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正統聖  作者: 戯伽
17/22

17.休み

 五月の初め、学生は祝日の連なりに身を休め、大人は普段いない子供達の世話に翻弄される頃。





 陽泰から一日仕事禁止と言われたので、医務室も開けず。



 そもそも今のトワイライトは自ら吹っかけに行くスタイルじゃないので、患者量もかなりマシな方だ。まぁ吹っかけられる数は尋常じゃないが、大抵無傷で帰ってくる。








「睦君、ここにいたの」

「ボス」

「今から一件行ってくれないかな。一班と合同で」

「陽泰から一日休みと言われてるんです」

「明日の仕事他の子に回すよ。今日だけ、お願いします」

「分かりました」





 睦は立ち上がると、スーツの汚れを払ってから部屋を出て行った。











「お待たせしました」

「おう、急にごめんな」

「いえ。……詳細も何も聞いてないんですが、なんの仕事ですか?」

「密輸取引に思ったよりの相手が出てきてな。当初の予定では下請けを殺して終わりのつもりだったんだが、相手が相手だ。船ごと沈める」

「相手は?」

「イノンダイ」







 世界五大組織は法を司る中央政府、世界の闇たるトワイライト、最大勢力と呼ばれるスイハ、世界の市場を牛耳るピステル、そして表と裏を繋ぎ隔てる絶対中立の廃教会で成り立っていた。



 裏世界は闇の御三家というブランドがあるのでその他が霞みやすいが、イノンダイ。御三家に並ばずとも劣らず、まだまだ若いスイハが小さかった頃はトワイライトに並ぶと言われた準大規模組織。



 大規模組織と呼ばれる組織が政府、トワイライト、スイハ、ピステルのみなので、イノンダイも相当な力を誇る闇組織だ。




 そして、その組織の(タチ)の性根の悪いこと。






「先代頭領がうちのボス、先代な。と仲が良かったからその代まではマシだったんだけどな。互いに先代が退いて、しかもうちは無関係だったボスが跡を継いだから。縁も切れて、オマケに今の頭領クッソ性格悪いんだよ」

「そんなにですか?」

「弱い組織いじめるわ他組織に他組織売るわ薬ばら撒くわ、やりたい放題なんだよ。御三家以外の組織も、表世界にまで迷惑がかかってる。……うちは情勢守るためにも政府と結託してんだ」


 政府ができない武力行使の抑圧はトワイライトの役目だと言った団達気(だんたっき)の言葉に頷くと、車に乗った睦の隣に日幻兎(にげんと)が座った。




 普段、佚世以外の誰にも寄らず喋らず反応せずの日幻兎の行動に一班は目を丸くして、睦は手を取られるがままに日幻兎の頭に手を乗せると、よしよしと撫でた。




「お気に入り認定されそうだな」

「日幻兎さん髪の毛さらさら」



 日幻兎の頭を嬉々として撫でる睦を、日幻兎はどうやら気に入ったようで。

 膝に寝転がると眠り始めた。



「睦指揮官に欲しいな〜! フルグといい勝負だ。うーん」

「キャリア積めばストレートでフルグ弾き飛ばせるだろ。頑張れよ新人!」

「え、あ、はは……」
















 特に苦労することも無く殲滅して、イノンダイとは喧嘩になると厄介ということで加減したが。



 積荷を確認して、箱を開けた。




「燃やしたら厄介そうですねぇ。沈めるわけにもいきませんし、政府に引き渡せますか?」

「呼ぶか〜」




 だんちは本部の部下に連絡を取って、睦は手を差し出してくる雨地科を横目に船から降りた。



「先車戻ってていいよ。冷蔵庫の中に飲み物とかも入ってるから」

「別にまだ動けますよ」

「今日休みの予定だったんでしょ。働かせちゃった分しっかり休んで!」

「でも明日も休みです」

「今日はもう働いたでしょ〜!」




 真面目すぎるというか、仕事に生きすぎている睦を車に押し込むと日幻兎も滑り込んで、二人を車に閉じ込めた。












 明日も休みなのに何もしてないと不安になっていると、うるさいと怒られて、夜まで四人に振り回された。


 買い物に行って買い食いして銃見て野良猫と戯れて、買い物買い物買い物。買い物の八割は雨地科の要望。皆それに従うしかない。だって運転するのが雨地科だもの。




 服や靴やアクセサリーやらを買い漁って、いっぱいいっぱい買い与えられて。

 ひのが言うには、ただの過度な可愛がりらしいが。




 うさぎ以外の四人で雨地科の山のような荷物を持って本部に帰ると、本部のロビーには陽泰が立っていた。傍には恋弥がしゃがんでうたた寝をしている。





「……買い物?」

「雨地科さんのね」

「睦のも混じってるよ」

「ふーん?」




 仕事が長引いていると思っていたらしい陽泰は首を傾げると、恋弥の肩を叩いて、腕を引っ張りながら去っていった。




「手伝ってくれないの……」

「可愛いねぇ。睦が休んでないと思って心配しに来たんだよ」

「でも今日は学校も行ってませんし医務室も閉じてますし、いっぱい休んでます」

「そういう日を定期的に作るんだよ。いくら仕事が楽しくてもたまの休息日は必須だからね。人の命を預かる医者だとかならなおのこと、一人でやってる睦なら尚更ね」



 雨地科は皆から荷物を貰うと、じゃあねと言って帰っていった。





 睦は雨地科に買い与えられたそれを持って、部屋に帰る。



 一人でやってる、か。

 そっか。医務室は睦以外の医者はいないし、医務室は、恋弥や陽泰は関係無いもんな。


 廃教会という病院に関わっていた睦だけが負う責任だ。






 寝床(ベッド)に座って、買い与えられたうちの一つである靴を出した。


 青と白のスニーカー。学校に履いていけるようにあまり派手じゃないかつ、動きやすいように信頼があるブランドの。




 片足ずつ寝床(ベッド)に乗せて、のろのろと紐を通した。






 ずっと同じメーカーの白いスニーカーをサイズ違いで履いていたので、新しいスニーカーってなんだか新鮮だ。



 もう、廃教会じゃないから。閉鎖空間だった廃教会じゃないから、普通の人らしい生活をするのか。
















 久しぶりに一人で出掛けて、廃教会に向かった。




 ただの古い教会。

 周囲の建物は被弾したり落書きされているのに、廃教会の建物だけは綺麗なまま古びている。




 医務室長として先々代の頃からトワイライトで働いた脳之輔が、睦を育てるために作り出した病院。


 皆は子供を育てる環境じゃないなんて言っていたけれど、睦にとっては大切な家。睦という人間を作ってくれた、大切な場所。








 廃教会を前にして突っ立っていると、足に何かが当たった。



 見下ろすと、猫がくっ付いている。


 いつだったか廃教会に忍び込んだ野良猫。茶トラ柄の、あの頃より大きくなっている気もするが。





 傍にしゃがんで頭を撫でた時、人がやってきた。




「ねこ〜……お!? 猫が人に化けた!」



 ハツラツとした中性的な声に顔を上げると、中性的な男が曲がり角から顔を出していた。



「……情報屋(インフォーマー)

「おや? 天使君じゃないか。なんだ、化け猫だと思ったのに。……天使君猫耳生やせないの?」

「生やせたとしてもやらないよ」




 睦の高校のクラスメイトだ。


 名前は知らないが、別の街で情報屋(インフォーマー)をやっている人。なかなかに有名なようでトワイライト内でも何度か話を聞いたことがある。




「君の猫?」

「いや。野良だと思うけど」

「飼いたいんだけど捕まらないんだよね」



 情報屋(インフォーマー)が手を伸ばすと猫は後ろ足で手を蹴り飛ばした。


 睦の向こうに隠れて、睦の手に頭を擦り寄せゴロゴロ喉を鳴らす。



「懐いてるの? いいなー」

「どうにも動物に好かれる(タチ)みたいで」

「人からは嫌われるのにね!」

「野生の本能だよ。天使だからね」




 頭を撫でるとにゃ〜と鳴いた猫を情報屋(インフォーマー)はいいなぁと羨ましがって、睦に撫でられる猫を眺めた。





「そういえば天使君はここで何してたの?」

「別に、何も」

「君はトワイライトでしょ?」

「何もしてないよ」



 睦が立ち上がると猫は睦を見上げ、情報屋(インフォーマー)はチャンスだとでもいうように猫に手を伸ばしたが猫はそれを避けると、歩いて行った睦を見てからどこかへ逃げてしまった。
















