三択芸人カミバラの罠
──笑ってはいけない王国を脱した私たちの次なる目的地は、
《選択式バトルアリーナ・ウケるか否かは君次第》だった。
「なんやその名前!? 完全にバラエティ色全開やん!!」
「この施設に、ボケ四天王の一人、《三択芸人カミバラ》が潜んでいるらしい」
ポチの言葉に、私はげんなりする。
「またおかしなバトル形式か……もう普通に戦わせてぇな……」
「いや、彼の能力は選ばせることに特化してる。正しい選択をしなければ、強制的にデバフ──つまり、笑いの冷えが襲うらしい」
「なんやそのイヤなステータス異常!? すべってスベって体温下がって風邪ひくやつやろ!?」
アリーナの中心には、派手なステージ。スポットライトと爆音SEが鳴り響く中、ピンクのスーツに身を包んだ男が踊りながら登場した。
「YO〜! 今日のゲストはツッコミ界の新星、ツジモト・マナァァァァ!!」
「誰が芸人やねん!!」
「ワタクシがボケ四天王・その三──《選択芸人カミバラ》でぇ〜す!」
ズビシッとポーズを決めるが、客席は無音。
「……なにこの空気……」
「この会場、笑い声すら選択肢なんです」
「意味がわからん!!」
「さあ始めましょう! 第一問!!次の中で、ツッコミとして最も正しい反応を選べ!」
舞台上に突然、でっかいパネルが現れる。
Q:「バナナを耳に挿して登場した敵に対し、適切な反応は?」
①『耳にバナナ入れたまま喋ってんちゃうぞ!』
②『そのバナナ、売りもんですか?』
③『フルーツ系男子、登場!』
「おい全部ボケてるやないか!!!」
「選択肢にツッコミの正解はひとつだけ。間違えると冷笑の霧で笑いの力を奪われます」
「ふざけたシステムやなぁ!? けど……あえて言うなら、①や!」
正解のSEが鳴る。ピンポーン!
「お見事ぉぉぉ!! じゃあ次いってみよ〜う!」
──そう、このアリーナではツッコミの精度が勝負の鍵になる。
選択肢の中に紛れ込む、本物のツッコミを見抜き続けねばならない!
しかし、問題はどんどん悪質に──
Q:「笑いを忘れた戦士に向かってかけるべき言葉は?」
①『笑いは魂の筋トレや』
②『その眉間のシワ、もうギャグや』
③『……泣いてる?』
「うわ、これは難しい……③は情に訴えてくるし、②は皮肉強すぎるし……でも──選ぶしかない!」
「私は……①!」
ピンポーン!
「またしても正解! いいねえマナちゃん!
けどそろそろ、サービス問題は終わりだよ〜?」
──ここから先は、間違えれば一発アウトの究極三択へ。
カミバラの表情が真剣になる。
「次は……ボケ四天王からの本気の三択。君のツッコミの信念が問われる──!」
私は拳を握る。
「どんな問題でも、笑いと常識のバランスを見抜いてみせる……!」
「さあマナちゃん、いよいよ究極三択バトルのはじまりだよ〜!」
アリーナに響き渡るカミバラの声。
観客席は……いない。最初から無観客試合だった。演出だけ豪華なのが余計腹立つ。
「観客ゼロって、お笑い芸人として致命的やろ!」
「それも試練の一部……ウケると思って誰も見てない……芸人地獄だよね〜」
「言うてて泣きそうなってへん!?」
──バシュッ!!
カミバラが投げ出す三枚の札が、空中で輝く。
「この選択に間違えば、スベり倒しの呪いが発動。ツッコミ魔法は無効化。そして君は、永遠に笑われることのない存在になる」
「……なにその地味に怖い呪い!!」
Q:『大魔王の城に突入した仲間が、なぜかスリッパ片手に走ってきた。どう反応する?』
①『勇者なのに足元ユルユル!』
②『その装備、実家感あふれてるな!?』
③『お前、勝ちに来てるんか!?』
「どれもクセ強い……! けどツッコミって、ボケを受けて核心突くことやろ」
私は深呼吸して、選ぶ。
「③……!」
──ピンポーン!!
「正解ぃぃぃ!! やるねぇマナちゃん!状況への鋭い一言、完璧!」
カミバラが、一瞬だけ本気の顔を見せる。
「……次が最後の三択だ。これは、笑いの存在そのものを問う問題だよ」
Q:『人がボケをやる理由とは?』
①『注目されたいから』
②『世界が真面目すぎるから』
③『誰かに、笑ってほしいから』
「……っ」
すべての選択肢に、それなりの理由はある。
でも──私は、迷わず言った。
「③。ボケって、誰かを笑わせたいって気持ちから始まるもんや」
──キィィン……!
音が消え、空間が白く光る。
「──君のその言葉、信じてたよ」
カミバラの声が、静かに響く。
「僕がボケ四天王に入ったのは、本当のツッコミに会いたかったからだ。見事だよ、マナちゃん。君のツッコミは──人を救う力を持ってる」
バラバラバラッ!
彼の身体が崩れ、カードの束へと還っていく。
「……ありがとう。そして……また、舞台で」
──そう言って、三択芸人カミバラは去った。
「ふぅ……なんとか勝てたけど……心理戦すぎて胃が痛いわ……」
「だが、これでボケ四天王も三人目撃破。残るは一人……」
「うん。笑わせてくる系の狂気魔女──名前はたしか、メロ=ブハハ……」
「そう、巨笑姫。最後にして最悪の敵やな」
──次なる戦いは、ツッコミすら笑わされる危険領域。
「ツッコミが笑ったら、終わり……!?」
「うん、次は──絶対に笑ってはいけないツッコミ編や!!」