ツッコミ封印村と最古のボケ
魔王を倒し、世界に平和が戻った──
……かと思いきや。
「異世界全体に、新たなボケ波が発生中です!」
ポチが地図を広げながら告げる。
「えぇ!? サルグレア倒したばっかやのに!?」
「これは、古代遺跡の奥深く、ツッコミ封印村から発せられている波動……」
「ツッコミ封印村て何やねん!? なんか嫌な響きやで!?」
「簡単に言えば、ボケの起源が封印された場所らしい。そこに何か異変が起きたんだ」
カイルが、謎の地図を逆さまに持ちながら言った。
「それ逆や!!」
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──そして、私たちはやってきた。
ツッコミ封印村、別名《ヨシナ村》
村は静まり返っており、住民はなぜか全員無言。
しかも──ボケすら存在しない。
「……この空気、やばくない?」
「まるで、ツッコミが失われた世界……」
私たちは、村の長老に話を聞く。
「この村は、かつてツッコミを封印した者たちの末裔じゃ……。ボケは世界を狂わせる──ツッコミもまた、争いを呼ぶ──そう信じてな……」
「そんなんで、ほんまに笑える世界になるわけないやん!」
思わず叫んだ。
その時、長老が小さな巻物を手渡してきた。
「これが、太古の記録。最古のボケが封印された場所を示す地図じゃ……」
──そこには、《遺跡バラエティ・テンコ盛り遺構》の名が。
「なんやその名前!?」
「ここでツッコミが、初めて発動したという伝説がある。あまりにも強烈なボケに、誰かが思わずツッコんだ──その瞬間、世界に常識が生まれたと」
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翌朝、私たちは村の奥にある封印遺跡へと向かう。
入口には、巨大な石碑がそびえていた。
『ここに、すべての元凶が眠る。突っ込むか、突っ込まぬか。その選択が、世界を分ける』
「なんか重っ……てか、これ読んでる時点でツッコミ誘導されとるよな?」
「フラグ感すごいよな」
「いや、これは完全に笑いの禁書やろ……」
──そのとき、地鳴りが響いた。
遺跡の扉がゆっくり開く。中から、ぶわぁっと濃すぎるボケ気があふれ出す!
「うっ……この感じ……頭が痛い……」
「ここから先は、常識の通じない領域かもしれん」
ポチが警告する。
「それでも、行かなきゃ。本当のツッコミの意味を、知るために!」
私は前を向く。
「来い、みんな。ツッコミの起源、暴いたるで!」
──《テンコ盛り遺構》
異世界における最古のボケが封印された場所。
私たちは、遺跡の奥へと進んでいた。
「ぐっ……また空気が濃くなってきた……!」
「この感じ、まるで……笑ってはいけない24時間のラスト直前並みの圧だ……」
「それテレビ業界の闇な!? なんで遺跡でバラエティ味増してんのよ!?」
ズガァン!
ツッコミ魔法で空気をかき分け、私は進む。
やがて、最奥にたどり着くと──
そこには、石像が立っていた。
だが、それはただの像ではない。
ツノの生えた顔、無意味に長いネクタイ、Tシャツに「犬」と書かれている。
「……なにこのデザイン……不条理すぎる……」
「これは……伝説の存在、始まりのボケ神──《バク=ボケール》です」
ミレイが呟く。
「全てのボケの根源。笑いの混沌を生む存在。その姿を見た者は、突っ込まずにはいられないと言われています」
「じゃあ見るなよおぉぉおおおお!!」
ズガァァン!
だが、その瞬間──像が、動いた。
ゴゴゴゴゴ……
「──来たか、最終ツッコミ使いよ……」
その口が開いた。
「左手に持つのは右手──どうだ、意味が分からないだろう?」
「意味が分からないのを開き直るなぁぁぁああ!!」
ズガァァァン!
だが、手応えがない。
「通じぬよ。我は原初のボケ──ツッコミ魔法では、反応できぬ存在なり」
「え……!? 通じひんの!? そんなのアリかいな!?」
──そう。これは、あまりにも純粋すぎるボケ。
善悪も理非も超越した、ただそこに在る混沌。
「くっ……じゃあ、どうすれば……」
その時だった。
サルグレアが現れた。
「マナさん……私が補助します。あなたの人間的なツッコミなら、届くかもしれません」
「……人間的な、ツッコミ?」
「魔法に頼らず、自分の感情でぶつけるツッコミです。あなたなら──常識の心で、それができるはず」
私は深呼吸した。
そして──真正面から、叫ぶ。
「お前……そんだけインパクトあって、何も意味ないって……せめて一発ギャグのひとつでも言わんかい!!」
──ビキッ。
像に、ヒビが入る。
「ッ!? これは……魂のツッコミ……!」
「ボケるんは自由や。けどな、見る側の心を、無視すんなぁぁああああ!!」
ズガァァァァァァァァァン!!!
──石像が、砕けた。
世界に渦巻いていた起源のボケ気が、ゆっくりと霧のように晴れていく。
──すべてが終わったあと。
私は静かに問いかける。
「ツッコミって、やっぱり……正すことやないんやな」
「うむ。たぶん、伝えることや」
ポチが頷く。
「それ、気づいてへんで?とか、もっと面白くなるで?とか……そうやって、誰かに届くのが、本当のツッコミなんやろうな」
「……せやな。私、まだまだツッコミ道、学ぶこと多いわ」
──そして私たちは、また次の旅へ出る。
どこかに潜む、新たなボケとツッコミのために──