 翌朝に本部へ帰ると、ロビーでは陽泰と雨地科が待っていた。


 陽泰はしゃがんでうつらうつらして、雨地科は暇そうに突っ立っている。




「おかえり」

「何してるんですか?」

「昨日の夜中から陽泰が動かないからさ。護衛みたいな」

「寝てます?」

「たぶんね」




 睦が向かいにしゃがむと陽泰は気が付いて、顔を上げた。


 ずっと同じ体勢だったのがよく分かる、腕に埋めていた左顔面が赤くなっている。




「おはよう」

「朝帰り」

「散歩してただけだよ。今日も休みだから」

「……今日も?」

「昨日一件出たら、ボスが今日も休みなって言ってくれたから。立てる? 部屋行こう」




 睦が手を貸そうと立ち上がった時、猫が入ってきた。



 睦の向こうにそれが見えた陽泰は目を輝かせる。



「陽泰猫好きだねぇ」

「陽泰猫好きなの?」

「昔恋弥が廃教会に連れてきた時に、ちょうどこの猫が来て。陽泰の猫好きが開花した日です。先代にバレたらトワイライトが破産するって言うので門外不出の情報になりましたけど」

「偉いね〜」

「陽泰行こう」




 陽泰はしぶしぶ猫から離れると、睦と雨地科と共に部屋に帰った。











 夜中もずっと雨地科が傍にいたそうで、恋弥はどうしたと思っていると七時頃に起きてきた。




「おーす……お? 医務室は?」

「今日も休みもらった」

「昨日出てたもんな。ゆっくりしろよ」

「うん」



 そう返事して本に視線を落とすと、ソファを挟んで後ろから恋弥がくっ付いてきた。



「昨日陽泰大変だったんだからな」

「さっき帰ってきたらロビーで待ってたよ。昨日の夜からいたんだって」

「朝帰りかよ……!?」

「猫と一緒に歩いてたらいつの間にか。やましいことは何も無いよ」

「ち。面白みのねぇ弟だ」

「健全でいいだろうが」

「闇組織所属のくせに何を」

「熱愛中の恋弥とは違うんでね」

「るるに会ってないー……」

「デートでも行ってくれば?」

「んな不用意に行けるかよ……」

「じゃ連れてきたら?」

「もういいよ黙れ」



 役に立てなかったらしい睦はおとなしく口を噤むと、本をめくった。









 昼前になって、陽泰が起きた。

 睦に後ろからくっ付いて立ったまま二度寝した恋弥を起こし、睦は立ち上がると天蓋の中に入った。



「おはよう陽泰」

「うん……」



 体を起こして目を擦る陽泰の頭を撫でると、陽泰は眠そうながらににこにこと笑う。




「お腹空いてる? そろそろお昼だけど」

「空いてる。食べる」

「準備して。降りよう」



 ようやく望みが叶いそうな陽泰が嬉々として布団から出て、睦が天蓋を開けたところで固まった。




「どうしたの」

「腰が……」

「変な体勢で寝るからでしょ?」

「眠かったんだよ……」



 案の定腰をやった恋弥はしばらくソファの背もたれに突っ伏した状態で固まって、その間に陽泰は身支度を終えた。







「恋弥さん大丈夫ですか?」

「動けん……」

「これに懲りたら変な体勢で寝るなよ」



 睦が腰を軽く叩くと恋弥は膝から崩れ落ちて、陽泰は慌てて支える。




「いたかった……」

「陽泰行くよ〜」

「あ、え、待って」



 兄達に振り回される陽泰は恋弥が落ち着いたのを確認すると先に出ていってしまった睦を慌てて追いかけて、恋弥もすぐに追いかけた。




「お昼何かな」

「寿司食べたい」

「夜食いに行くか? しか空いてたら送ってもらおうぜ」

「いいんですか?」

「当たり前だ。三人の休みが揃うなんて滅多にねぇしな!」

「睦もいい?」

「いいけど。俺行ったことないよ?」

「お前はもうちょっと世界を知ろうな」

「自覚はあるんだけどね」




 上機嫌になった陽泰の頭を撫で、三人で食堂に向かった。





「肉の匂い。味噌汁もだな」

「犬め」



 ふと陽泰が睦の腕を掴んで、足を止めた。

 睦も止まって、恋弥は首を傾げる。



「なん?」

「違う音がする」



 恋弥は睦の言葉に首を傾げて、念の為、そっと食堂の中を覗いた。




「あ、やぁ!」

「うぇッ!?」

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