、先代の怒号が廊下にまで響いた。






「……恋弥君、よう君」

「先代、睦は?」

「またあとで落ち着いてから、恋弥君とようも交えて話そう」

「……はい」

「一班も、呼べるなら呼んでくれるかい」

「はい」












 いきなり睦が入ってきたボスはびっくりして、目を丸くした。



 鍵をかけて、扉の前にしゃがみこんだ睦の傍に寄る。



「睦君、大丈夫? どうしたの」

「……ボス」

「よしよし。……ソファ座ろう。おいで」




 酷い顔の睦の頬を撫でると、ボスはホットコーヒーを淹れた。



 睦にも渡すと、睦はそれを受け取る。




「なにかあったの?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