20.歯車
無事リストにあった全ての買い物が終わって、銃を買った頃から睦が仄暗い顔してるけど。
「帰ろうか。睦君も疲れたみたいだし」
「睦、大丈夫か?」
「お前単独も事務もやったことねぇだろ」
「性根が悪いのは分かってるよ」
「おだてるだけおだてやがって」
「後悔してるよ……!」
睦はボスの肩に顔を埋め、ボスはよしよしと慰める。
ボスの隣に座った恋弥は呆れて溜め息をついて、まぁ交流会なんて面倒臭いことやりたくない幹部達は睦に内心拍手を送りながら、三人の板挟みから救ってくれた巻積は感謝しながら。
「さっさと帰ろう」
恋弥が食堂にて陽泰の隣で本を読んでいると、夕食の時間になって皆がやってきた。
「恋弥、睦は?」
「さぁ。見てませんか?」
「あぁ……巻積、知ってるか?」
「帰ってきてからは見てませんね。部屋は?」
「いませんでした」
恋弥は不機嫌になっていく陽泰の頭を撫でて、本に栞を挟んで閉じた。
「陽泰はどうした」
「放置されて怒ってるんです」
「寂しがりだな!」
鞘の先で顔面を突かれ、腕を掴み損ねた恋弥も庇うのが間に合わなかった巻積も、揃って顔を押さえた。酷い音鳴った。
陽泰は本を持つと一人で食堂を出て行って、あまりの痛みに放心した風突は、ぼろっと涙を零した。
「騒がしいねぇ」
「何かあったんですかね」
夕食を食べ終わった睦が肘を突きながらコーヒーを飲んだ時、ノックなのかぶつかったのかよく分からない音の次に扉が開いた。
「ボスッむッ……いたッ! えなんで!?」
「どうしたの巻積君」
「なん、えっ、ボス、睦と……」
「状況報告をしたまえ」
「はい。えと、医務室長来てッ!」
睦は巻積に半ば引きずられ、あまりにも慌てふためくのでボスも心配で見に行くと、医務室には前面血まみれの風突が座っていた。
皆が皆ぽろぽろ泣きながら座る風突を心配して、医務室の中に叩き込まれた睦もびっくりする。
「うわぁ」
「どうしたの風突君……」
「ボス……」
「上向かないで下向いててください。鼻押さえて」
「それが、鼻が痛いって言って押さえられなくて」
「なんで鼻血なんか」
「陽泰が刀で殴った」
上着を脱いで椅子にかかっていた白衣をまとった睦は恋弥のその端的な説明にあからさまに面倒臭そうな顔をして、冷凍庫を開けると氷嚢を作った。
「これ顔に当ててください。何分ぐらい前から出てますか」
「五十分ぐらいに殴られて一回止まったんだけど、それからすぐにくしゃみしたら止まらんくなった」
まだ十分も経ってないか。
薬を染み込ませたガーゼを鼻に詰め、血圧を測る。
「……止まらない……」
「駄目ですね。バルーンに変えましょうか。血口に回ってます?」
「うん」
「吐き出してくださいね。気持ち悪さは?」
「へいき……」
睦は邪魔な下っ端達を追い出して、止血をする。
定期的に血を吐いてるのを見たら、止まらないか。
「……止まりませんね。焼きましょうか」
「や?」
またガーゼを突っ込まれた風突は、睦の焼くという単語に混乱して巻積やボスや恋弥を見上げ、一人だけの恐怖で混乱する。
「なんだ焼くって……!?」
「焼灼止血ですよ。興奮しないでください悪化するので」
「しょーしゃく……!?」
そのうち睦は風突を小間内に引きずり込むと、風突の泣き叫ぶ声と共に傷口を焼いた。
すぐに出てきた風突は大泣きして、巻積達に泣き付くが、絶対触られたくない皆は医務室を出て扉を閉める。
「裏切り者ォッ! 地の底まで引きずられててでも呪うからなッ」
「安静にしててください」
「むつぅ……!」
「座っててください。また出血しますよ」
「あぅ……」
「……誰か着替え持ってきてくれません?」
「あ、私行ってきます! あの、お部屋の場所だけ……」
「教えるわ。付いてこい」
巻積と二班の女の子が行ってくれて、扉を開けた睦は腕を組んだ。
「で当事者の陽泰は?」
「部屋にいるけど」
「なんでいないの?」
「帰ったから」
「人に怪我させといて?」
「お前が放置した結果だろ」
まぁ、そうか。そんなもんか。
「……はぁ。ボスは先に戻っててください。皆も帰っていいよ。鼻血ぐらいじゃそうそう死なないから」
「よろしくね」
「はい」
陽泰に対する『可愛がり』と『甘やかし』の区別が付いていないのは分かったが、たぶん睦が何言ってもお前のせいだと言われる気がするので。
今度、団達気に会って、覚えていたら恋弥か陽泰に注意してもらおう。
そうか、トワイライトに入ったんだから、陽泰の面倒も見ないといけないのか。
風突が帰った後にカルテの処理をして、事務仕事を終わらせてから部屋に帰った。
頬をつままれて、目が覚めた。
「朝ッ! 起きろ置いてくぞ」
「ゔー……」
顔が浮くほどつねっても起きない睦を見下ろして、叩き起すのも可哀想だし。諦めるとさっさと出た。
「お待たせ。睦起きねぇわ」
「そうですか」
「帰りになんか美味いもん食おう。お土産も買ってな」
「はい」
と思って、学校から帰ってきた夕方。睦はまだ眠っていた。
「いつまで寝てんだお前……」
「恋弥さん、寝かせときましょう? もしかしたら熱出る前兆かもしれません」
陽泰の言葉に目を丸くした恋弥は睦を見下ろして、念の為額に手を当てた。
特に、発熱は無い。
「眠くなるもん?」
「分からないです。でも天使に異常が現れるのは唯一熱の時だけなので、最近忙しいみたいですし」
「……夜には起きるかな。待っとくか」
「はい」
んで、結局翌朝も起きず。
学校から帰ってきたら普通に部屋で本を読んでいた。
「おかえり」
「ただいま。体調大丈夫か?」
「うん。眠かっただけだし」
「睦……」
「おかえり。心配かけてごめんね」
荷物を床に捨てて駆け寄ってきた陽泰の頭を撫でると、陽泰は睦にくっ付いて、隣に座った。
「着替えといで。飲み物いれるよ。何がいい?」
「コーヒー。アイス」
「分かった」
久しぶりに三人で机を囲んで、陽泰は睦にくっ付いて、睦は陽泰の頭を撫でる。
「今日は仕事は?」
「無いよ。今週は休めってさ」
「そっか。……休めよ?」
「最近休んでばっかだけどね」
「じゃもっと陽泰に時間割くんだな」
「陽泰がいなくなるんでしょ〜」
弟を突き飛ばして腕の中に抱える睦に呆れながら、嬉しそうに怒る陽泰を見下ろしながら。
恋弥がホットコーヒーを飲んでいると、部屋にノックが鳴った。
「はーい」
「睦君? 少しいい?」
「なんですか?」
扉を開けるとボスが立っていて、恋弥は刀を掴もうとする陽泰を押さえ付ける。
「体調どう?」
「治りました」
「そう。でもまだ悪いってことにしといてくれない? 交流会それで断りたいの。あの人達睦君さえいれば他はどうでもいいから」
「分かりました。連絡入れときます」
「ごめんね、お願いします」
「はい」




